【第1060回】『キングスマン: ゴールデン・サークル』(マシュー・ヴォーン/2017)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

【第1059回】『キングスマン』(マシュー・ヴォーン/2014)


 1997年中東、01-ファルコンにぶら下がる“キングスマン”のエリートスパイ、ハリー(コリン・ファース)はある男と行動を共にしていた。施設内での尋問の場面、ハリーは犯人に詰め寄るが、手榴弾を隠し持っていた犯人に気付き、ハースは命を救われるが相棒が犠牲になる。ロンドンの貧困住宅、夫を失い泣き崩れる妻ミシェル・アンウィン(サマンサ・ウォマック)の姿。言葉をかけられないハリーはまだ幼い息子のゲイリー・“エグジー”・アンウィンに「何かあったらここに連絡しろ」と勲功のメダルを託す。それから17年後のアルゼンチン、アーノルド教授(マーク・ハミル)を救出に向かった“キングスマン”の仲間ランスロット(ジャック・ダヴェンポート)が何者かに殺される事件が起きた。ロンドンのサヴィル・ロウにある高級スーツ店“キングスマン”の実体は、どこの国にも属さない世界最強のスパイ機関。“キングスマン”のエリートスパイ、ハリーはブリティッシュ・スーツをスタイリッシュに着こなし、組織の指揮者アーサー(マイケル・ケイン)のもとで日々秘密裏の活動を行っていた。一方その頃、父を失ってから自堕落な日々を送るゲイリー・“エグジー”・アンウィン(タロン・エガートン)は今日も悪友たちと街角で大暴れしていた。車の盗難容疑で逮捕されたエグジーは突然、幼い頃の記憶を思い出し、男が連絡しろと言った番号に電話をかける。するとそこにはハリーの姿があった。

 マシュー・ヴォーンの名作スパイ・アクション「キングスマン」シリーズの記念すべき第一弾。貧民街に住む自暴自棄になった不良少年は、かつて父親と行動を共にしたハリーに出会うことで、“キングスマン”の採用試験を受ける。紙一重の人生で散った命の恩人の息子に向けるハリーの眼差しは代父にも見える。オックスフォード大学にも行けないような荒くれ者だったエグジーは、諜報学校で学んだ仲間たちと味わったことのない青春を謳歌する。それは同時に夢にまで見た天国の父親と同じ体験を共有することにもなり得る。就寝時間の水責めやパラシュートなしのスカイダイビングなど心底無茶な試験を受けたエグジーはスパイに必要ないろはをロキシー・モートン(ソフィ・クックソン)と共に習得して行く。一方、巷では科学者や王族の失踪事件が頻発。その裏にIT富豪のリッチモンド・ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)の恐るべき計画が実行に移されようとしていた。今作の旨味は貧民階級であるエグジーが上流階級のハリーの手引きで、ダサい少年から高級スーツ姿のエリートスパイに変身するところにある。まるで「007」シリーズのジェームズ・ボンドのような数々のガジェット、両足が鋭利な刃物で出来ているガゼル(ソフィア・ブテラ)という名の殺し屋との死闘、未熟だったエグジーは代父ハリーの手解きを受け、ジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーンならぬジャック・バウワーのような一人前のスパイ(傭兵)へと成長して行く。クライマックスのスロー・モーションによる脳みそ破壊描写の馬鹿馬鹿しいまでの快楽は10年代屈指の魅力を誇る。

【第547回】『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(マシュー・ヴォーン/2011)


 1944年ポーランドのアウシュビッツ収容所前。豪雨の中、幼くして両親を収容所に入れられたエリック・レーンシャー少年の悲痛な叫び。ドイツ軍の大人4,5人が羽交い締めにしようとするが、彼は悲しみの力で鉄柵をグニャリと曲げてしまう。『X-MEN』の導入部分とまったく同じ光景。その一部始終を施設の2階から見ていたドイツ軍科学者のクラウス・シュミット(ケヴィン・ベーコン)はコーヒーを飲みながら、何やら思案に暮れている。一方その頃、ニューヨークの郊外にあるウエストチェスターでは少年時代のチャールズ・エグゼビアが、キッチンに響く物音を怪しみ、長い廊下を歩いていた。冷蔵庫の前にはチャールズの母親の姿。「ココアでも飲むかい?」と告げる母親の異変に気付いたチャールズは、すぐにミュータントの仕業であると直感する。彼の問いかけに観念したのか、母親の姿からみるみるうちに青いミュータントへと変貌を遂げる若き日のレイヴン・ダークホルムの姿。彼は自分と同じ特殊能力を持ったミュータントとの出会いを喜び、盗みに入ったレイヴンを家族に迎え入れる。アウシュビッツの側にある科学研究所内、エリック・レーンシャーを呼び寄せたシュミットは硬貨を見せ、3秒以内に曲げろと少年に命令する。シュミットはまだまだ未熟な力を持て余しているエリックに対し、収容所から一時的に母親を拘束し、エリックの目の前に立ち合わせる。それでも解放されないエリックの能力に痺れを切らしての悲しみの銃弾が、エリックにミュータントとしての本能を呼び起こさせる。

