【第9回】『地獄の逃避行』(テレンス・マリック/1973)

断片ではなく、丸々本編1本をゆっくり落ち着いて観るのは何年ぶり
という感じだったが、久しぶりに観てもなかなか面白かった

当時は監督の稚拙さに思えた女性目線の独白形式も、
今のマリックのスタイルを見れば、むしろ最初から明確に提示されていたんだなと改めて。

あの金持ちの家の聾唖のお手伝いと家主も、実際の事件では殺されたはず
それを殺さなかったり、ラストも女性目線の語り口とおとぼけなジョークで締めたのは
ニューシネマの終焉をマリック自身もどこかで悟っていたに違いない。

ネブラスカへ向かう道中で、ゆっくりとカメラが被写体を離れていき、
豊かな自然の中に2人の逃亡者が溶け込む様子を淡々と捉えた映像は
処女作にして既に大物の風格すら感じる。

もはや絶対にやらないだろうカー・チェイスのシーンもなかなか手堅い。
追っ手の人格を一切描かないのも、
ドラマツルギーよりも詩的な映像こそを重視するマリックだからこその輝きを放つ。

ちなみに若い人に言っておくと、『ムーンライズ・キングダム』は
中盤の森に逃げ込むシークエンスへの熱烈なオマージュね。

個人的にはウォーレン・オーツとマーティン・シーンがもっとバトルして欲しかったが 笑、
この映画ではそばかすだらけのはすっぱな15歳を演じたシシー・スペイセクを観て、
後にデパーマが『キャリー』の薄幸のヒロインに彼女を指名したのも頷ける。

この酷過ぎる邦題も、コッポラ『地獄の黙示録』のマーティン・シーンにちなんでのもの。
最初はその程度の扱いで劇場公開も見送られた作品が、
今では『地獄の黙示録』よりも重要な作品とされているというのも何たる皮肉かと思う。

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