【第100回】『ボーグマン』(アレックス・ファン・ヴァーメルダム/2013)


私の周りの映画好きに好評な『ボーグマン』を観てみた。なるほどこれは面白い。
オランダ映画で38年ぶりにカンヌ国際映画祭に出品されたのも頷ける
シュールかつ奇抜な1本だった。

映画は冒頭、森の中の穴蔵に隠れる主人公の男を
村の牧師たちが襲う場面から始まる。

すんでのところで危険を察知したボーグマンは
森の地下に掘った穴蔵から命からがら抜け出し、仲間を叩き起こしながら逃げて行く。

主人公のボーグマンはどこの星から来て、何を目的にして、
どういう意図で地球人と対決しているのかは最後までまったくわからない。

彼らは基本、個人個人で行動する。
高級住宅街をしらみつぶしに当たりながら、
目当ての家を見つけ、その家の生活の中に解け込んで行く。

彼が当たりをつけた家には、TV局で働くエリートの父親と母親、
それに3人の子供たちとデンマーク人のお手伝いさんと庭師の老人がいる。
家族はオランダでも典型的な裕福な家庭であり、外との繋がりはほぼない。

一見普通の人間のフリをした侵略者は、この家族の中に徐々に解け込んで行く。
最初は奥さんがボーグマンと何か繋がりがあるのかと察したが、
ボーグマン自体には彼女に特別な思いはない。

この映画を観て、私が真っ先に思い出したのはハネケの『ファニー・ゲーム』である。
上流階級への血も涙もない若者たちの侵入が、
やがて狂気に変わる直視出来ない衝撃的な作品だったが
今作はあそこまでではないものの、静かにこの家を乗っ取って行く。

特に最初の庭師の毒殺シーンが衝撃的だった。
まるで北朝鮮の拉致のように用意周到に計算されたボーグマンたちの行動が怖い。
これは多数による暗殺の典型例だと震え上がった。

その後はじわじわと裕福な一家を呑み込んで行く。
庭師の面接で意図しない来訪者が来た時、彼をを抹殺し隠蔽しようとする。

その時、末娘の取った行動が警察を呼ぶことであれば、乗っ取られずに済んだかもしれない。
あの時のあの判断が後々に大きな影響を及ぼしてしまうのである。

クライマックス、庭先で行った死のパーティも非常に恐ろしかった。
ボーグマンは野蛮なことをやっているように見えて、毒殺と絞殺しかしない。
決して刃物で何度も人を刺し殺したりしないし、そこにはある種の流儀があるのだった。

そしてボーグマンたちの背中にある数cmの縫合痕がまた怖い。
彼らは地球人の中で、気に入った人物だけを選別し、自分たちの中に取り込んでしまう。

先ほどハネケの映画に似ていると書いたが、ハネケやフォン・トリアーのように狡猾ではない。
精霊を悪魔が呑み込むような野心的な作品で、2時間弱一気に観ることが出来た。

監督のアレックス・ファン・ヴァーメルダムは今作がデビュー作かと思いきや、
実は他に3本撮っているオランダの中堅作家らしい。
しかも今作でデンマーク人のお手伝いを誘惑するしわの多い男を演じたのが
実はアレックス・ファン・ヴァーメルダムその人らしい 笑。

とんでもない食わせ者ではないか 笑?

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