【第11回】『ルトガー・ハウアー/危険な愛』(ポール・ヴァーホーヴェン/1973)

冒頭、主人公らしい男の殺人のシーンで唐突にスタートし、
次に荒廃した部屋のベッドの上で男がオナニーをしている。

この冒頭5分間の脈絡のない映像の羅列は観るものを戸惑わせる。

ヒッチハイクのシーンで初めて出会った男女が、
パーキングで数分後に激しいSEXをした後、交通事故に遭う。

2人は周囲の人間を巻き込みながら、唐突に出会いと別れを繰り返す。
破水、嘔吐、真っ赤な汚物、蛆虫といったヴァーホーヴェンお得意の憎悪の羅列の中で
はっきりと見える2人の純愛は観るものの心を震わせる。

ハリウッド映画のストーリーテリングを一切否定し、
過去と現在が断続的に配置されたショットのつなぎもあり、
ストーリーを掴むのは困難を究めるが、
ヌーヴェルヴァーグの作品群のような屋外撮影の瑞々しい運動性と
日活ロマン・ポルノのような猥雑さを同時に併せ持った不思議な作品である。

少なくともこの時点では、
後にアメリカで大作を撮るような野心は一切無いように見えるし、
独特の冷たさを持った嘲笑の視点からは、愛の狂気を十分に感じ取ることが出来る。

トリュフォーの『突然炎のごとく』を意識しながら撮ったこの映画は
トリュフォー以上の驚くほどの心的トラウマを持った力強いショット群に支配される。

時間の断絶はもちろんのこと、
時折挿入される詩的な場面が、汚物だらけの映画から一番純粋なものを取り戻す。

特に素晴らしいなと思ったのは、このyoutubeの映像にもあるが、
どしゃぶりの雨の中で束の間の時間を過ごす2人のシーンと
絶望的な別れを迎えた主人公が、鳥を海空に放つシーン。

醜さの中に美しさがあり、美しいものの中に烈しい憎悪を見る。
ヴァーホーヴェン映画の根底にある美意識が冴え渡っている。

ヒロインを演じたモニク・ヴァン・デ・ヴェンと
この映画で初めてヴァーホーヴェンとタッグを組んだ
撮影監督のヤン・デ・ヴォンは後に結婚する(その後離婚)

ヴァーホーヴェンとデ・ヴォンは師弟関係のような間柄だが、
『ロボコップ』『氷の微笑』でハリウッドで黄金時代を築き、
後の『ショー・ガールズ』や『インビシブル』でアメリカを追われたヴァーホーヴェンと
『スピード』『ツイスター』で大ヒットを記録しながら
2003年の『トゥームレイダー2 』以降、
ハリウッドからまったくお呼びのかからなくなってしまったデ・ヴォンの運命はよく似ている。

ヴァーホーヴェンは70代になった今も本国オランダで
便器の中の真っ赤なタンポンのアップを撮ったり、巨匠らしからぬ映画を撮り続けている。

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