【第647回】『フィフス・ウェイブ』(J・ブレイクソン/2016)


 林の中からキャシー・サリヴァン(クロエ・グレース・モレッツ)の荒い息遣いが聞こえて来る。追っ手から逃れた彼女は林を抜け国道に出ると、防犯カメラ作動中の貼り紙のある一軒のスーパー・マーケットを見つける。中はボロボロに破壊され、食料のほとんどは強奪されている。キャシーはキャンディ類やお菓子など店に残った品物を次々にパッグへ詰めていく。やがて生理用品に手を伸ばした時、トイレの奥から「助けてくれ」という男の呻き声が聞こえて来る。銃を構えながら、ドアの向こうをそっと開けたキャシーは瀕死の状態で銃を構える1人の男と威嚇し合う。もう一方の手はジャンパーの中に隠れ、見えない。武器なのか凶器なのか、素性の知れない相手にパニックになるキャシーは、男の隠した手から光るものが見えた瞬間、男に向けて発砲する。だが彼女が銃に見えたのはシルバーの十字架のネックレスだった。錯乱状態の中で、人間を殺めてしまったキャシーはほんの数日前まで平和だった日々を思い出している。ごく普通の高校生だったキャシーは、両親と弟との4人暮らし。友達にも恵まれ、彼女はアメフト部のキャプテンであるベン・パリッシュ(ニック・ロビンソン)に恋し、互いに相思相愛の関係にあった。美しい女子高生の平和な日々を第一の波が打ち砕いていく。それは段階を踏んで人類に襲いかかる滅亡までのカウントダウンだった。

 第1の波=暗黒、第2の波=崩壊、第3の波=感染、第4の波=侵略という仰々しいメッセージを含有する設定は、いわゆる「世界の終わり」を扱う週末思想ものである。ゼロ年代で言えばスティーブン・スピルバーグの『宇宙戦争』やマット・リーヴスの『クローバーフィールド/HAKAISHA』、直近の『10 クローバーフィールド・レーン』やドラマの『ウェイワード・パインズ』や『LOST』とも多くの親和性をも持つ。冒頭、第一波で世界中の電波がシャットアウトした世界で、キャシーはあらゆる道路で車同士が正面衝突し、旅客ジェット機がみるみるうちに高度を失い、校庭に墜落するのを目撃する。程なくして第二波の大地震と大津波がアメリカ全土をあっという間に呑み込んでいく。キャシーの住む街並みも跡形もなく呑み込まれ、森の中へ遊びに来ていたキャシーはサム・サリヴァン(ザカリー・アーサー)を連れて木々の上に何とかよじ登り事無きを得る。第三波ではウイルスの蔓延により、生き残った人類のほとんどがふるいにかけられたかのようにバタバタと死んで行く。キャシー一家も元気だったはずの母親リサ・サリヴァン(マギー・シフ)を失い、失意のどん底にいたが、弱り切った一家の絆に第四の波が追い討ちをかける。問題は『フィフス・ウェイブ』という仰々しいタイトルを謳っていながら、人類に対する5つの過酷な試練が順を追って徐々にスケール・ダウンしてしまうことに尽きる。第1の波=暗黒、第2の波=崩壊、第3の波=感染に至る前半部分の展開は決して悪くないが、中盤に大人たちを次々に殺してしまったところで、子供たちが物語を動かしていく原動力となるのだが、この脚本があまり成功してるとは言い難い。

 スピルバーグの『宇宙戦争』で言えば、離婚した港湾労働者が2人の子供たちと束の間の再会を果たしている時に事件は起きた。父親失格の烙印を押された男の子供たちの奪還というテーマは、スピルバーグが一貫して描いた父性の不在と家族の再生いうテーマと合致する。とんでもないレベルの地球存亡の危機に、経験豊かな大人が子供たちを奪還し、母親(元嫁)に届けることがトム・クルーズのミッションとなる。それに対して今作は両親の死が随分と呆気なく訪れ、キャシーやベンら高校生以下に国家の存亡が全て託される。何の訓練も受けていないヒロインであるキャシーはいきなり銃を握り、アザーズ(異星人)だらけの環境に放り出される。ライト・パターソン基地へ向かう道中で、彼女はアザーズよりも早く運命の人エヴァン・ウォーカー(アレックス・ロー)と出会い、救われる展開は所詮はクロエ・グレース・モレッツのアイドル映画だと理解していてもかなり困惑する。弟との約束を果たすために、救出を試みるヒロインを2人のイケメンが支える頃になると、侵略者のはずのアザーズはまったく攻めてこない。パニック映画でありながら、後半はパニック描写がほとんどなく、緊張感が薄れてゆく。もし続編ありきの分量で物語るのであれば、今作では第3波までで打ち止めとし、第4波以降は次作に持ち越しくらいの余裕があればダイジェスト的な編集は免れたはずだが、第1から第5までの流れを2時間弱に収めようとすれば、どうしてもダイジェスト的な編集にならざるを得ない。子供向けラノベ作品だとすれば諦めがつくが、『宇宙戦争』や『クローバーフィールド/HAKAISHA』の後継と思うとやや物足りない。

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