映画『パリ、恋人たちの影』予告編

いよいよ今週末から公開!!
相変わらずガレルのモノクロの胡散臭さはデジタルの匂いが強いものの
レナート・ベルタのカメラワークの説得力が素晴らしかった オススメです

【第98回】『ジェラシー』(フィリップ・ガレル/2013)


古くからフランス映画に出て来る愛や恋を彩る主人公たちは
思春期くらいの若者たちや夢に向かって歩み出した20歳過ぎの若者が多いが
この映画の主人公は30歳くらいの立派な大人である。

主人公ルイは離婚した舞台役者で、
娘シャルロットにたまに会いながら
新しい恋人クローディアと屋根裏部屋で貧しいながらも幸せに暮らしている。
ルイとクローディアは結婚と離婚を繰り返して来た苦労人同士で役者仲間で
芸術家肌のルイをクローディアは献身的に支えようとしている。

そういう関係性だから、2人の間には恋の初期衝動のようなものはない。
それでも時折顔を見せる焦りや不安や葛藤をガレルは冷静な筆致で描いている。

2人の間には恋の初期衝動のようなものはないが
クローディアが恋人の娘シャルロットに初めて会う時の緊張感が素晴らしい。

とある公園で画面の奥からゆっくり歩いて来るシャルロットの戸惑い
それを自由奔放な愛情で体いっぱいに受け止めようとするクローディアの愛情が見える
非常に素晴らしいシークエンスである。

日本の家庭では、大抵このような場面では娘であれば心情は複雑で懐かないのだが、
フランスの家庭においては個がしっかりしていて、すんなり馴染んでしまうから不思議である。

女性同士だからこそ感じることが出来る痛みの感情を、互いにしっかり共有し、
わだかまりなく話せるのはフランス映画ならではかもしれない。

考えてみると、ガレルの映画の中でこれ程重要な役に子供が起用されるのは初めてじゃないか?
ガレルの映画はこれまで徹底して大人の愛の誕生と崩壊を描いて来た。
今作ではその重要な要素の中に、親と子供との関係性が見えて来る。

撮影を手掛けたのは、名カメラマンのウィリー・クランであることも見逃せない。
今作の中に出て来るショットを見れば、横幅が無限に広がっているような錯覚を受けるだろう。

例えば先ほど述べた娘と恋人の初対面シーンだったり、
ルイとクローディアが歩道を2人仲良く手をつないで歩くシーンを思い出して欲しい。
人によっては、ルイがいなくなる気がして、
家までの道を全力疾走で走るクローディアの姿を思い出すかもしれないが、
それらのシーンは全て観客に「フレームの外側」を否応なしに意識させる。

この奥行きこそがシネマスコープの一番の味わいであり、武器である。
ヌーヴェルヴァーグの時代からJLG作品やスコリモフスキの『出発』のカメラマンを務め
その後もガレルの盟友でポスト・ヌーヴェルヴァーグのピアラの作品や
ゲンズブールの作品を務めたウィリー・クランならではの素晴らしいショット群は
筆舌に尽くし難い素晴らしいものであった。

また2人の住む部屋の素晴らしさも見逃せない。
娘シャルロットが覗く鍵穴、光の差さない屋根裏部屋、殺風景に見える内壁
そして決して広くない4人がけの食卓、エレベーターはなく険しい階段などが
否応なしにヌーヴェルヴァーグを想起させる。

今作におけるアナ・ムグラリスの表情の素晴らしさも見逃せない。
ハスキーがかった声で決して台詞は多くないが、その苦悩や葛藤を
魅力的なクローズ・アップで表現している。

ガレルは父親であったモーリス・ガレルの30歳くらいのエピソードを思い出し、この映画を着想した。
映画の中で主人公を演じるのは、モーリスの孫でフィリップの息子でもあるルイ・ガレルである。
そして映画の中の妹が、実際の生活でも妹であることを知った時、
この映画がある家族の物語を撮った映画であることに気付く。

非常に個人的な物語をシンプルな筆致で綴った実に味わい深い物語である。

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