【第91回】『美しき獣』(ザン・カサヴェテス/2012)

ジョン・カサヴェテスの娘ザン・カサヴェテスのデビュー作。

ジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズを親に持った時点で
子供たちには大きな期待とある種の宿命が重くのしかかる。

それは長男のニック然り、次女のゾーイも然りだったが、
果たして長女のザン・カサヴェテスの場合はどうだろうか?

役者としてはジャンル映画に積極的に参加しながらも
監督としてはジャンル映画に一切手を出さなかった父親とは対照的に
長女は伝統的な吸血鬼の物語を選択している。

豪勢な屋敷に住む主人公の女性が、レンタルビデオ店で男に一目惚れする。
そのまま2人は意気投合し、その夜屋敷に招き入れるが、
女はヴァンパイアになってしまうことを恐れ、男を返してしまう。

この吸血鬼は映画が大好きで、戦前のモノクロ映画のDVDを観たりしているわけだが、
あまりにも出会いから恋に落ちるまでが急過ぎてまったく感情移入出来なかった。

人間とヴァンパイアの間には身分や職業とは別の大きな隔たりがあり、
その葛藤を埋めようと男女がもがく姿こそが美しいのだが、
ザン・カサヴェテスはその葛藤の部分がまったく描き出せていない。

久しぶりに再会を果たした男女は熱い口づけを交わすのだが、
そこで初めて彼女が吸血鬼であることを噛まれた口の出血で気付く。

男性の方は売れっ子脚本家で、地位も名誉もある職業に就いている人間なのだから、
どんなに相手を好きになったとしても、彼女が吸血鬼なら普通は手を引くはず。

それが今作では、即答で自分も吸血鬼になることを選択するのだから
あまりにも人物造形が幼稚で笑ってしまう。

殺したくても殺せないからこそ、恋は盛り上がるのではないか?
それをすぐに殺せない状況に変えてしまう安易さには辟易した。

恋愛映画においては監督も脚本家も、男女の間にいかにして高い壁を作るかに苦心する。
それを乗り越えようとする力こそ、観客が最も欲しているものに他ならない。

この映画のように壁が最初から取っ払われ、
バリア・フリーな環境でいとも簡単に愛情が育まれれば興醒めである。

中盤に唐突に登場する妹の存在を
ザン・カサヴェテスは男女の間の高い壁に設定する思惑だったのかもしれないが、
男女の障壁というよりも、むしろ積極的に姉妹ゲンカが始まってしまう。

はっきりいってこれは物語の設計ミスだろう。
ただ単純に姉妹と男の三角関係を描きたいのであれば、ヴァンパイアである必要は無い。

中盤以降の物語の展開であれば、最初からヴァンパイアに設定する必要は無い。
むしろヴァンパイアという設定にこだわり過ぎて、三角関係も姉妹の確執も要領を得ない。

後半、エージェント役のマイケル・ラパポートが屋敷を訪れたところは唯一なごんだ 笑。 
血色も良いし相変わらずのふっくらぶりで、吸血鬼にとっては格好の餌食だろう。

しかしヴァンパイア映画としてもホラー映画としても消化不良で
最終的に姉が手を下さない結末となれば中途半端さがくすぶる。

結果的に見れば、3兄弟の中で最もその才能に期待出来ない処女作になってしまった。
生真面目な作家なんだろうが、そこに面白さを感じなかった。

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