【第747回】『ラブ・アゲイン』(グレン・フィカーラ/2011)


 足を弄る恋人たちのテーブルの下、愛し合う恋人たちの足をカメラが一通り映した後、キャル・ウィーバー(スティーブ・カレル)と妻のエミリー(ジュリアン・ムーア)の足元が映る。高級レストランに似つかわしくないスニーカーを履いたキャルと妻エミリーの間の絶望的な距離。満腹になるまで食べた夫は妻にデザートを半分個にしようと提案するが、せーので妻は「離婚したいの」と切り出す。顔を強張らせながら、夫に伝える妻の本気な表情にキャルはしばし動揺する。レストランから家への帰り道、運転も妻にさせる失意の夫はエミリーから会社の同僚であるデイヴィッド・リンハーゲン(ケヴィン・ベーコン)と浮気をしたと聞かされ、シートベルトを外し、ドアを開け路上に勢い良く飛び出す。一方その頃、両親同士の親交が深く、ベビー・シッターとしてウィーバー家で働くジェシカ・ライリー(アナリー・ティプトン)が、末娘のモリー・ウィーバー(ジョーイ・キング)をあやしていた。やがて2階の部屋のドアをノックもせずに開けたジェシカは、ベッドに寝そべりオナニーをするロビー・ウィーバー(ジョナ・ボボ)と鉢合わせをする。気が動転したジェシカは急いで1階まで駆け下りるが、ロビーはあろうことかジェシカに思いを寄せていた。同じ頃、弁護士見習いとして働き出したハンナ(エマ・ストーン)はBARでリズ(ライザ・ラピラ)と恋愛話に華を咲かせるが、カウンター越しに視線を送るジェイコブ・パーマー(ライアン・ゴズリング)から猛烈なアタックを受ける。

 真面目を絵に描いたような40代のキャルの人生は大きな危機を迎える。仕事も安定し、2人の子宝に恵まれたウィーバー夫婦は結婚25年目。中学生の時に妻と出会い、最初のデートでアイスクリームを馬鹿にされた後、高校時代に2人は見事ゴール・イン。その後生真面目なサラリーマンとして勤続25年の男は、郊外に一軒家を構え、このまま幸せな老後に向かうはずだった。しかし妻の突然の浮気から、熟年離婚を切り出された夫はいきなり独身マーケットに放り出される。早くに結婚し、妻だけしか女を知らないキャルは妻の不倫の後遺症を引きずり、BARで酒に溺れ、誰彼ともなく同じ話を繰り返す。その姿を憐れみ、キャルに声を掛けるのはプレイボーイのジェイコブ・パーマーである。44歳バツイチで2人の子持ち、着丈の合わないスーツ、クタクタになるまで履き倒したニューバランスのスニーカー、マジック・テープの財布を持つキャルは結婚して25年、いつの間にか惨めなおっさんに成り果てていた。ナンパ師でモテ男のジェイコブは非モテのおっさんキャルのメンターとなり、恋のテクニックの手解きをする。服はカジュアルなGAPで良いというキャルに無理矢理、ハイブランドのスーツを着せ、16種類ものコーディネートをクレカで購入するジェイコブはさながら愛の伝道師としての側面を持つ。師弟関係はやがてかけがえのない友情へと変化し、未練がましくエミリーを思うだけだったキャルの元に、教師の女ケイト・タファティ(マリサ・トメイ)が魅惑的に現れる。

 夢にまで見た『ラブ・アゲイン』の後、男としての尊厳を取り戻したキャルは、師匠であるジェイコブのような堂々たる男になって行く。一方で常に女を欠かしたことのなかったジェイコブは本当は一途な運命の愛を密かに求めている。中盤、突如雷に打たれたようなジェイコブ・パーマーとハンナとの純愛はまさに『ラ・ラ・ランド』の序章のような輝きに満ちている。キャルと女教師ケイトとの恋がどこかユーモラスに描写されるのに対し、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンのロマンス描写が妙にリアルで胸がときめく。アドリブのような2人の会話劇と可笑しなジョーク、ぶつ切りにされたショット、まるでエミール・アルドリーノの『ダーティ・ダンシング』のような美しいリフト・アップ場面は、デイミアン・チャゼルも大いに参照したに違いない。中年男に恋愛を享受する女癖の悪いジェイコブは、弁護士見習いの女性と生まれて初めて本当の恋に落ちる。しかし心底驚嘆しかねない強烈な愛の磁場がウィーバー家の前に訪れる。まるで『マグノリア』のクライマックスのような真に驚嘆すべき愛情の連鎖は「魂の伴侶」を求め続ける男たちがようやく見つけた「真実の愛」を声高に提示する。その中で唯一成就しなかったロビー・ウィーバーとジェシカ・ライリーのロマンスだけが妙に味わい深い余韻を残す。家族の破壊と再生をモチーフにしたラブコメの一つのエピソードに過ぎないのだが、『ラ・ラ・ランド』前夜のライアン・ゴズリングとエマ・ストーンの抜群の相性の良さが窺い知れる秀作である。

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