【第1227回】『それから』(ホン・サンス/2017)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

【第1226回】『夜の浜辺でひとり』(ホン・サンス/2017)

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【第1225回】『自由が丘で』(ホン・サンス/2014)


 分厚い封筒に入った数枚の手紙、クォン(ソ・ヨンファ)は以前勤めていた語学学校で、モリ(加瀬亮)からの情熱的な郵便物を受け取る。2年前、語学学校の同僚だったかつての恋人からの突然の手紙に女は戸惑う。モリはすぐに日本へと帰国し、彼女に会いにまた韓国にやって来ていた。クォンが住んでいた当時の家から歩いて5分のゲストハウスに泊まり、モリは彼女を必死に探していた。クォンは手紙の1ページ目を読んで語学学校を出るが、階段で立ちくらみを起こし落としてしまう。拾った手紙は順番がバラバラになり、1枚は拾い忘れてしまう。クォンは日本名の呼び名のカフェ「自由が丘5丁目」に寄り、バラバラの順番のまま、手紙の続きを読み始める。彼女を探して、ソウルの街を彷徨い続けるモリは、同じゲストハウスに泊まっているアメリカ帰りの男サンウォン(キム・ウィソン)と仲良くなり、毎晩のように飲み語らっていた。モリは迷子になった犬クミを見つけたことで、カフェ「自由が丘5丁目」の女性オーナー・ヨンソン(ムン・ソリ)と親しくなる。

 日本人のモリは2年前の意中の相手が忘れられず、衝動的にソウルに舞い戻る。手紙に書く2週間の経過とそれを読むヒロインの数時間の時間の対比。文章は良い部分だけを抜粋しているので一瞬だが、その手紙がバラバラになったことで、事態は更にややこしくなる。現在と過去が継ぎ接ぎのように時系列バラバラになった物語は、モリの溜めた思いを受け止めるヨンソンの登場で混沌を極める。引用された「映画に実体はない」という言葉は、まるで今作を体現するかのごとく登場し、おまけにヨンソンの飼っている犬の名前は、クミ=夢という。クォンに書いた分厚い手紙と吉田健一の『時間』のフレーズ、サービスで出て来たアキケーキと鼻持ちならない演出家、一度眠りに着くと、朝食サービスの朝10時までになかなか起きられないモリの様子は、『へウォンの恋愛日記』のへウォンのように別世界でまどろむ。自由が丘で男は、時間の森(モリ)に迷い込み、夢を見つけ出し日本へ戻る。たったこれだけのことが、便箋がバラバラになったことで実験的な時間の経過を持つ。クライマックスもそこが来るかという不思議な余韻に包まれる。加瀬亮の飄々とした佇まいも素晴らしい。

月1回、筆者の映画のワークショップを開催しています。
14夜目は初めての韓国映画ホン・サンス特集です。
2018.06.28.(木)21:00~03:00 『映画の日 14』charge:500yen
@Music Bar LYNCH  栃木県宇都宮市二荒町8-12

【第1224回】『へウォンの恋愛日記』(ホン・サンス/2013)


 2012年3月、女子大生で女優志望のヘウォン(チョン・ウンチェ)は久しぶりにカナダに旅立った母親(キム・ジャオク )に会う。期待に胸を膨らませた彼女は空調にやられ、気持ち良くうたた寝する。夢の中で彼女は、ジェーン・バーキンに出会う。ウェスト・ビレッジの場所を聞かれたへウォンはようやくバーキン本人だと気付き、手帳にサインを貰う。上等なプーアル茶をプレゼントした娘は、久しぶりの母親との水入らずの時間を楽しんでいる。ミス・コリアがダメなら、モデルになりなさいと助言された彼女は、公園の中をハイ・テンションで歩く。だがチュンノ図書館を抜けて、「有名荘」という名の旅館を越えたあたりで彼女の表情は曇る。大学で不倫相手のソンジュン(イ・ソンギュン)と初めて結ばれた思い出の場所、立ち入り禁止の公園に侵入したへウォンは、歩きたばこの吸い殻に苛立つ。偶然立ち寄った古本屋、「人と出会い、また躊躇う」と書かれた古本の文章、不意に寂しさに襲われた女は、不倫相手で仲の切れかかったソンジュンを電話で呼び出す。男の「会いたかった」という言葉に戸惑いを隠せないへウォンは、2人で行った焼肉店の前で同僚の学生たちと鉢合わせする。

 女優を目指しながら、なかなかチャンスに恵まれない女子大生と、監督でありながら鳴かず飛ばずで、大学の講師に仕事で糊口を凌ぐうだつの上がらない男の恋は、最初から明るい未来などない。だが女は母親の去った寂しさから、終わりかけた恋にまたしても火を付ける。イ・ソンギュン扮するソンジュンは、早朝に書いた大学への辞表を見せるなど大胆不敵な男に見えて、他の学生への体裁を気にする情けない男として描かれる。南漢山城に2人で登った不倫カップルは途中、年上のソンジュンの嫉妬により居た堪れない事態になる。今作を特徴づけるのは、彼女が細かく書き込んだ日記が、果たして現実かそれとも夢なのかに尽きる。駐車場でタバコを吸っていた男性、アメリカの教授、南漢山城で2人と別々に出会った登山客のおじさん。その姿はヘウォンの具現化した欲望なのか?それとも本当にそこで出会った人々なのか?映画は最後まで事実を明らかにしない。夢うつつな女子大生はたばこの吸い殻を何度も踏みながら、公園の柵への侵入や南漢山城への登山を繰り返す。ケガをした男のキズ、携帯電話の留守番電話、男の手に握られたカセット・ウォークマン、左手に巻かれた安物の時計、スコセッシ監督への電話とマインド・コントロール、ラーメンとのり巻き、映画はもっともらしい描写を繰り返しながら、やがてヒロインにある決断を促す。その決断だけが具現化された真実となる。

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