【第1122回】『マイ・ブラザー 哀しみの銃弾』(ギヨーム・カネ/2013)


 1974年ニューヨーク・ブルックリン、アンソニー(マティアス・スーナールツ)がアメリカン・ジョークを交わしながら談笑する部屋に、刑事のフランク(ビリー・クラダップ)たちが踏み込む。そこで目撃したのは、かつて愛し合いながら、あっさりと捨てたかつての恋人ヴァネッサ(ゾーイ・サルダナ)の姿だった。前科持ちの男を牢屋にぶち込んだフランクは、9年の刑期を終えて出所する兄のクリス(クライヴ・オーウェン)を迎えに来ていた。姉のマリー(リリ・テイラー)とのしばしの抱擁の後、娑婆に出て来たクリスは遠くで見つめる弟と視線を合わせる。その足でまず向かうのは、老い先短い持病を抱えている父のレオン(ジェームズ・カーン)の入院先だった。弟のフランクは兄貴を自宅に匿い、更生のため、車の修理工の働き口まで用意していた。一度は堅気の仕事に落ち着こうと決意したクリスだったが、かつての悪仲間のマイク(ドメニク・ランバルドッツィ)や元締のルイス(マーク・マホーニー)との関係はなかなか切れない。しまいには別れた妻のモニカ(マリオン・コティヤール)までもが2人の子供の親権を盾に、クリスに高額のお金を強請る。別れた妻に要求されるお金、そして新しい彼女ナタリー(ミラ・クニス)との暮らしに纏まったお金が必要なクリスは、再び犯罪に手を染めてしまう。

 ギヨーム・カネとジェームズ・グレイが共作した脚本は、「放蕩息子の帰還」から「兄弟の確執」の主題など、真っ先にジェームズ・グレイの2007年作『アンダーカヴァー』と同工異曲の様相を呈す。兄が犯罪者であることをひた隠しにして来た弟は、今度こそ兄を更生させようと各所に働きかけるのだが、弟の気持ちを兄はあっさりと踏み躙る。正義に生きる弟と悪に染まる兄の対比を、取り巻きの連中たちとの関わり合いから描きながら、歩み寄れない2人の不器用さを丁寧に紡ぐ。母親は健在だが随分前に離婚し、余命いくばくもない父レオンは姉と共に暮らすのだが、フランクの些細な一言がきっかけで父親は激昂する。感謝祭の夜、兄の気の利いたプレゼントに感情を爆発させる父親は、明らかに弟よりも兄貴を可愛がっているのだが、中盤以降その隠れた秘密が父親の口から懺悔される。だが2人の兄弟の確執に割って入るのは、父親でも姉でも子供達でもなく、彼らが心底愛した女たちに他ならない。中でも私生活で監督のギヨーム・カネと長年交際し、2011年に長男を生んだマリオン・コティヤールの大胆な娼婦ぶりが鮮烈な印象を残す。70年代のヴィンテージ・カーやヒット曲の引用、銀行強盗からの終盤のカーチェイスなど『フレンチ・コネクション』や『ミーン・ストリート』のような猥雑な名作の影響が浮かんでは消える。いかにもジェームズ・グレイの十八番な物語はそれゆえに敬遠され、自らが製作総指揮と脚本という裏方に回ったことは想像に難くないなかなかの佳作に仕上がっている。

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