【第789回】『T2 トレインスポッティング』(ダニー・ボイル/2017)

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【第787回】『トレインスポッティング』(ダニー・ボイル/1996)


 ボロボロに浮き上がった静脈に注射針を突き刺し、恍惚に悶えるジャンキーたち。スコットランド・エディンバラ、ジャンキーたちは一瞬の快楽のために犯罪に手を染める。万引きをし、警察に追いまくられるマーク・レントン(ユアン・マクレガー)とスパッド(ユエン・ブレムナー)のオフビートな疾走感。シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)は強い強迫観念に駆られた『007』狂いのビョーキ野郎で、レントンのヤク断ちに付き合うフリをして、徹底的に蔑む。彼ら3人のジャンキー・トライアングルに対し、喧嘩っ早いフーリガンのベグビー(ロバート・カーライル)はアルコール中毒で常にビールが手放せない暴力野郎。唯一まともなトミー(ケヴィン・マクキッド)は散歩とイギー・ポップをこよなく愛している。ブリット・ポップ華やかなりし90年代中期のロンドンの輝きに背を向けるように、イギリスの隣国スコットランドでは景気が低迷し、若者たちは貧困に喘いでいた。今作はそんな出口の見えない若者たちの閉塞感を圧倒的な映像センスで突き付ける。社会の底辺にのさばる若者たちはヘロインやアルコールで結びつき、奇妙な連帯を見せる。近年ではジョン・クローリー『ブルックリン』やジョン・カーニーの『シング・ストリート 未来へのうた』が共に大英帝国の隣国である若者たちの50年代80年代の不景気を扱っていたが、今作でもアングロサクソンに唾を吐く男たちは生粋のケルト系に他ならない。

 数日間の禁ヤクの後、ナイトクラブで代償を求めるレントンの前に運命の女が突然登場する。シルバー・ラメのワンピースにワイン色のジャケットを羽織り、カウンター前に陣取るダイアン(ケリー・マクドナルド)の凛とした表情は実に大人びて見えるのだが、翌朝の記号的コスチュームでの再登場に主人公は唖然とする。一際過保護に育てられたレントンの家庭の描写以外、男たちそれぞれの家族間の様子は一切明示されないのがボイルの肝だが、女たちの平和的な家庭像はクロス・カッティングで幾分鮮明に描写される。底辺を彷徨う5人の緊密な繋がりの中から、ただ一人マーク・レントンだけが這い上がろうとするのだが、その度に足を引っ張られる。ヘロインも心底底辺な人間関係もそう簡単に断ち切れるものではない。アリソン(スーザン・ヴィルダー)の息子に起きた悲劇の後、ハナっから破れかぶれだったカラ元気のような青春群像劇は心底陰惨な方向に舵を切る。スコットランド一汚い便器の水中ダイブ(最高の名場面!!)、天井をヨチヨチ歩きするアリソンの赤ん坊心底ドラッギーな映像、トレインスポッティングという名の壁に描かれた閉所恐怖症なレントンの悪夢はヘロイン中毒者の禁断症状のメタファーに他ならない。快楽で繋がった男たちの友情は脆く壊れやすいが、中毒者たちの悪夢は簡単には断ち切れない。クライマックスに流れたUnderworldの『Born Slippy』の多幸感、ユアン・マクレガーの大躍進を含め、90年代を語る上で欠かすことの出来ない金字塔的問題作である。

【第375回】『スティーブ・ジョブズ』(ダニー・ボイル/2015)

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