【第797回】『ワイルド・スピード』(ロブ・コーエン/2001)


 昼間のロジャース運送の活気から夜の倉庫街の静けさへ、日本製家電を乗せたトラックは強盗集団に3方向から囲まれる。助手席に釣鐘を差し込んだ後(この襲い方が凄まじい 笑)、猟銃で撃ち落としたフロント・ガラスの穴に男がダイブする。運転手の抵抗も虚しく、輸送品は強盗団の手によって呆気なく奪われる。翌日のトレットの雑貨とカフェ、密かに店員ミア・トレット(ジョーダナ・ブリュースター)に好意を寄せる男ブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)がいつものようにやって来る。ツナマヨ・サンドを頼み、ミミの部分をカットしてくれと伝えた男の姿に、店の奥で聞き耳を立てている男ドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)がいる。新聞を読みながら昼間から酒をくらい、一瞬だけブライアンの方を振り返る男は威嚇するような視線を浴びせながら、再び店内に背を向けて座る。そこへ常連のヴィンス(マット・シュルツ)、レティ・オルティス(ミシェル・ロドリゲス)、レオン(ジョニー・ストロング)、ジェシー(チャド・リンドバーグ)の4人がいつものようにやって来る。トレットたち一味は部外者を拒絶しながら、ファミリーとしての忠誠を重んじていた。ある日、その環境にブライアンというノイズが現れたことから、緊密に見えた関係には亀裂が生じ、波風が立つ。
 
 無謀な若者と思慮深い悪役とは、車と妹ミアを通して奇妙な友情で結ばれる。パトカーに囲まれ、絶体絶命のドミニクをブライアンが救う。その日から2人の関係は深い友情で結ばれることになるが、それを快く思わない幼馴染で腐れ縁のヴィンスは反発する。やがてブライアンの隠された秘密が明らかにされる時、疑心暗鬼に陥ったトレット軍団の危険な駆け引きが始まる。久しぶりに再見したが、近年の映画のマーケットに反旗を翻すかのようなアジア軽視と日本へのリスペクトはもはや相当に前時代的である。クライスラーやフォードリンカーン、ゼネラルモーターズなどの国産車には目もくれず、今作はトヨタ・スープラ、日産スカイラインGT-R、240SX、マキシマ、ホンダ・インテグラ、S2000、シビッククーペ、マツダRX-7、三菱エクリプスといった20世紀末の国産スポーツ・カーへの憧憬を隠そうとしない。オマケに今作の主人公たちの前に立ち塞がるのは、T&Kフードにアジトを構えるジョニー・トラン(リック・ユーン)率いるトラン一味に他ならない。今作は『頭文字D』のようなストリート・レーサーども(走り屋たち)の日常にフォーカスしながら、愛すべき馬鹿者たちのマシン愛を浮き彫りにする。ハーヴァード大学を卒業しながらも、相変わらず馬鹿丸出しで大味なロブ・コーエンの演出には苦笑しつつも、力業で押し切ったクライマックスの数kmの暴走がどうしようもなく熱を帯びる記念すべきシリーズ第1作である。

【第741回】『トリプルX』(ロブ・コーエン/2002)


 チェコ・プラハの夜の宮殿内にあるライブ会場、ワイヤーで降りて来たタキシード姿のジム・マックグラス(トーマス・グリフィス)は殺し屋集団からテープを奪い取るが、追っ手が来たのを確認すると、渋々中に入る。見通しの良い2階に陣取るヨーギ(マートン・チョーカシュ)の元に外にいた仲間たちから連絡が入る。舞台の上でRammsteinが『Feuer Frei 』を奏でる中、ジムは人混みを掻き分けながら、最前列へと歩み寄るが、2階に陣取るヒットマンであるキリル(ワーナー・デーン)に背中を打たれ、即死する。全身脱力した男の姿を観客たちがダイブさせる異様な光景。旧ソ連軍の生物兵器である恐るべき液体を入れたグラスを掲げながら、ヨーギはほくそ笑む。かくしてアメリカ国家安全保障局(NSA)の作戦はまたしても失敗に終わる。プロのエージェントが背中を撃たれ、殺されたことの道義的責任を追及されたアメリカ国家安全保障局のアウグスト・ギボンズ(サミュエル・L・ジャクソン)は、もはやこのプロジェクトにはプロではなく、札付きのワルが適任なのではとアメリカ中から集められた犯罪者たちに白羽の矢を立てる。『007』を嘲笑した導入場面の後の展開は、近年のDCコミックス版の『スーサイド・スクワッド』と同工異曲の様相を呈す。一方その頃、カリフォルニア州サクラメントでは、ホテルマンを装ったザンダー・ケイジ(ヴィン・ディーゼル)がディック・ホッチキンス議員(トム・エヴェレット)のコルベットを強奪し、生中継の危険なスタントに打って出る。

