【第663回】『バッド・ボーイズ』(リック・ローゼンタール/1983)


 イリノイ州シカゴ、夜の街では16歳の高校生ミック・オブライエン(ショーン・ペン)が今日も非行を繰り返していた。中年のバッグを引ったくり、追ってきた男を夜の闇の中で殴打すると、その男の財布からも有りっ丈のカネを抜き取る。マフィアさながらの個人プレーだが、彼にはカール(アラン・ラック)という悪友がいた。ボロ・アパートの部屋に戻り母親を呼ぶも、娼婦をしている母は愛人と共にバスタブに浸かっている。面白くないミックはアンプにギターを繋ぎ、夜中に大音量でかき鳴らしている。一方、ミックのクラスメイトであるパコ(イーサイ・モラレス)も札付きの非行少年だった。8歳の弟を引き連れながら、ヒスパニック系の集団のボスとして暗躍する男の父親は定職に就かず、昼間から酒とタバコと麻雀に入り浸る。絵に描いたようなシカゴのゲットーの底辺の暮らし。やがてカールに黒人グループとの大規模な麻薬取引があると聞いたミックは拳銃を買い込み、車を盗み、まるで警察さながらの尾行を開始する。だが拳銃は強奪する時の脅しのためだと嘯くミックのあてが外れ、パコの仲間が胸を撃ちぬかれ、カールもまた死んだ。ミックはパトカーに追われるうち、ハンドル操作を誤り、8歳のパコの弟をはねとばしてしまう。

 何故この男をもっと早く、刑務所に入れなかったのか?強盗・傷害・暴行など悪事の限りを尽くし、このままでは凶悪犯罪者になるしかないミックは簡易裁判所で判決を受け、即レインフォード少年刑務所送りとなる。愛するJC(アリー・シーディ)に見守られ、ミックは少年刑務所に向かった。片親の目も世間の目も彼に対する風当たりは冷たいが、ただ一人レインフォード少年刑務所のラモン監督官(レニ・サントーニ)だけはミックの更生を第一に考え、親身になって接する。「夜の魔術師」の異名を取った撮影監督ブルース・サーティースの夜景撮影、『ダーティ・ハリー』のハリー・キャラハンの最初の相棒だったチコ・ゴンザレス役のレニ・サントーニの起用など、明らかにドン・シーゲル『アルカトラズからの脱出』への強い影響が感じられる。サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島に存在した鉄の牢獄と言われたアルカトラズ刑務所ほど堅牢ではないが、レインフォード少年刑務所も少年院送りになった未来の凶悪犯罪者予備軍が跋扈する酷い環境である。15歳のユダヤ少年ホロウィッツ(エリック・ガリー)と相部屋になったミックは、ボスを気取るヴアイキング(クランシー・ブラウン)とトウィーティ(ロバート・リー・フッシュ)らボスに睨まれながら、常に命の危険に晒されている。さながらその環境は猿山の猿の上下関係にも近い。囚人たちには順位が付けられ、食堂や風呂場、昼間の就労やスポーツ・レクリエーションの現場が順位を覆すために男たちに与えられた唯一のチャンスとなる。

 トム・クルーズ、ケヴィン・ベーコンら並み居るライヴァルたちを押しのけ、主演の座を獲得したショーン・ペンの若さ溢れる演技がただ素晴らしい。昨日まで自由を謳歌し、傍若無人に暴れ回った少年がこの世界の不自由さに気付き、不条理なピラミッド社会で徐々にのし上がる様子はマフィアのボスとなる風格を讃えている。だが『アルカトラズからの脱出』が脱獄の過程を丁寧に描いていたのに対し、今作ではホロウィッツの入れ知恵でミックが一度は脱獄を試みるものの、すぐにラモン監督官(レニ・サントーニ)に連れ戻される。今作では徹底して、悪の道から正しい行いへ悔い改めようとするミックの悲しい内面が描かれる。ミックに8歳の弟を轢き殺された学校のクラスメイトであるパコは彼への復讐を誓う。大口の麻薬取引だった黒人グループの主犯格を最初に撃ち殺し、レインフォード少年刑務所に入るミックへの復讐のために、男は彼の心をズタズタに引き裂こうと、関係のない人物までも復讐劇に巻き込んでゆく。やがてウィンフィールドの少年刑務所が手一杯のため、ミックとパコは同じレインフォード少年刑務所に送り込まれる。巡り巡った因果が火花を散らし、一触即発の状態となった少年刑務所はトラブルを欲する囚人たちの好奇の目に晒される。出所したトウィーティの身に起きた悲劇こそが、なかなか更生出来ない少年刑務所の難しさを物語る。クライマックスのブルース・サーティースのカメラは冒頭のシカゴの夜の街のひりつくような猥雑さ同様に、底なしの悪と復讐に染まる2人の因果を浮き彫りにする。目には目を、歯には歯をの状況において、ミックが最後に取った決断、引きのロング・ショットにエンドロールなど、絶頂期にあったブルース・サーティースのカメラワークにも大いに魅了される。当時、クリント・イーストウッドの『タイトロープ』と2本立てで観た忘れ得ぬ1本である。

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