【第87回】『ジェニファー8』(ブルース・ロビンソン/1992)


『羊たちの沈黙』から『ユージュアル・サスペクツ』へと連なる
90年代のアメリカにおける猟奇殺人映画ブームの中生まれた作品ながら
どういうわけか本国アメリカでの評価の低い1本。

監督は生粋のアメリカ人ではなく、英国出身のブルース・ロビンソン。
トリュフォーの『アデルの恋の物語』に端役で出演した苦労人で
『ウィズネイルと僕』の監督としてあまりにも有名になった人だが
代表作となった今作が振るわず、20年もの沈黙を強いられた幻の監督である。

刑事でありながら、組織に馴染めず、
常に疎ましく思われている主人公が連続殺人犯を追う物語で
典型的な刑事物とは少し趣を異にする。
シンプルながら後半二転三転するストーリー展開が脚本家出身のロビンソンらしい。

また作品全体の乾いたトーンが非常に素晴らしい。
コーエン兄弟のノワールもののような薄汚れた色味が妙に味がある。
冒頭からラストに至るまで、太陽光や晴れのシーンがほとんどなく、
常に画面上には大量の雨が降っている。

暗闇の中で突如光るライトなんて迫力十分で
あえて人間の視覚と聴覚を鈍らせることで、恐怖を演出した上質なサスペンスとも言える。

そしてこの映画の一番の魅力はその的確な配役だろう。

アンディ・ガルシア扮する主人公もそうだが、
盲目のチェリストを演じたユマ・サーマンの薄幸ぶりが非常に良く効いている。

アンディ・ガルシアのたった一人の理解者として登場するランス・ヘンリクセンも
アクセントとしてはこれ以上ないくらいの活躍だし、
ランス・ヘンリクセンと入れ替わるように後半突如登場するジョン・マルコヴィッチの
ねちっこい嫌らしさには心底嫌な気持ちにさせられた。

名優ジョン・マルコヴィッチの登場が、
この映画のストーリーを一つ上のサスペンスに格上げさせることに成功しているものの、
ストーリー全体の展開から言うと、もっと早くに出て来ても良かった気はする。

彼の尋問の場面が無ければ、クライマックスはもっと動的な画面の連続になったのだが、
どうしても演出の都合上、動的な場面が減少しカタルシスが弱まったのは否めない。

それでもガルシアが尋問された時間に
ユマ・サーマンに近づく犯人の影は不気味で迫力十分だった。

大抵のサスペンスやミステリーは、大体中盤くらいで犯人がわかってしまうが、
今作においては、最後の最後までまったく犯人がわからなかった。

ただその犯人が、アンディ・ガルシアやランス・ヘンリクセンや
ジョン・マルコヴィッチに比するような味わい深いキャラクターだったのかは疑問が残る。

ラストはやや唐突な終わり方にも見えたが、これはこれで悪くない。
私は主人公が犯人逮捕に関与しないラスト・アクションを観た記憶が無い 笑。
普通はヒロインの危機一髪を救うか、弔いの一発でトドメを刺すだろうが、
今作はそれよりもラジカルな方法論で犯人に死の鉄槌が下る。

そのくらい大胆で野心的なアイデアを持って挑んだロビンソンの手腕を買う。

90年代を振り返った時に、優れたアメリカ産サスペンスの担い手として
真っ先に名前が挙がるのはフィンチャーやシンガーやハンソンやコーエン兄弟なんだろうが、
個人的にはブルース・ロビンソンの名前も忘れるわけにはいかない。

日本では劇場未公開で、深夜テレビで観て興奮した記憶がある。
忘れてはいけないブルース・ロビンソンの名前をすっかり忘れた数年前、
『ラム・ダイアリー』で久方ぶりにその名前を思い出した。19年ぶりのことだった。

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