 首の後ろに「xXx」の大きな刺青があるザンダー・ケイジは、命を懸けたエクストリーム・スポーツ“Xゲーム”で若者たちにその名を知られるカリスマ的な存在だった。彼の生死をかけた生中継は10代の若者たちから熱狂的な支持を受ける。ラップ・ミュージックやゲームを有害だとして若者たちから奪い取ろうとしたホッチキンス議員のコルベットを見せしめのために、地上数100mからダイブさせる男は正義のヒーローを気取っているが、そこにアメリカ合衆国の巨大な権力が彼をねじ伏せに現れる。朝のダイナーでの第一次試験、コロンビアのコカイン畑(これは道義的にコロンビアの許可は取ってあるのか 笑?)で行われた第二次試験の後、ザンダー・ケイジは晴れてアメリカ国家安全保障局のアウグストのNo.1として、チェコ・プラハ潜入へのミッションが降る。当初は誘いを拒んだザンダーだったが、アウグストに三振法で脅され、渋々チェコの犯罪組織「アナーキー99」に潜入する。99年に祖国ロシアを捨て、チェコに渡った「アナーキー99」とたった一人で潜入捜査をさせられたザンダーとの戦いは、2002年の作品ながら思いっきり冷戦末期の80年代後半〜90年代前半のアメリカ製アクション大作の影響下にあると言っていい。祖国を奪われ、化学兵器で世界を混乱に貶めようとするヨーギの人物造形は、『ダイ・ハード』のハンス・グルーバー(アラン・リックマン)や『沈黙の戦艦』のウィリアム・ストラニクス(トミー・リー・ジョーンズ)を想起させる。この時点では既にアメリカ同時多発テロ事件は起きているが、その後のテロの時代を正確に据えているとは言い難い前時代的な展開が、これはこれで面白い。

 ロブ・コーエンとヴィン・ディーゼルの『ワイルド・スピード』の余波として誕生した『トリプルX』シリーズは、古くは『007』や『ダイ・ハード』、『沈黙〜』シリーズの多大な影響を受けながらも、そこに2000年代の新機軸としてエクストリーム・スポーツの要素を新味に加える。エクストリーム・スポーツとはいわゆる速さや高さ、危険さや華麗さなどの「過激な(extreme)」要素を持った、離れ業を売りとするスポーツの総称として広く知れ渡っている。ザンダー・ケイジはこのエクストリームバイク、スノーボード、ロッククライミング、スカイダイビングなどを極め、いわゆる『ジャッカス』以降の危険さを持って「アナーキー99」の一掃に打って出る。ロブ・コーエンの演出は中盤までは凡庸の域を出ないものの、ヨーギの愛人であるイレーナ(アーシア・アルジェント)の素性が明らかになるあたりから、俄然面白くなる。所詮厨二病レベルの活劇と侮ることなかれ。明らかに『バイオハザード』以降の活劇に影響された今作では、深い悲しみを背負った男勝りなイレーナとのロマンスが物語を駆動させる。『X-ミッション』の源流とも言える今作のアクション描写は、とにかく危険極まりない。ダイナマイトで雪山を吹っ飛ばした後の滑落の描写は思いっきりCGだったが 笑、中盤以降、国家を背負うことになるザンダー・ケイジとスパイ敵であるイレーナの描写がなかなか面白い。ザンダーの助っ人として立ち現れるトビー・リー・シェーバース(ミヒャエル・ルーフ)の描写は『ミッション:インポッシブル』ジリーズのベンジーや『スター・トレック』シリーズのスコットを彷彿とさせるが、残念ながらトビーを演じたミヒャエル・ルーフは首吊り自殺により、帰らぬ人となっている。

このカテゴリーに該当する記事はありません。