【第807回】『ワイルド・スピード EURO MISSION』(ジャスティン・リン/2013)


 スペイン・カナリア諸島、子供が生まれたという報告を受けたブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)とドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)は崖沿いの細い道を抜きつ抜かれつの展開で病院に向かう。待ち構えるエレナ・ネベス(エルサ・パタキー)は笑顔で迎え入れるが、ブライアンはまだ父親になった実感がないまま、緊張した面持ちで妻ミア・トレット(ジョーダナ・ブリュースター)と赤ん坊の待つ病室へと向かう。生まれて来た子供は男の子で、「ジャック」と名付けられた。一方その頃、ロシアのモスクワでは僅か90秒間の間に軍隊が襲撃され、何億円もの価値をもつチップを奪われる事件が発生する。DSS(アメリカ外交保安部)の捜査官ルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)は新たな相棒であるライリー・ヒックス(ジーナ・カラーノ)と共に捜査にあたり、ある男の犯行に間違いないと断言する。前作『ワイルド・スピード MEGA MAX』においてレイエスの大金を奪ったチーム・ドムの面々は世界各地で悠々自適の生活を送るが、ドムの元にホブス捜査官が1枚の写真を持って現れる。そこに写っていたのは、死んだはずのドミニクのかつての恋人であるレティ(ミシェル・ロドリゲス)だった。

 『ワイルド・スピード』シリーズ第6弾。一度は裏稼業に足を洗ったはずのチーム・ドムがかつての最愛の恋人レティの敵側への寝返りにより再び結集するのだが、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』のリコ・サントス(ドン・オマール)とテゴ・レオ(テゴ・カルデロン)のレゲトン・マリアッチ・コンビが微妙に間引かれていて泣ける 笑(彼らは最新作に再登場するとの専らの噂である)。ホブスが追う悪の組織のボスであるオーウェン・ショウ(ルーク・エヴァンズ)は元イギリス空挺部隊SASの少佐として戦車を操ったプロ中のプロで非情な男なのだが、ジャスティン・リンの物語は相変わらず敵役の描写が極めて薄い 笑。ブライアンはレティをブラガに引き合わせた負い目から本国LAに戻り、マイケル・スタジアック捜査官(シェー・ウィガム)の手引きでアルトゥーロ・ブラガ(ジョン・オーティス)が収監された刑務所へ潜入捜査を開始する。前作のブラジルの首都リオデジャネイロで繰り広げられる物語からEU統合時代のロンドンへ舞台を移すのだが、肝心要のロンドンの景色はほとんど夜景のみであまり映らないのは難点である。シリーズ初期はストリート・レーサーとして凌ぎを削って来たあくまで車好きの面子たちが、『ミッション・インポッシブル』シリーズや『ダイ・ハード』シリーズのような肉弾戦や滑走路でのアクションを求められる点については、徐々に過激にエスカレートせざるを得ないドル箱シリーズの宿命を感じずにはいられない。

 4作連続だったジャスティン・リンの監督最終作では、シリーズに貢献して来たキャラクターたちの非情な引退通告が幾つも待ち構えている。レティが戻った一方で、シリーズ中期を下支えしたキャラクターたちの次々の退場が何とも寂しい。どんどんファニーなキャラに変化し、ギャグ扱いと化すローマン・ピアース(タイリース・ギブソン)、良く言えば万能キャラ、悪く言えば便利屋的扱いのテズ・パーカー(クリス・"リュダクリス"・ブリッジス)のジョーカーぶりを含め、ジャスティン・リンにはもう少し繊細にキャラクター設定を描き切る才覚が求められていたはずだ。新『スター・ウォーズ』シリーズ3部作がレイア姫(キャリー・フィッシャー)がいる前提で全ての物語が作られていたはずであり、ウォルト・ディズニーは脚本の大幅な改変を余儀なくされる。ましてやユニバーサル・ピクチャーズやオリジナル・フィルムにとっては、W主演の一角であるブライアン・オコナー役のポール・ウォーカーがまさか40歳で天国へ旅立つことなどまったく想定していなかったはずだ。次作でトリプル・ハゲ&マッチョの総決起集会の様相を呈す『ワイルド・スピード』シリーズには、唯一無二のフサフサなイケメンであるブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)の存在が欠かせない。ポール・ウォーカーの存命ありきで次々に行使されたリストラが、少し早過ぎた過渡期となるシリーズ第6弾である。

