【第683回】『バイオハザード: ザ・ファイナル』(ポール・W・S・アンダーソン/2016)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

【第682回】『バイオハザードV リトリビューション』(ポール・W・S・アンダーソン/2012)


 ロサンゼルス沖に停泊する安息の地「アルカディア号」内、アルバート・ウェスカーとの壮絶な死闘を終え、クレア(アリ・ラーター)やクリス(ウェントワース・ミラー)らと生存者を救出してタンカーの甲板へ出てきたアリス・アバーナシー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に対し、上空からアンブレラ社の戦闘部隊が突如襲いかかる。アヴァンタイトルに集約された甲板上でのバトル。頭上のヘリからワイアーで登場するのは、かつてアリスと行動を共にし、深夜のラクーンシティから無事生還した美しき元S.T.A.R.S.隊員ジル・バレンタイン(シエンナ・ギロリー)だった。ラクーンシティ脱出以降、アリスとは別行動だったが、アンブレラ社に囚われて拷問された挙げ句、胸にクモ型デバイスを取り付けられてレッド・クイーンに洗脳され、一転してアリスに牙を剥く。前作『バイオハザードIV アフターライフ』でウェスカーに首に血清を打たれた後、身体からT-ウイルスが抜けたアリスにジルが襲い掛かる。二丁ライフルで必死に抵抗を試みるが、甲板にいた仲間たちは次々に殺され、圧倒的な戦力差を前にそれでも一人戦うアリスは、多大な犠牲者を生んだ壮絶な銃撃戦の末に戦闘機の墜落に巻き込まれ、海へ転落する。体が深く沈みゆく中、アリスの意識は遠のいていく。

 ミラ・ジョヴォヴィッチ主演で快進撃を飛ばすソニー・ピクチャーズのドル箱コンテンツ『バイオハザード』シリーズ第5弾。エピソード2,3で安易に強くなり過ぎたヒロインを踏まえ、前作では遂にアリスの超人設定が一度フラットに。今作では最大のライバルだったジル・バレンタインと初めて力関係が逆転し、ひたすら劣勢に立たされるヒロインの姿が印象深い。海へ転落し、徐々に遠のいてゆく意識がもう一度吹き返した時、彼女の傍らには耳の不自由な娘ベッキー(アリアーナ・エンジニア)と『バイオハザードIII』で死んだはずのカルロス・オリヴェイラ(オデッド・フェール)がトッドの名前でアリスを優しく見守っている。今作でアリスが見た世界は現実世界と仮想現実とを行ったり来たりし、さながら『マトリックス』シリーズのような肉体と精神が乖離した今を生きる。アリス自身が数十体ものクローンを意のままに操った『バイオハザードIV アフターライフ』の導入部分の快進撃の一方で、アリスはこの仮想現実とリアリティの危うい境界線の上を歩く。彼女の見る仮想現実にはジョン・カーペンターの『ハロウィン』そっくりなショットもある。今シリーズは一貫してかつてのハリウッド・ヒット作の無邪気なオマージュを隠そうとしない。

 それと共に今作の一番の醍醐味は、シリーズで印象深い活躍を残したかつての人気キャラクターの再登場に他ならない。かつてアリスを支えたメンバーが一転して彼女の敵となり、彼女の敵だったメンバーが仲間になるという逆転の発想はまさに、現実空間と仮想空間との対比をより一層鮮明にする。ポール・W・S・アンダーソンはニューヨークのタイムズスクエア、東京・新宿、モスクワの赤の広場という3つの時代・場所を代表する固有名を、カムチャツカにある旧ソ連軍の艦隊だった場所にある地下の巨大施設の中にアトラクションとして設ける。3D地図ではベルリン・エリアもあったようだが、NYシークエンス、モスクワ・シークエンスと分岐したシークエンス部分は図らずも今作のゲーム的快楽を明らかにする。現実空間のように見えるのは仮想空間だが、敵の攻撃を受けたアリスの肉体からは真っ赤な血が滲む。簡単に逃げられない堅牢な巨大施設の中にヒロインを迷い込ませる設定は監督の十八番であり、『バイオハザード』の地下研究所「ハイブ」や『バイオハザードIV アフターライフ』のシタデル研究所と同じ構造を繰り返すが、唯一違うのは、アリスの置かれた状況が2Dでも3Dでもなく、まさに4Dの現実が襲いかかる点にある。裸に白いタオル1枚のミラ・ジョヴォヴィッチが巻き込まれた閉鎖空間の白昼夢のような白さ、中盤の吊り下げられたクローンたちのビジュアルなどSFとして決して悪くない場面もあるが、擬似母娘の繋がりをミッションよりも重んじ、巨大リッカーの繭中に閉じ込められたベッキーを救う様子はやはりジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』への影響が色濃い。

【第681回】『バイオハザードIV アフターライフ』(ポール・W・S・アンダーソン/2010)


