【第1010回】『ショーガール』(ポール・ヴァーホーヴェン/1995)


 ラスベガスの路上、ヒッチハイクをするノエミ・マローン(エリザベス・バークレー)はスター・ダンサーになるという夢を持ちながら、トランク一つでこの地にやって来た。幸運にも僅か数台でヒッチハイクは成功。ジェフという男の誘惑にもナイフで応戦し、ラスヴェガスのカジノに辿り着いた女は、スロット・ゲームで一山当てる。だがその後はひたすら負け続け、気付いた時にはトランクケースごとジェフに奪われ逃げられてしまう。悲嘆に暮れたノエミは隣に停めてあった車に八つ当たりしたところ、持ち主のモリー(ジーナ・ラヴェラ)に助けられる。女同士の熱い抱擁とディープ・キス、ヒロインは仕事が見つかるまでの条件でモリーの家に居候する。超高級ホテル「スターダスト」で開催中のショー「女神」の衣装係のモリーに連れられ、「女神」のトップスター、クリスタル(ジーナ・ガーション)を紹介してもらうが、彼女に冷たくあしらわれる。その夜、ノエミがヌードダンサーとして踊っている三流クラブ「チーター」に、「女神」の興行主でもあるザック(カイル・マラクラン)を連れたクリスタルが訪れた。クリスタルはノエミに、ザックを大胆に挑発するプライベート・ダンスを踊るように命じる。屈辱的なダンスは、いつしか男女3人のラヴ・ゲームに変わり、ザックはノエミに圧倒され、クリスタルもまた彼女に魅了される。

 ラスヴェガスに来たばかりのヒロインと「女神」のトップスターであるクリスタルの女同士の激しい戦い。ザックを交えた三角関係とノエミの立身出世のシンデレラ物語。ステージの内外でキャットファイトを繰り広げる女たちのプライドは、惜しげも無く裸体を晒しながら男たちの欲望のはけ口になっても、根っこの欲望は揺るがない。一攫千金とラスヴェガスの女神の座を賭けた女同士の闘い、渦巻くセックスと暴力に塗れた恥部。氷で乳首を勃起させるノエミとザックの人差し指に頼るクリスタルの対比、黒人ダンサーであるジェームズ・スミス(グレン・プラマー)との仄かなロマンス、ノエミの才能を理解したはずのジェームズの口説き文句の自己肯定感に女は喜ぶが、終盤のジェームズの敗北感に女の気持ちは一瞬で離れて行く。ジャネット・ジャクソンやポーラ・アブドゥルに比すると称された女は、自分の地位を高めてくれる男には簡単に股を開くが、それ以外の男には一切身体を売らない。シャンパンしか呑まないザックの邸宅、プライベート・プールでの野獣のような水中セックス。階段から突き飛ばした女の野心とアンドリュー・カーヴァーの卑劣なレイプ。この年のラジー賞6冠を受賞した不名誉な作品は45億円の製作費の半分も回収出来ず、90年代最低作品とも称されるが、求められるものを与えながらも絶対に消費されない女たちの姿は極めて現代的に映る。

【第1009回】『氷の微笑』(ポール・ヴァーホーヴェン/1992)


 天井の鏡に映った男女のまぐわう姿、キング・サイズのベッドの上、騎乗位で乱れる女はシルクのスカーフで男の両腕を固定し、アイスピックで男の心臓目掛けてめった刺しにする。元ロックスターでナイトクラブ経営者のジョニー・ボズの惨殺死体、傍らにはコカインが置かれ、その反応はペニスの先からも微量に検出される。サンフランシスコ市警察の刑事ニック・カラン(マイケル・ダグラス)と相棒のガス・モラン(ジョージ・ズンザ)は、被害者の恋人で美人女性作家のキャサリン・トラメル(シャロン・ストーン)を容疑者として真っ先に疑う。彼女の住所に着いた2人の刑事が尋問するのは、キャサリンではなく彼女の友人のロキシー(レイラニ・サレル)という女性だった。キャサリンは別の豪邸にいると教えられた2人は現場へと急行する。そこでは海を眺めるキャサリンの涼しげな姿があった。色白のボディにすらりと伸びた脚、うっかり着替えを覗いてしまったニックはその妖艶さの虜になる。ベス・ガーナー医師(ジーン・トリプルホーン)のカウンセリング室、ニックはいつものように診断を受けるが、動揺を隠すように軽く受け流す。キャサリンは数ヵ月前に今回の事件そっくりのミステリー『愛の痛み』を発表しており疑惑は増すが、彼女は警察の尋問を軽くクリア。キャサリンは次回作に、以前捜査中に誤って観光客を射殺してしまい「シューター」(早撃ち)とのあだ名をもつニックをモデルに小説を書くことを告げる。