旧『X-MEN』シリーズ3部作、『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』に続く新『X-MEN』シリーズ3部作の序章となる1作目(通算4作目)。時系列で言えば、『X-MEN』の正当な前日譚であり、プロフェッサーXとマグニートーの不和の要因が明らかにされる。若き日のプロフェッサーXをジェームズ・マカヴォイ、同じくマグニートーの若き日をマイケル・ファスベンダーが演じている。旧『X-MEN』シリーズ3部作において、マグニートーの側近として、ウルヴァリンの敵役に回っていた擬態能力を持つミスティークが今作では重要な核となる。当初はチャールズのニューヨークの豪邸に忍び込み、冷蔵庫を物色していた貧民街の少女をチャールズが受け入れ、妹として招き入れるところから物語は始まる。大人になったミスティークを演じるのはジェニファー・ローレンスであり、生活の面倒を見てくれたチャールズに恋の炎を燃やしている。ジェームズ・マカヴォイが演じた若き日のチャールズは、旧『X-MEN』シリーズ3部作の厳格な教授のイメージとは対照的になかなかのチャラ男だが、友人だと思っているミスティークには手を出そうとしない。母親の復讐しか考えていない若き日のエリック・レーンシャーはホロコーストを生き延び、母の仇であるクラウス・シュミットを世界中どこへでも追いかけていく。まるで『007』のようなフットワークの軽さで世界各国に飛ぶシークエンス。ようやく見つけた仇であるクラウス・シュミットはドイツ軍の総括の責任をくぐり抜け、今はセバスチャン・ショウと名前を変え、アメリカとソビエトの間で怪しくうごめく。彼こそはプロフェッサーXとマグニートー以前のミュータントのオールドスクールであり、あらゆるエネルギーを吸収、蓄積、放出する能力を持ち、不老不死を手にしている最強のミュータントである。

あくまで本筋はプロフェッサーXとマグニートーの友情と不和を根底に置きながら、今作はレイヴン・ダークホルムことミスティークを第三の主役とする。当初はチャールズの天真爛漫な明るさに惹かれるも、友達として恋の進展を妨げられた女は、獣の脚と明晰な頭脳をもつ若き天才科学者ハンク・マッコイ(ニコラス・ホルト)と出会うことで恋に落ちる。だがミュータントとしての青い体に疑問を持つハンク・マッコイは、レイヴンが人間界でも融和出来るような新薬を開発する。ミュータントとしての機能を抑制する注射剤はまるで『X-MEN: ファイナル ディシジョン』に登場した「キュア」のようだが、人間との融和の可能性を探るハンク・マッコイの真摯な姿に、徐々に疑念を覚え始めるレイヴンの姿が一際印象的に映る。結果的に彼女は、チャールズのような綺麗事にまみれた説得ではなく、ミュータントとしての体面を重んじたハンク・マッコイでもなく、彼女のありのままを理解し、受け入れようとしたエリック・レーンシャーに心惹かれてしまう。今作は冷戦下のアメリカvsソビエトとの対立構造を明らかにしながら、全面核戦争寸前まで達したキューバ危機の現場を舞台とする。ケネディ大統領とフルシチョフ首相の息詰まるような心理戦、核配備から第三次世界大戦かと揶揄された両軍の息詰まる攻防の中で、世界中の人間そのものを嫌悪しているケヴィン・ベーコンはヘルファイア・クラブを指揮し、強力なテレパスを用いるチャールズ・エグゼビアに精神支配を防ぐためのヘルメットで対抗する。このヘルメットこそが、『スター・ウォーズ』におけるダースベイダーの仮面に相当するのは云うまでもない。かくしてセバスチャン・ショウの仮面を継承したエリック・レーンシャーはマグニートーとなり、初代X-MENチームはプロフェッサーX派とマグニートー派に分かれていく。図らずもウルヴァリン抜きで構築された物語は、『スター・ウォーズ』トリロジーのように彼らの過去へ退行していく。

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