【第806回】『ワイルド・スピード MEGA MAX』(ジャスティン・リン/2011)


 前作『ワイルド・スピード MAX』において謎の麻薬王ブラガを逮捕し、FBIに貢献したブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)だったが、恋人ミア・トレット(ジョーダナ・ブリュースター)と共に、ロンポック連邦刑務所行きの護送車に乗せられたドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)を助け出したことで、3人は国際指名手配される。それから数日後、ブライアンとミアの姿はブラジルにあった。急勾配に家々が立ち並ぶリオデジャネイロのスラム街、潜伏先を指南するのは、ドミニクの『ワイルド・スピード』時代の相棒で、ブライアンに裏切られたヴィンス(マット・シュルツ)だった。エクアドルから合流したドミニクと共に66年式フォード・GT40を奪還したブライアンとドムは、リオデジャネイロで最も強い権力をもつ悪徳実業家エルナン・レイエス(ジョアキム・デ・アルメイダ)の数百億ものマネー・ロンダリングの流れを記録したマイクロチップを奪ったことで、一転してブラジルの闇組織に命を狙われることになる。そして国際指名手配となった彼らの逃走劇には、アメリカDSS(外交保安部)の捜査官ルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)とエレナ・ネベス(エルサ・パタキー)の捜査の手が徐々に近付いていた。

 メガ・ヒットを記録した『ワイルド・スピード』シリーズ第五弾。今作から遂にアメリカ国家を守る立場だったブライアン・オコナーが野に下り、ドミニク・トレット同様の悲しき逃亡犯になる。代わりに彼らを執拗に追い回すのは、凄腕捜査官のルーク・ホブスに他ならない。マイアミからリオデジャネイロへの逃亡劇の果てに、エルナン・レイエスの100億円もの紙幣を強奪するために、かつての最強の仲間たちをリクルートする中盤の展開は問答無用に素晴らしい。複線として、導入場面の悪阻から新しい家族が出来たことを告白されるブライアンは犯罪者と一般人の間で、立派な父親になれるか自問自答する。シリーズ3作連続の登板となったジャスティン・リンの演出は相変わらず、走り屋としての彼らの根源的な活動よりも、人間ドラマや作戦の遂行に重きを置いているものの、列車と並走する高級車強奪、リオの民家の屋根伝いの逃走劇、銃撃戦など、部分部分に入れられた活劇の肉付けがそれぞれに素晴らしく、シリーズ最高傑作のカタルシスを誇る。中でもヴィン・ディーゼルとWWEのロック様ことドウェイン・ジョンソンの肉弾戦の迫力はシリーズ屈指の魅力を誇る。胸板の厚さでも上腕筋の説得力でも明らかにヴィン・ディーゼルは迫力負けしているのだが 笑、ドムの差し伸べた手にホブスががっちりと握手を交わす中盤の展開は、90年代のマッチョなアクション活劇ファンには心底堪らない展開だろう。

