【第51回】『対決』(ジョン・フランケンハイマー/1990)

アメリカと旧ソ連が冷戦時代を終結させてまもない頃、
西ドイツとチェコスロバキアの国境地帯で睨み合う
米軍ノールズ大佐(ロイ・シャイダー)とソ連軍ヴァラチェフ大佐(ユルゲン・プロホノフ)。

ノールズは勇敢かつ有能な軍人で部下からは尊敬されたが、
性格に難があるため上官からは疎まれている。

ある日、西ドイツとチェコスロバキアの国境線上で
西ドイツに亡命しようと逃げて来た男が、旧ソ連軍に射殺される。

80年代の究極のトンデモ映画とも言われる
フランケンハイマーのゴリゴリの戦争映画。

戦争映画とはいえ、米軍と旧ソ連軍がいがみ合うのはクライマックスくらいで
1時間30分の本編のほとんどは、いきり立つロイ・シャイダーの過激な行動と
それに激情するユルゲン・プロホノフのつばぜり合いのみで進行していく。

冒頭の大佐同士の出会いの場面こそ、
亡命者を背中から打って殺す旧ソ連軍の大佐の冷酷さが描かれるが、
その後は明らかに旧ソ連側に非がない中での、米軍大佐の身勝手な単独行動に笑ってしまう。

このノールズという男はベトナム戦争の功労者で勲章ももらっているのだが
あまりにも目の離せないアクの強さから、西ドイツの国境地帯に左遷されている。

この男が、亡命者を目の前で殺されたことに腹が立ったのか
それとも旧ソ連軍大佐に雪を投げたら、
投げ返されて命中したことに腹が立ったのかはわからないが
クリスマスの夜にウィスキーを呑みながら、国境を侵犯する 笑。

敵軍の若者3人に自分あてのハッピー・バースデーの歌を歌うことを強要し、
旧ソ連軍の見張りの管制塔に火を放って全焼させるなど、
大佐とは思えない国益を損なう行動のオンパレード 笑。

それに激怒した旧ソ連軍が彼の乗って来たジープを爆破し、
堪忍袋の緒が切れた主人公の前に、西ドイツに亡命しようと目論む女が現れる。

ある意味ランボーより気が狂った米軍大佐を
『ジョーズ』のブロディ署長役や『フレンチ・コネクション』の刑事役で有名な
ロイ・シャイダーが熱演している。

対する旧ソ連軍大佐役を『U・ボート』の艦長だったユルゲン・プロホノフが熱演。

この2人の対立を苦々しく思う主人公の上官役を
ペキンパー映画やヘルマン映画でお馴染みで
80年代には傑作『パリ、テキサス』であまりにも有名な主人公を演じた
名脇役ハリー・ディーン・スタントンが演じる。

基本的にはこの3人の攻防にかなりの時間と労力が割かれ、
亡命者の女性のエピソードは添え物程度のいつものフランケンハイマー節が冴える。

この映画が素晴らしいのは、
何と言っても冒頭の赴任シーンの車移動だろう。

様々な角度から撮られたドライブ・ショットのつなぎの上手さは
流石フランケンハイマーと大いに唸ってしまうクラシックな強度を讃えている。

あのタイトルバックの高揚感こそ、この映画の全てと言いたくなるのだが 笑、
クライマックス前のヒッチコックばりの車内サスペンスがこれまた素晴らしい。

必要なショットが過不足なくびしっと決まり、
ショットが雄弁に物語るという今ではアメリカ映画から失われてしまった何かが
89年のフランケンハイマーには確かにある。

安直な人間ドラマとか暗喩的に語られるベトナム戦争の恥部とか
組織の組織としての息苦しさとか、退役軍人の時代錯誤の判断とか
そういう見えない伏線を張るのもフランケンハイマーは確かに上手い監督だが
彼が本当に描きたかったのはクラシック・カーと
あの実に活き活きとしたタイトル・バックだったんじゃないかなとさえ思う。