 東京・渋谷センター街、ある雨の夜、傘を差しすれ違う人々の中でJ Pop girl(中島美嘉)が突如通行人の首に襲いかかる。T-ウィルス汚染は食い止められず、全世界へ蔓延し、ここ東京でも最初の感染者が発見された。前作から1年後の12月某日。アンブレラ社は本社機能を東京の地下へと移し、巨大地下要塞を築いていた。アルバート・ウェスカー議長(ショーン・ロバーツ)は前作のラスボスだったアイザックス博士(イアン・グレン)を罵倒したが、今度は自分も同じ方法を取り、日夜T-ウィルスの研究を続けていた。ある日、堅牢なはずの巨大要塞の正門が破壊される。アンデッドの仕業かと思いきや、そこにいたのはアリス・アバーナシー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)と無数のクローンだった。アリスとそのクローン達は地下要塞に壊滅的なダメージを与えることに成功する。ウェスカーは地下要塞をあっさり見限りヘリで逃亡。予め仕掛けていた特殊爆弾を爆破し、痕跡さえも消し去る。クローンアリスもろとも、渋谷周辺は地下要塞ごと壊滅した。ウェスカーは勝利を確信するが、オリジナルのアリスは生き延びてヘリの後ろから彼に近付く。アリスはウェスカーを追い詰めるが、彼に血清を打たれ、能力を失ってしまい、そのままヘリが富士山に墜落する。

 記録的ヒットを飛ばした人気シリーズ『バイオハザード』第4弾。1作目の生みの親であるポール・W・S・アンダーソンが監督に復帰。彼はパート2,3で主人公のアリスがT-ウィルスが打ち込まれたことで超人的な特殊能力を身に付けてしまい、アクションの緊張感が失われたことを猛省し、特殊な血清を打ち込まれたアリスの特殊能力をフラットにすることで、アンデッドや無数の外敵達との緊迫感を取り戻す。ここでは最初の原理である人間vsアンデッド(ゾンビ)の図式に立ち返る。1作目では神経ガスの影響でヒロインのアリス自身がそれまでの記憶を失くし、失った記憶のパズルを繋ぎ合わすことで全てのミステリーが解ける形式を用いていたが、今作ではアリスではなく、クレア集団の女団長クレア・レッドフィールド(アリ・ラーター)の記憶を奪還するまでの物語である。まるでタランティーノの『キル・ビル』前後編やジェームズ・マンゴールドの『ウルヴァリン: SAMURAI』のような導入シーンは、パート2,3でこじれてしまった設定をゼロに戻すための時間に他ならない。監督が描きたい物語は、その先にあるヒロインがアラスカにある安息の地「アルカディア」へ向かう物語である。緯度・経度で指定された場所へ向かうがそこにはアルカディアはどこにもなく、地の果てのような光景が拡がっている。

 アリスと記憶を失ったクレアがたどり着いたのは、ロサンザルスにあるシタデル刑務所である。この刑務所内を彷徨い歩く一行に待ち構える試練は、1作目のアンブレラ社の地下研究所「ハイブ」と同工異曲の様相を呈す。生き残ったメンバーは8名。だがヘリコプターに乗れるのは2名。しかも無事に安息の地へ降りられる保証はどこにもない。1作目のような衆人環視システム「レッド・クイーン」の罠は迫ることはないが、この刑務所の周りは無数のアンデッドたちに囲まれている。のっぴきならない状況の中で裏切り者が生まれ、彼らが考えつく手段はもはや1つしかない。1作目でジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』にオマージュを捧げたポール・W・S・アンダーソンは今作ではまたしてもジェームズ・キャメロンにオマージュを捧げる。攻撃する際に頭部が二つに割れ、鋭い牙で噛み付いてくるマジニやアジュレのビジュアル造形はまんまエイリアンであり、水中深くに潜る彼らに待ち構える恐怖はキャメロン89年の海洋アクションの名作『アビス』を彷彿とさせる。苦労して安息の地へ辿り着いたはずの生存者たちは、乗り込んだ施設でまたもや恐怖の体験に襲われる。これまで女性キャラクターばかりが前景化するだけだったシリーズにようやくクリス・レッドフィールド(ウェントワース・ミラー)が登場する。堅牢な刑務所から彼がアリスと共に逃げ出す様子は、『プリズン・ブレイク』シリーズの自虐的パロディにも思える。アルバート・ウェスカーの造形は『マトリックス』のネオの劣化コピーのような様相を呈す。心なしかスロー・モーションの使用も前2作より冴え渡る。

【第678回】『バイオハザード』(ポール・W・S・アンダーソン/2002)


