【第510回】『セトウツミ』(大森立嗣/2016)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

【第113回】『まほろ駅前狂騒曲』(大森立嗣/2014)


瑛太と松田龍平が21世紀の日本映画の青春群像劇を決定づけた
何でも屋多田便利軒の奮闘を描いたまほろシリーズ最新作(第三弾)。

多田(瑛太)は行天(松田龍平)の元妻(本上まなみ)から
娘のはるを一ヶ月預かって欲しいと依頼され、
子供嫌いの行天をどう説得すればいいのか思い悩む。
そして結局、子供嫌いの彼に彼の娘だと知らせることは出来ず、
多田はつい嘘をついてしまう。

前半部分はこの多田のついた嘘から
行天に本当のことを知らせるまでの葛藤を克明に描いている。

彼らにはなかなか口に出来ない子供に対するコンプレックスがある。
多田は別れた妻との間に出来た子供をひょんなことから死なせてしまう。
そして行天にもとある宗教団体にまつわる母子の秘密があることを知る。

そこに2人の葛藤や共感が入り込む余地があるのだが
映画は滑り出しからはるを迎い入れることになるまでがいつになく重たい。

行天にとっては別れた妻との間に生まれた子供との再会により
子供嫌いだった性格に何らかの変化や成長を感じさせれば監督の意図は十分伝わるのだが
そこにバス運行会社に文句を言うおじさん(麿赤兒)や
余命いくばくもない入院中のお婆さん(奈良岡朋子)が絡み
物語が複雑化し、非常にわかりづらくなっている。

更にそこに家庭と健康食品教会と名乗る怪しい元宗教団体の長(永瀬正敏)と
岡山組の若頭(新井浩文)が伏線として描かれているから物語はややこしい。

前半部分はこれらの人物の情報の書き込みに想像以上に時間を割いたために
瑛太と松田龍平の葛藤や共感がなかなか胸に迫って来ないのだが、
別れた妻の5歳になる娘はるが多田便利軒に来たところから一気に面白くなる。

結局多田は自分の弟の娘だと偽るが、はるの自己紹介から一瞬で真実がばれてしまう。
そこから行天の怒りと投げやりな感情が爆発するのだが、
5歳の娘はるの手前、怒りをぶちまけることが出来ない。

その後も何てことない多田便利軒内でのやりとりが
5歳の娘を媒介にして物語を面白くしているのである。

行天とはるを2人ぼっちにするための口実としての
多田と柏木(真木よう子)の再会がまたすこぶる心地良い。

柏木の務めるファミレスの前にトラックを横付けしながら
ガラス越しに柏木の姿を凝視する多田。
やがてうとうとし始めたところにガラスをノックする音。
目を覚ました多田の前には柏木がいる。慌ててドアを開ける多田。

情景が一瞬で浮かぶような恋する2人の気持ちの高まりを大森立嗣は丁寧に描いていく。

あえてその後の2人のSEXは描こうとせず、
真木よう子は寝かせ、瑛太の背中越しの会話を描いたその後も実に上手い。
まほろ駅前を仰ぎ見るエスタブリッシング・ショットから
長椅子に座る行天とはるの2ショット、ドアを開ける多田との3ショットまで
大森立嗣の地に足の着いた非凡な才能をひしひしと感じさせてくれる。

その後クライマックスまでの展開はやや唐突な気がした。
バスを執拗に描いた前半部分はこういう伏線だったのかとはたと気付くが
あまりにも強引に物語を性急に走らせてしまったきらいはある。

また正直に申し上げて、バスの中の乗客の必然性があまりない。
ネタバレになるので申し上げられないが、活劇の核になる人物はわざわざバスに乗る必要はない。
自家用車かタクシーで十分だろう。

あとは普通に子供が間近で見る光景としていささか過激過ぎやしないだろうか 笑?
経済的制約により、北野武『龍三と七人の子分』よりもいささか寂しいアクションではあった。

相変わらず大森立嗣は端役、チョイ役に至るまで大事に演じさせている。
まほろシリーズの常連である高良健吾、真木よう子、松尾スズキ、
大森南朋、岸部一徳らはもちろんのこと、
初出演の市川実和子や伊佐山ひろ子に至るまで実に丁寧に役者としての個性を引き出している。
大女優である奈良岡朋子なんてクライマックスまで奈良岡朋子だと気付かなかった 笑。

大森監督と同じ阪本組出身の大塚亮カメラマンの乾いた色彩も実に効果的で美しい。
『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』も『さよなら渓谷』も
もっと言うと松岡錠司の『深夜食堂』もこの大塚亮の乾いたテイストがなければ
その魅力が半減していただろう。

それにしてもかなり贅沢な喫煙映画である。
これはかなり意図的に瑛太と松田龍平に喫煙させているとしか思えない 笑。
意外と瑛太が脱いだらぽっちゃりしているのにもびっくりした 笑。

しかし松田龍平の投げやりさは極めて21世紀的で挑発的である。
『舟を編む』を観たときも感じたが、この人には画面にまとわりつく色気がある。
実に挑発的に、スクリーンの向こう側の観客を投げやりな目で見つめているのである。

このカテゴリーに該当する記事はありません。