極寒の撮影の中で、主人公を演じたロイ・シャイダーは肋骨を複雑骨折
ユルゲン・プロホノフは股関節の脱臼という大ケガを負いながらも
最後まで皇帝フランケンハイマーに尽くしたらしい。

西ドイツとチェコスロバキアの国境地帯に見立てたカルガリーで
大掛かりなオープン・セットにヘリまで飛ばして撮影された作品だが、
その仕上がりは『ダイ・ハード』のような大味で野心的な大作ではなく、
どこか古めかしいかつての男たちの悲しい悪あがきのようにも見える。

全国の草食系男子は、フランケンハイマーとオルドリッチから男を学べ。

【第29回】『レインディア・ゲーム』(ジョン・フランケンハイマー/2000)

囚人のルーディ(ベン・アフレック)は、
刑務所内で殺されたニックになりすまして、出所後、
彼の文通相手だったアシュリー(シャーリーズ・セロン)に接近するが、
彼女の兄カブリエルに拉致され、カジノ強盗に加わる羽目になってしまう…。

『フレンチ・コネクション2』『ブラック・サンデー』等
男のアクション大作を撮らせたら右に出る者はいないフランケンハイマー最晩年の作品。

1930年生まれだから、彼が70歳の時の作品。
流石に画力、演出力ともに落ちているし、二転三転する物語もどうも説得力に欠ける。

刑務所〜モーテル〜カジノという三段構えの設定自体は悪くないし、
カジノの内部の群衆シーンはベテランならではの上手さがある。

ああいうエキストラを集めたシーンでは、適当に人間を配置しても駄目なんだとわかる。
主人公の視点と犯人側の視点、そこに介入する第三者の視点があって初めて成立する。
そこにプラスαの要素として絡んで来るウェイターがまた素晴らしい。

それは冒頭の刑務所内での食堂のシーンも然り。
主人公たちの背後から彼らを付け狙う男の憎悪の視点を描くことで、
何かが起きる予感を観客に抱かせて、まんまとそこに仕掛けを持って来る。

そういう群衆シーンの用意周到な演出は、
1930年代生まれのフランケンハイマーならではだろう。

モーテルのシーンもベン・アフレックが窓から逃げ出したところから、
彼に気付かない犯人側の目を何気なく描くことで、サスペンスを醸造する。

サスペンスといっても、ただ部屋に犯人側よりも早く戻れるかだけなんだけど 笑、
そのサスペンスの中に兄妹の隠された関係に気付く瞬間を巧みに盛り込んでいる。

散弾銃を小屋に打つことで、残酷なシーンを見せない演出も良い。
何を見せて何を見せないか取捨選択が非常にはっきりしている。

ただクライマックスのどんでん返しと
そのどんでん返しに持って行くための辻褄合わせの脚本はいただけない。

そもそも刑務所の独房に入れられた黒人が、
あの後一度も出て来ないという演出はいかがなものなのか 笑?

あとはシャーリーズ・セロンとゲイリー・シニーズが
兄と妹であるという設定の必然性の有無が最後までよくわからなかった。

そして死んだはずのジェームズ・フレインが生存している気配の演出だよなぁ。
例えば雪山の映画なんだから、新雪についた足跡とかタバコの吸い殻とか
もっと古典的な方法なら影とか、何らかの形で生存している演出はしないと駄目だと思う。

しかしベン・アフレックほど間抜けな男を演じさせたら最高な役者も珍しい。
ケヴィン・スミス然り、フィンチャー然り、リンクレイター然り、フランケンハイマー然り、
やっぱりわかる人にはこの人のボンクラ加減がはっきりとわかるんだなぁと。

自分で監督した『アルゴ』や『ザ・タウン』の2枚目の主人公よりも
2.5枚目の情けない主人公の方が明らかにベン・アフレックには似合っている。

脇を固める俳優陣も巨匠フランケンハイマーだけに
デニス・ファリーナとかダニー・トレホとかアイザック・ヘイズとかなかなか渋い人選で楽しめる。

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