【第751回】『L.A. ギャング ストーリー』(ルーベン・フライシャー/2013)


 第二次世界大戦が終結し、4年が経過した1949年のロサンゼルス、かつて伝説のボクシング・チャンピオンとして名を馳せたミッキー・コーエン(ショーン・ペン)は引退後ギャングとなり、暗黒街の顔役としてLAの街を牛耳っていた。ハリウッドランドの人気の無い高台、コヨーテが吠え掛かる中、シカゴからやって来た2人のギャングを鎖で縛り上げ、両側に括り付けられたワゴンが凄惨な脅しをかける。「この街は俺が支配した。出て行け」という言葉にも応じない男は両側から発進した車に胴体を引きちぎられ、悲惨な死を遂げる。「シカゴに帰ってお前が見たままをボスに知らせろ」顔色一つ変えずに生き残ったギャングにそう呟いた男の自信ありげな姿は、ギャングの勢力図がシカゴからロサンザルスに移ったことを暗喩する。一方その頃、ロサンゼルス国際空港の待合所では、女がローレン・バコールに似ているという甘い言葉によって、オーディションに誘われていた。その姿を苦々しい表情で見つめるのはジョン・オマラ巡査部長(ジョシュ・ブローリン)だった。治外法権のようなコーエンの娼館、騙された女はチンピラたちにレイプされかかるが、オマラ巡査部長が助けに来る。3人を逮捕し、意気揚々と署まで引き上げて来たオマラに対し、同僚のジェリー・ウーターズ巡査部長(ライアン・ゴズリング)は無気力な笑顔を浮かべながら軽いジョークを言う。40年代のアメリカではあらゆる犯罪が横行し、賄賂でギャングに加担する汚職警官たちが後を経たなかった。

 まるで21世紀版のブライアン・デ・パーマの『アンタッチャブル』のような物語だが、検事や警察本部の役職のついた人間までもがことごとくミッキーに買収され、腐敗した街でただ一人正義を貫く男の描写は、真っ先に70年代最高のワーナー・ブラザーズ社製活劇となった『ダーティハリー』のハリー・キャラハン刑事(クリント・イーストウッド)を連想させる。それだけでなく戦前のクラシック映画であるウィリアム・A・ウェルマンの『民衆の敵』やラオール・ウォルシュの『彼奴は顔役だ!』のようなWB社製の犯罪映画(ギャング映画)を下敷きにしている。市警本部長のビル・パーカー(ニック・ノルティ)はミッキー・コーエンを一掃するラスト・チャンスとして、正義感に厚いジョン・オマラ巡査部長に白羽の矢を立てる。『ダーティハリー』が「法と正義の行使の不一致」を暴力で解決する孤独な男の映画なのに対し、今作のオマラには最愛の妻コニー(ミレイユ・イーノス)がいる。そのお腹には生まれてくる赤ん坊の姿がある。コニーは夫に最前線ではなく、一歩引いたところで仕事をして欲しいと願うが、正義感の強い夫は彼女の制止を振り切り、危険な前線へとのめり込む。元軍人で特殊作戦にも従事したことのあるジョンは、警察の支援はおろか同僚にすら身分が明かせない危険な作戦を了承し、早速チームの編成を行う。その人選のリスト・アップを行うのがオマラではなく、妻のコニーというのが21世紀的なポイントである。オマラ以下6人の秘密警察の精鋭部隊の活躍を、7人目のコニーが女の勘で献身的に下支えする。中盤のリクルート場面から6人の侍が夜の街に集結する姿は直近では『マグニフィセント・セブン』を連想する。

 腐敗したミッキー・コーエン率いる暗黒街の顔役との抗争を本筋としながら、『ゾンビランド』の監督として知られるルーベン・フライシャーは、ミッキーの情婦であるグレイス・ファラデー(エマ・ストーン)とジェリー・ウーターズ(ライアン・ゴズリング)との秘めたる恋を横軸に置く。もはや戦争は終わったと無気力な表情を浮かべるライアン・ゴズリングの自重気味な笑いは、ジョシュ・ブローリンの熱さとは対照的な冷めた視線を投げ掛ける。彼は場末の酒場「スラプシー・マキシーズ」で、グレイスの姿を見た時、一瞬で恋に落ちる。聖書のセールスマンだと嘘を付き、君が好きだと情熱的に話すジェリーの求愛に女は応じる。エマ・ストーンは大戦後のロサンゼルスに女優になるという大きな夢を抱いてやって来るが、ミッキー・コーエンの狡猾な罠にハマり、彼の情婦へと身を堕とす。私を抱いて一緒に逃げてと囁くグレイスの姿はフィルム・ノワールの典型的なファム・ファタールを想起するが、その問いかけに応えるライアン・ゴズリングの姿は心底21世紀的なヒーローの佇まいを有す。私は生きて、裁判に出頭し証人になると誓うエマ・ストーンやオマラの最愛の妻コニーの気高さと勇敢さ。まるでアル・カポネのようなマフィアのボスを演じるショーン・ペンの独壇場のような怪演ぶりが素晴らしい。カジノ、ヘロイン密売の根を絶ち、徐々にミッキー・コーエンを追い詰めて行く秘密警察たちの包囲網。その中で非業の死を遂げた盗聴の名人コンウェル・キーラー巡査(ジョヴァンニ・リビシ)の息子とオマラとの抱擁シーンには思わず涙が溢れる。靴磨きの少年とグレイスの夢を強引に摘み取ったショーン・ペンへの憎しみがライアン・ゴズリングを復讐へと駆り立てる。エマ・ストーンとライアン・ゴズリングは『ラブ・アゲイン』での初めての共演の後、今作をステップとし、『ラ・ラ・ランド』で実に3度目の共演を果たす。

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