【第27回】『走れ走れ!救急車!』(ピーター・イェーツ/1976)

急病人を病院に運ぶ民間の救急会社で働く人々が、
さまざまな人々の命を救う様子をユーモラスに描いた70年代の忘れえぬ1本。

セコい社長にアレン・ガーフィールド。
オフクロと呼ばれる黒人のドライバーにビル・コスビー
レズビアンと疑われるセクシーな通信係にラクエル・ウェルチ
麻薬が原因で刑事を停職になった男ハーヴェイ・カイテルら
極めつけのキャラクター達がドタバタを繰り広げる。

意外性のある配役とかあっと驚くような脚本もなく、
予想通りの展開で物語が進む。その予定調和が実に心地良い。

プロレス会場、大学、ゴルフ場、スーパー・マーケット
病人を運ぶことは普通シリアスにならざるを得ないと思うんだけど、
それぞれの場所に個性豊かなキャラクターがいて飽きさせない。

特にふくよかな黒人女性を下まで運ぼうとするシーンは、
初見ではないのに腹を抱えて笑ってしまった。

そういう個別の挿話の面白さに加えて、
中盤イエーツらしいカーチェイス・シーンもある。
まるで『ブリット』さながらの緊迫感を持ったパトカーとの追走劇は
まさにウェルメイドな魅力に溢れている。

コミカルな物語の中にも、途中救急車内での出産シーンもあり、
人の命を救うこと、命の大切さに気付かされる。

失意のラクエル・ウェルチに対して、
ビル・コスビーが語りかける言葉の意味はあまりにも重い。

散々笑わせておいて、時にシリアスに考えさせるのも、
職業監督イエーツの本領発揮と言えるのかもしれない。

けれどそれも一瞬の出来事で、最後のろう城〜銃撃戦のシーンでは
そんな馬鹿なという銃撃戦が繰り広げられる。

ここでも権力を持った者の無知な暴力が、一般市民に向けられる。
アメリカン・ニュー・シネマの残り香を感じるような、実にあっけない幕切れである。

しかし70年代のハーヴェイ・カイテルの
センセーショナルな労働者階級のヒーローぶりは特筆に値する。

スコシージと組んだ『ミーン・ストリート』『アリスの恋』
アルトマンと組んだ『ビッグ・アメリカン』と決して数は多くないが、
デニーロ、パチーノに負けずとも劣らないワーキング・クラス・ヒーローぶりが素晴らしい。

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