 シリーズ最高の相棒たち、『ワイルド・スピード』のヴィンス、『ワイルド・スピードX2』のローマン・ピアース(タイリース・ギブソン)とテズ・パーカー(クリス・"リュダクリス"・ブリッジス)のナイスなソウル・ブラザーぶり、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』のリコ・サントス(ドン・オマール)と「なんでんかんでん川原社長」ことテゴ・レオ(テゴ・カルデロン)のレゲトン・マリアッチ・コンビ、ハン・ソウルオー(サン・カン)の再登場、『ワイルド・スピード MAX』のジゼル・ヤシャール(ガル・ガドット)の妖艶さと新たなロマンスの行方など、チーム・メンバーたちの枝葉の部分までしっかりと丁寧に描かれている。相変わらず敵役にこれと言ってパッとするような悪役が出て来ないのは難点だが、ラストの金庫を引きずりながらの数十kmの並行走行には流石にバカ笑いが止まらなかった。心底バカな旅路の果てに、チーム・ドムの面々には束の間の幸福が訪れるが、その幸せは長くは続かない。ラストに出て来たまさかの人物の再登場には唖然とさせられた。シリーズ3,4の低調さを覆した今作は、シリーズ1~4と6~8を繋ぐ見事なターニング・ポイントとなったシリーズ最高傑作である。

【第800回】『ワイルド・スピード MAX』(ジャスティン・リン/2009)


 ドミニカ共和国の山道、ガソリンを積んだ大型タンクローリーが田舎の山道を走る中、3台の車が猛追する。ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)の合図により、車外に出たドムの最愛の恋人レティ・オルティス(ミシェル・ロドリゲス)は、用意周到に最後尾に細工をする。ドムの一味には、『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』のハン(サン・カン)がいる(この後、東京に行く予定だと語っている)。銀行強盗をせず、ガソリンに狙いを定めたドム一味にとって、今回の仕事も容易かったはずだが、爬虫類を飼う運転手がなかなかの曲者で、6人の計画は失敗に終わる。『ワイルド・スピード』において、住み慣れたLAの街からドミニカに逃げて来た男にも、徐々にアメリカFBIの包囲網が迫って来ていた。ドムと共に住み慣れたLAを離れ、彼を追ってドミニカ共和国にまでやって来た最愛のパートナーを守るために、大金を置いてドムは出て行く。しかし長年連絡を絶って来た妹ミア・トレット(ジョーダナ・ブリュースター)からの報せにドミニクは絶句する。一方その頃、『ワイルド・スピードX2』のカーター・ベローン逮捕により、FBIに転職したブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)は麻薬密売の大物「ブラガ」を逮捕し、ドラッグを撲滅する為に奔走していた。

 『ワイルド・スピード』シリーズ第四弾。シリーズ番外編的な扱いだった『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』を経て、W主演的立場だったヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカーが再結集した処女作『ワイルド・スピード』の正当なる続編と言っていい。ハイ・スクールの頃からの腐れ縁ながら、クラシック・カーを愛し、罪を憎まない最愛の人レティを失ったドミニクの復讐劇と、麻薬撲滅という任務遂行のため、ドラッグの元締めを追うブライアンとが思いがけなく同じ敵と出会い、利害が一致する。その強引な脚本上の展開には苦笑しつつも、2人の再会の葛藤の場面は『ワイルド・スピードX2』のブライアンとローマン・ピアース(タイリース・ギブソン)との関係性と同工異曲の様相を呈す。ヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカーも年老いたが、それ以上に可憐だったジョーダナ・ブリュースターも随分年を取った 笑。月日の流れは残酷である。敵役の存在感の薄さは相変わらずだが、アメリカ×メキシコのボーダーライン上の地下トンネルのアイデアは、心底馬鹿馬鹿しいアイデアながら、ドナルド・トランプがメキシコとの間に国境を作ると宣言した現代を数年先んじていたと言っていい。かつての『ワイルド・スピード』シリーズは、女よりも車を選ぶようなカー・マニアたちのストリート・レースの熱狂だけで拗ねてが成立していたのに対し、今作は脚本を練れば練るほど、カー・チェイスの根源的な快楽からは大きくかけ離れて行く。物語の出来は旧作や続編と比較しても極めて凡庸な内容ながら、ヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカー両雄が並び立つ姿はやはり魅力的に映る。

【第620回】『スター・トレック BEYOND』(ジャスティン・リン/2016)

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