【第624回】『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』(ビーバン・キドロン/2004)


 新しい年を迎えたイギリス、雪の降り積もったロンドン、今年もブリジット・ジョーンズ(レネー・ゼルウィガー)は嫌々ながら母親(ジェマ・ジョーンズ)のパーティに参加する。チャイムを鳴らすと、笑顔で迎え入れてくれる母親の姿。相変わらず元気な伯父さんにはお尻を触られ、久しぶりに会った父親(ジム・ブロードベント)は心底浮かない表情を浮かべながら、可愛い娘と久しぶりの抱擁を交わす。何もかもが変わらないジョーンズ家の日常、しかし唯一変わったのはここに愛する人がいること。前作同様に、後ろ向きでベランダに佇み談笑するマーク・ダーシー(コリン・ファース)に声をかけると、振り向いた彼は母親に勧められたセーターを着ている。実は同じ雪だるま柄のセーターの色違いを着込んだブリジット・ジョーンズはその瞬間、天にも昇るような幸せの絶頂に達する。ロバート・ワイズ監督の『サウンド・オブ・ミュージック』のジュリー・アンドリュースを彷彿とさせる歌声と緑溢れる丘。まさに幸せの絶頂にあるブリジット・ジョーンズだが、相変わらず仕事ではTV局のリポーターとしてこき使われている。決死のスカイ・ダイビングの際も、愛するマークを思い浮かべるジョーンズの乙女心はあえなく泥の中に一直線で、前作よりも更に肥え太った巨大なお尻は養豚場の中に落ちる。昨夜のセックスの余韻が冷めずに会社へ遅刻したジョーンズは、上司に呼び出される。今度こそクビかと覚悟したところ、視聴者に好評でレギュラーを増やす計画を提案される。モニターの中には、前作でサヨナラをしたダニエル・クリーバー(ヒュー・グラント)の姿。雑誌編集長だったクリーバーはまるでジョーンズの後を追うようにTVリポーターに転身していた。

特大ヒットしたヘレン・フィールディングの小説『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編。独身32年目、体重61kg、タバコ1日42本、アルコール1日32~50杯のこじらせ系女子ブリジット・ジョーンズは前作でケンブリッジ大学時代の因縁の学友であるマーク・ダーシーとダニエル・クリーバーから同時に求愛を受けたが、最終的には幼馴染で弁護士のマーク・ダーシーを選ぶ。今作はそれからちょうど1年後の物語である。変態ではない将来有望な彼氏と同棲するブリジット・ジョーンズは幸せの絶頂にあるように見えるが、彼女の愛し過ぎる性格がマークには重荷になる。ベッドで寝ている際もブリジット・ジョーンズの視線に襲われるマークは、目をつぶったまま「やめてくれ」と静止するが、弁護士活動をしている日中も恋人からの電話に振り回される。ブリジット・ジョーンズは一言で言えば重い女なのだが、マークは前作で彼女の「ありのままが好き」と宣言した手前、重たい彼女の行動を大らかに全て受け止める。だがシャザ(サリー・フィリップス)やジュード(シャーリー・ヘンダーソン)に背中を押され、彼女を嫌う女性の進言をブリジット・ジョーンズは間に受けてしまう。マークはレベッカ(ジャシンダ・バレット)という綺麗な女性といるところを目撃される。愛されている実感のあるジョーンズは女の影など受け流せば良いはずだが、こじらせ系女子である彼女は自分の容姿とレベッカの容姿を比べ、愛する彼氏はきっと脚の長いレベッカと浮気しているに違いないと勘繰る。それは浮気性の元カレのクリーバーと付き合った彼女のトラウマかもしれないが、マリッジ・ブルーに陥った主人公の判断は、まるで自らの幸せを遠ざけるように動く。

前作『ブリジット・ジョーンズの日記』では物語とは別に、劇中に流れる音楽のセンスが映画の出来を決定付けた。Perry Comoの『Magic Moments』を筆頭に、Andy Williamsの『Can't Take My Eyes Off You』やAaron Soulの『Ring Ring Ring』、Marvin Gaye&Diana Rossの『Stop,Look,Listen(To Your Heart)』、Dramatics『Me And Mrs Jones』、Julie Londonの『Fly Me To The Moon』、Chaka Kahnの『I'm Every Woman』などの音楽が要所要所でドラマを盛り上げた。中でもクライマックス・シーンで2度流れたDiana Rossの『Ain't No Moutain High Enugh』のメロディがブリジット・ジョーンズの気持ちを代弁するかのように2度鳴り響いたのが忘れられない。今作では挿入歌のセンスが前作よりもやや後退したように思えるが、いやはやどうして要所要所のセンスは外さない。私が覚えている限りでは前作同様のPerry Comoの『Magic Moments』を筆頭に、Average White Bandの『Pick Up The Pieces』、Rufus Wainwrightの『I Eat Dinner』、10ccの『I'm Not In Love』、Marvin Gayeの『Let's Get It On』など名曲目白押しで、監督がシャロン・マグアイアからビーバン・キドロンに代わっても、音楽的センスは揺るがない。Aretha Franklynの『Respect』から『Think』への移行、タイの多幸感溢れるビーチの場面で満を辞して流れたPrimal Screamの『Loaded』など印象的な挿入歌の使用が今作のクオリティを決定付ける。もちろんラストのBeyonceの『Crazy In Love』など一般層への配慮も抜かりない。前作のエイドリアン・ライン『危険な情事』の安直な使用からの豹柄のパンツには腹を抱えて笑ったが、今作は前作以上にコメディに接近する。ラブ・ロマンスを逸脱するスキー場の場面の痛快さに加え、流石に人種差別を心配するバンコクでの留置場の場面は英国人特有のシニカルなジョークが冴える。レネー・ゼルウィガーの増量は流石にやりすぎ感はあるが 笑、肩の凝らないヒット作の意匠は堪能出来る。

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