 前作『トータル・リコール』で露わになったシャロン・ストーンの魅力は今作で華開く。圧倒的な美貌と不敵な笑み、男を翻弄するようなファム・ファタールな魅力に溢れたキャサリンは、エイドリアン・ラインの『危険な情事』に続き、SEXの虜になったマイケル・ダグラスを誘惑する。一見、サンフランシスコ市警の敏腕刑事に見えるニックの正体とベストの因縁、深い病巣を背負った男は汚職事件に関わるファイルがキャサリンの手に渡っていたことを知り、激怒する。だが内務課の捜査官ニールセン(ダニエル・フォン・バーゲン)に激昂する男は自分自身が疑惑の標的になるとは微塵も思っていない。ローレンス・カスダンの81年作『白いドレスの女』を真っ先に連想させる物語は、螺旋状の階段、休職を言い渡された主人公の焦燥、ファム・ファタールなヒロインへの絶対的な盲目など、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』や『サイコ』のようなサスペンスをあからさまに彷彿とさせる。華麗な運転技術を持ち、ニックの過去を入念に調べ上げ、常に彼の2歩3歩先を行くキャサリンの行動パターンはまさに彼女の書き上げた小説の題材と瓜二つに映る。「ビーチハウスへ」と書かれた置き手紙、背中に立てた爪、ロキシーとの生死を賭けたカー・チェイスを経て、やがて明らかになるキャサリンとある女性との緊密な関係性。正当なファム・ファタールというよりも、むしろバイ・セクシャルでサイコパスに近いキャサリンの姿、揺りかごに揺られる彼女と、警察での尋問で足を組み替える女の姿に男たちはただただ惑わされる。

【第1008回】『トータル・リコール』(ポール・ヴァーホーヴェン/1990)


 近未来の地球、ゴツゴツとしたオレンジがかった岩山、防護服に身を包んだ2人の男女は下へ落下するために手を握り、互いの気持ちを確かめ合う。だが下へ降りた途端、男のヘルメットが割れ、酸素が薄く気圧が低いため目が飛び出し、見る見るうちに顔がパンパンに膨れ上がる。ダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は絶叫を残しながら、悪夢から目覚める。傍らには妻のローリー(シャロン・ストーン)が悪い夢から目覚めた夫を優しく介抱する。火星反乱組織クアトー(マーシャル・ベル)のニュース、TVモニターをじっと見つめる夫の視線を遮るような妻の誘惑、結婚8年目の夫婦は日頃の疲れを癒そうとヴァカンスの夢を描いている。夫の目に飛び込んだTVモニターの「リコールで夢のバカンスを」の広告、掘削場で力仕事に従事する夫は妻に反対された火星旅行を夢見る。その日訪れたリコール社、同僚の労働者ハリー(ロバート・コスタンゾ)から反対されながらも、クエイドはリコール社へ出向き、「秘密諜報員として火星を旅する」というコースを選択、夢の中のパートナーとなる女性の顔をモンタージュで選び、注射によって眠りにつくが、突然男はわめきながら暴れ出す。ようやくたどり着いた自宅であろうことか、妻のローリーの急襲を受けたダグラスは、「クエイドの記憶は全てニセモノであり、自分は妻ではなく、クエイドの監視役である」と告げられてしまう。

