【第265回】『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(ビル・フォーサイス/1983)


 1980年代当時の右肩上がりで成長を遂げるアメリカを支える一流企業の社員が、スコットランドの景色豊かな風景や心優しき人々に触れ、自らの生き方を考え直す。そんなあまりにもベタな物語でありながら、役者たちがみな素晴らしい隠れた名作である。マッキンタイアはメキシコでの実績を買われ、スコットランドの用地買収プロジェクトのリーダーに抜擢される。彼は自分のルーツを偽っているが、ハッパー社長は大らかな人間で、星を見たら知らせるようにとだけマッキンタイアに伝える。スコットランドに到着すると、現地支社から案内役のオルセン(ピーター・キャパルディ)が迎えに来ており、アバディーンの研究施設で計画の概要を見学してから、オルセンと共に現地へと向かった。

ここでトリュフォーの『家庭』のような水力会社の実験担当として出て来るジェニー・シーグローヴのオリエンタルな魅力が素晴らしい。これ見よがしに肌を見せたかと思うと、会社のために水槽に潜り、故障している箇所を見つけ出す。その間呆気にとられて見ているだけのマッキンタイアとオルセンが可笑しい。『家庭』では西洋文化と東洋文化が出会う場面だったが、今作における意味合いもおそらくそんな意図があってのものだと思われる。

マッキンタイアとオルセンが現地へ向かう途中で、間違って轢いてしまったウサギを持ち帰る場面がまた何とも言えないユーモアを讃えている。オルセンはすぐに殺処分しようとするが、その行動をマッキンタイアが止める。結局2人は後部シートにウサギを座らせ、霧の出てしまった道路で一晩を明かすのである。

買収というのは、その街に昔からずっと住み続けた人たちの意見は、端的に言って街を譲り渡すか守るかで二分される。しかしながら今作においては、買収を容認する声で住民たちの意見は拍子抜けするかのようにすぐに一致する。その代わり、土地一帯を高い値段で買い取って欲しいスコットランドの人たちと、出来るだけ早く土地を買収し、石油採掘施設を作りたいアメリカの会社側の思惑の妥協点を探ることになる。当然村人たちは、最も頭の良い交渉人にマッキンタイアと話をさせ、少しでも高くこの土地を買い取らせようとするのだが、そもそも買収への過剰な拒否反応を示さない住民たちの優しさに、マッキンタイアは困惑を隠せない。

監督のビル・フォーサイスは自らがスコットランドのグラスゴー出身であり、この土地の素晴らしさを熟知している人間である。途中出て来る空のシーンの崇高さは何者にも代えがたい魅力を放っている。ストレートのウィスキーを酌み交わしながら、ワルツを踊る中盤の祭りの場面のリアリティは、スコットランドの人々の大らかさや優しさをこれでもかと伝えている。街唯一のパンク少女に一方的に好意を持たれ、困惑するオルセンの様子をユーモラスに伝えた場面がまた可笑しい。スコットランドの人々は、よそ者を敵だとは思わず受け入れてくれる。だからこそ観客である我々は、アメリカにおもねってそんなことをしていると足元をすくわれるぞと警告もしたくなるのである。

街全体がマッキンタイアの意見に染まる中、ただ一人海岸線の一画に住む偏屈者のベン老人だけが、彼の説得には応じる気配が無い。マッキンタイアとアーカートはベンと土地の買い取り交渉を行うが、老人は幾らお金を積まれても土地を手放すつもりが無いらしく、交渉は暗礁に乗り上げてしまった。その絶体絶命のピンチにハッパー社長がヘリコプターで現れる場面は実に的を得た名場面である。このバート・ランカスターの登場が、一触触発の空気の中、街の救世主として期待されるのである。

最後の結末は実際に映画をご覧になって確認して頂きたいが、バート・ランカスターの大らかな判断は当時のアメリカの用地買収の強引な交渉とは一線を画す。それゆえ幾分リアリティを欠いてしまった気もするが、彼の心を動かしたのがこの土地の自然であり、人々の優しさであったのは間違いない。

近代アメリカに感化された者たちがポルシェやフォードを乗り回すのに対し、ロールスロイスやマセラティの話で盛り上がる地元の人たちの会話の生活感のズレが、80年代における大国アメリカとスコットランドの力関係を残酷なまでに描写する。21世紀には敵対的買収なんて言葉が流行したが、80年代には大国の企業が他国の用地買収に手を染める様は日常茶飯事であり、その結果がハッピーエンドに向かったのかは現代においては明らかである。

今作で唯一のドル箱俳優となった伝説の名優バート・ランカスターは、80年代に入り心臓発作で生死の境を彷徨い、役者業をセーブしていた。しかしながら今作の監督であるビル・フォーサイスから猛烈なオファーを受け、脚本を読んだ段階で今作への出演を二つ返事で決めた。バート・ランカスターにとって、サム・ペキンパーの遺作となった『バイオレント・サタデー』と並んで、83年に受けた2本の仕事の1本が今作である。

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