 近未来のアメリカ、ラクーンシティ郊外に位置するアンブレラ社の地下研究所「ハイブ」では今日も数百人の社員が日夜仕事に励んでいた。アンブレラ社は全米No.1の複合企業であり、アメリカでの家庭用医薬品シェア率90%以上を誇る巨大企業だった。だが研究中の生物兵器T-ウイルスが何者かの手によって施設内に漏洩するバイオハザードが発生。堅牢なセキュリティ・システムに外部からの侵入など起こるはずがないとタカをくくっていた社員たちは当初、作動した警報機を訓練か何かだと勘違いする。無人の部屋に厳重に管理してあった謎の生物兵器T-ウイルスの液体が染み出し、通気口などの空調設備を通じて、各部署に拡がる様子は恐ろしい。かくして外部へのウイルス漏出を防ぐため、ハイブのメインコンピュータ「レッド・クイーン」は所内の各区画を封鎖して、消火剤であるハロンガスや、スプリンクラーの水を大量に散布し、約500名を超える所員全員が危機に陥っていた。一方その頃、地上にある洋館のバスタブにはアリスという名の女(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が眠っていた。目覚めるが彼女は何も思い出せず、ロックされた銃の隠し場所を開けて唖然とする。全裸に服を羽織り、建物の外に出た女は、只事ではない気配を瞬時に感じ取る。飛び立つ鳥の大群、風に揺れる枯葉、女は無我夢中で「誰かいるの?」と叫ぶが姿は見えない。何も思い出せぬまま彷徨うアリスは、突然謎の男性マット・アディソン(エリック・メビウス)に抱きかかえられ、次いで突入してきた特殊部隊によって2人共拘束されてしまう。

 大ヒットを記録した『バイオハザード』シリーズの記念すべき第1作目。アンブレラ社は表向きは優良企業であり、500数名の社員はアンブレラ社の恐るべき陰謀など知る由もなく、それぞれの持ち場で仕事に励む最中、事件は起こる。全ての空間がロックされ、エレヴェーター内に多数の人間が取り残される様子は純然たるパニック映画の様相を呈す。逃げ惑う人々の地獄絵図、複数の男たちの腕力を持ってしても、逃げ切れない状況を監視カメラのモニターだけが不気味に逐一監視している。結果として、500名以上の社員を抱える地下研究所「ハイブ」の秘密を知る者は全滅の憂き目に遭う。人々の地獄のような叫び声がこだまする中、衆人環視システム内には冷ややかに状況の推移を見つめている「誰か」が存在する。その危機的な状況の中で、記憶喪失のアリスは「ハイブ」内部に侵入することになる。さながら「レッド・クイーン」は『鏡の国のアリス』のレッド・クイーンであり、『エイリアン』シリーズの宇宙貨物船ノストロモ号の「マザー」のようにも思える。地上戦に臨む彼らも同じくアンブレラ社の恐るべき陰謀など知る由もなく、特殊任務を受け、「ハイブ」に乗り込んで来た。アンブレラ社特殊部隊隊長ジェームス・P・シェイド以下、名うての民間特攻部隊に配属されたメンバーは戦場の最前線に送り込まれた尖兵のように気高く、勇敢に物事に立ち向かう術を心得ている。当初、彼らの捕虜となったアリスやマット、スペンサー・パークス(ジェームズ・ピュアフォイ)らは部隊を頼りにしながら、「ハイブ」社の中枢へと徐々に歩みを進める。しかし彼らの前には、想像だにしない試練が待ち構えているのである。

 前半のパニック映画の模範のような展開から、中盤以降ジョージ・A・ロメロのゾンビ映画のような活劇に転じるポール・W・S・アンダーソンのB級感溢れるアイデアが素晴らしい。当初、容易い任務に思われた戦闘部隊の人員が次々に犠牲になる展開は、リドリー・スコットからジェームズ・キャメロンへバトンを繋いだA級大作である『エイリアン』シリーズの強い影響下にある。『エイリアン』はその名の通り、エイリアンが次々に主人公たち一行を襲ったが、今作では数々のゾンビやケルベロスたちが彼らに襲いかかるが、肝心要の黒幕となる衆人環視システムの監視者は姿を現さない。チャド・カプラン(マーティン・クルーズ)やJ.D.サリナス(パスクエール・アリアルディ)ら男性陣が及び腰になる中、アリス・アバーナシー同様に男勝りな性格で任務に励むレイン・オカンボ(ミシェル・ロドリゲス)が印象に残る。神経ガスにより記憶喪失になったヒロインは、スペンサー・パークスやマット・アディソン、彼女の妹を媒介として、記憶が少しずつフラッシュ・バック(より戻し)していく。この点で言えば『ジェイソン・ボーン』シリーズの主人公にも近い。レインとアリスを中心に女性たちが奮起する様子はジェニット・ゴールドスタインとシガニー・ウィーバーが男勝りな活躍を見せたジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』と同工異曲の様相を呈する。ゲーム映画と聞いて二の足を踏んでしまった諸兄も、ジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』が好きならば観ておいて損はない。猛々しい女性のイメージはシガニー・ウィーバーやリンダ・ハミルトンから、ミラ・ジョヴォヴィッチへと継承されていった。

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