 『ブレードランナー』の原作者でもあるSF作家フィリップ・K・ディックが1966年に発表した小説『追憶売ります』を原作とする物語は、主人公の意識と記憶の差異を明らかにする。火星に行った記憶がない男の半生は、上層部の人間たちによって都合よく書き換えられた記憶である点が、ヴァーホーヴェンの前作『ロボコップ』の主人公アレックス・マーフィ(ピーター・ウェラー)と被る。クエイドは自分の記憶を取り戻すために火星へと向かう。悪夢にうなされるクエイドの夢に登場するローリーではない誰かのイメージ、コーヘイゲン(ロニー・コックス)の磁場と圧力、「カナダのジャック・ニコルソン」ことデヴィッド・クローネンバーグ監督の『スキャナーズ』で一躍有名になったマイケル・アイアンサイドの起用など、アクション映画としての意匠を保ちながら、最低限のSF映画としてのフィリップ・K・ディックへの敬意は垣間見える。何が正しくて何が間違っているのか指針すらもグラつく急性分裂症と診断された男は、最後の楽園で再会したメリーナ(レイチェル・ティコティン)と出会い、彼女の声に耳を傾ける。火星には植民地があり、多くの人類が居住しているが、酸素が薄く気圧が低いため防護服無しでは建物の外に出られない奇妙なバランスに苦しめられる。おぱいが3つある風俗嬢、5人の子供を持つベニー(メル・ジョンソン・Jr)のタクシー、50万年前にエイリアンが作ったリアクターを目指す男の野望は、メリーナとの永遠の愛に揺れる。

【第1007回】『ロボコップ』(ポール・ヴァーホーヴェン/1987)


 近未来のミシガン州デトロイト、街は荒廃し、犯罪が増加していた。TVモニターに映された陳腐なニュースの数々、巨大コングロマリット企業「オムニ・コンシューマ・プロダクツ」(オムニ社)によって民営化された警察を含む街全体が支配されていた。そんな中、オムニ社は未来都市「デルタシティ」の建設を予定していた。事件で危篤となったフレデリック巡査の代わりに、オムニ社の指令で南署から転属して来たアレックス・マーフィ巡査(ピーター・ウェラー)は早速相棒の女性警官アン・ルイス(ナンシー・アレン)と共に街へ出て行く。一方その頃オムニ社では、副社長であるジョーンズ(ロニー・コックス)らによって開発されたロボット「ED-209」が、銃を捨てたことに気付かずに社員のケニー(ケヴィン・ペイジ)を射殺、計画は白紙に戻される。ジョーンズとは別に独自のロボット開発を予定していたロバート・モートン(ミゲル・フェラー)はこのチャンスを利用し、その開発に着手する。しかし、そのためにはロボットの候補となる「人間」が必要であった。指名手配中のマフィア「クラレンス一味」を追っていたマーフィーとルイス。応援の警官の到着に20分かかると言われた2人は一味の隠家を発見し、潜入するも敵に捕まり、マーフィーは腕をショットガンで吹き飛ばされ、防弾チョッキに無数の銃弾を浴びた後、頭を撃ち抜かれ即死する。

 近未来を舞台にしたSFアクションは、80年代のレーガン政権への痛烈な風刺に他ならない。TVモニターから流れる心底陳腐な映像では、国防用レーザーの誤作動により、100人以上が犠牲となっている。荒廃した街に転属となったマーフィには愛する妻と子供がいるが、出勤時に手を振って見送られた一家の大黒柱は、転属早々の殉職という悲劇に遭う。そもそもルイス警官と組まされた時点で、捨て駒だとしか思われていない。過激な人体改造を施されたマーフィは「ロボコップ」として生まれ変わる。①公共への奉仕、②弱者の保護、③法の遵守というオムニ社の3つの教えがプログラミングされた男は、強盗、婦女暴行、市長誘拐と順調に治安の悪化を防ぐものの、徐々に悪夢のような幻視に悩まされる。ルイスにより「マーフィー」の名を提示された男は、自分のルーツを探り始める。引っ越したばかりのデトロイトの3人暮らしの部屋、既に引き払われた部屋の中身、幸せだった頃の妻エレン(アンジー・ボーリング)が夫を優しく向かい入れる。だがそれは既に彼の現実ではない。階段で意外な弱点を見せる「ED-209」の末路、オムニ社の醜い立身出世の内部争い、3つの教えがプログラミングされたサイボーグには、加えて4つ目の教えが彼の野心を阻む。鋼鉄の仮面を外し、異様な頭部を剥き出しにするロボコップの姿は何度観ても胸に迫る。徹底して陳腐な映像は資本主義の行く末を暗示し、主人公の哀れを一層際立たせる80年代の紛れもない名作である。

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