【第661回】『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(スティーヴン・フリアーズ/2016)

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【第508回】『疑惑のチャンピオン』(スティーヴン・フリアーズ/2015)

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【第61回】『殺し屋たちの挽歌』(スティーヴン・フリアーズ/1984)

ムショに入るのが嫌で強盗仲間を裏切り、
スペインに隠れ住む男の元へ二人の殺し屋が現れた。

二人の目的は、組織のボスが待つパリへ男を連行すること。
偶然誘拐事件に巻き込まれた少女が加わり、奇妙な4人の旅が始まる。

冒頭、10年前に起きた事件の顛末が描かれる。
銀行強盗の一味を裏切った主人公が法廷で裁かれ、恩赦になる。

この一連の描写を縦の構図を巧みに使いながら、
室内をなめるように歩く流麗なカメラワークで描く。

裁判のシーンも有り得ないカメラワークと構図で
前半15分だけ観ても、フリアーズの才気がほとばしっている。

裏切り者として昔の仲間から命を狙われるのが嫌で、
スペインに隠れ住む主人公を、金で雇われた若者たちが彼を拉致し連れ去る。

若者たちは中継先で金を受け取るが、直後に爆破によって殺される。

用意周到な計画の裏で糸を引いているのは
2人の殺し屋ジョン・ハートとティム・ロス。

ジョン・ハートは一見冷静そうに見えるが、神経症でどこか臆病な男。
それに対して若き日のティム・ロスは喧嘩っ早く、人の意見に左右されるお調子者で
この2人の対照的な関係性が非常に良い。

一見用意周到に思えた計画も、
誰もいないはずのホテルに寄ったことで微妙に歯車が狂っていく。
殺し屋たる者、一番大事なのは決断だと思うが、
ジョン・ハート扮する兄貴分は殺すという決断がなかなか出来ない。

4人でビールを呑もうとするが、一人葛藤するハートは階段を上がりしばし悩む。
男をベランダに連れて行き、高層マンションから縦の構図で転落を想起させるが
実際に行動には起こさない。

ここの殺すべきか生かすべきかの殺し屋の葛藤の描写を
ある程度長い時間をかけてじっくり描いたからこそ、その後の計画の破綻ぶりが生きる。

本来であれば二人の殺し屋にとって、
裏切り者の主人公をクライアントに差し出せばそれで任務完了なのだが、
一人の女を拉致し車に乗せたことで、4人の関係性はもつれていく。

その割には10年経って裏切り者の主人公を見つけた組織や背景には一切触れない。
あくまで警察と4人の奇妙な追走劇にこそ、フリアーズは拘泥している。

この奇妙さと目的からどんどん逸脱する主人公たちの行動はある種、
ペキンパー『ガルシアの首』に一番近いと言えるのではないか?

あの作品も、当初の目的は実現不可能に見えるが極めて明快なものだったはずなのに、
旅の道中で様々な人間の欲望が入り乱れ、いつしか当初の目的が希薄になっていく。

今作も、フランスまで無事移送すれば済むだけの話を
えせロード・ムービーじみた一つ一つの挿話が、いちいち焦点をぼやかせてしまう。

車中の会話でも、二対二に分断した行動の中でも、
二人の殺し屋にアドバンテージは一切見られない。

二丁の拳銃を所持し、かたや丸腰で一名は女という状況にも関わらず、
移送の旅は最初から主人公と女が命運を握っているように見えて仕方ない。

どこか奇妙で尻尾をつかませないサスペンスがスリリングに展開していく。
84年の作品ながら、骨抜きになったフィルム・ノワールの解体・再構築の手法は
若き日の『レザボア・ドッグス』のタランティーノを真っ先に思い浮かべて仕方ない。

あの作品でミスター・オレンジを演じた役者が、
今作で捨て鉢なチンピラ風の殺し屋を演じたのは何かの偶然だろうか?

アルトマン『ゴッホ』よりも早く、
ティム・ロスという役者を見出したフリアーズの初期作にして、
名優ティム・ロスの記念すべきデビュー作である本作は
犯罪映画の解体・再構築映画としてもひたすら重要な作品である。

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