【第780回】『ドリンキング・バディーズ 飲み友以上、恋人未満の甘い方程式』(ジョー・スワンバーグ/2013)


 イリノイ州シカゴ、「レボリューション」という名のクラフト・ビールの醸造場、社員10人あまりの小さな会社。米・コーン・スターチを濾過装置で混ぜ合わせ、熱心に麦芽を作る男ルーク(ジェイク・ジョンソン)は麦芽作りに夢中になりながら、通りがかった事務員で紅一点のケイト(オリヴィア・ワイルド)と2.3会話をする。社員10人あまりの小さな会社には男たちの野太い声が響き渡り、彼女は唯一の女手として社長から広報の仕事を任されている。月9度の試飲会、一般客への結婚式用の「レボリューション」ビールのプロモーション、鳴りっぱなしの電話の応対をしなければならないケイトの毎日は忙しい。お昼休み、ギリシャ風サラダを拡げるケイトの元に、発酵作業を中断したルークが現れる。彼女のサラダを横取りする茶目っ気のあるルークとケイトは職場きっての仲良しであり、心通じ合う戦友のような間柄だった。「エンプティ・ボトル」という名の場末のビリヤード場、たむろする社員たちの輪の中にケイトの姿がある。ルークは婚約者のジル (アナ・ケンドリック)と連れ立って、ビリヤード場に来ていた。自分以外、全てクラフト・ビールの社員という気まずさに耐えかね、ジルはすぐに帰ると伝える。渋々ルークは彼女の頼みに応じ、少し早く帰路に着く。ケイトはビリヤード場を出た後、付き合って8ヶ月になる録音技師の彼氏クリス(ロン・リヴィングストン)の部屋を訪ねる。

 『新しい夫婦の見つけ方』同様に、順風満帆に見えたカップルが別荘を訪れたことにより物語は駆動する。ルークとその彼女のジル、ケイトとその彼氏のクリスは、週末をクリスの別荘で過ごしたことから互いの関係性にズレが生じ始める。潔癖症と不潔、アウトドアとインドア、計画性と無計画などの男と女の意識のズレを一通り示した後、結婚間近のカップルは友人のパートナー同士を見比べながら雷に打たれたような衝撃を受ける。意中の相手がいながら、もう一人の異性を思うことは罪なのか?映画は愛する存在がいながら、もし別のパートナーだったらどうなるかというシュミレーションの感情を4者4様に湧き上がらせる。明らかに結婚適齢期を過ぎてしまったアラサー男女の恋は決して衝動的ではないが、互いの将来を予見してしまったバツの悪さに満ちている。口火を切ったのはクリスだが、恋愛のパワー・バランスが崩れたことで、彼らは互いを意識し始め、平和だった関係性に亀裂が走る。『新しい夫婦の見つけ方』同様に、男女の些細な機微を淡々と描いたジョー・スワンバーグのリアリティ溢れる描写力が素晴らしい。今作でもヒロインは感情の檻に自ら鍵をかけ、最後の一線を越えることを踏み留まるのだが、その葛藤の描写が素晴らしい。2人の恋の行方に立ちはだかるのは今作でも突発的な大ケガに他ならない。ヌーヴェルヴァーグのような「自然主義」を根元に据えた低予算なりの即興スタイルは独自に進化を遂げ、男女の心の機微やすれ違いを見事に据えた世界の恋愛映画の新潮流となる。ラスト10分間の心底腑に落ちる展開の清々しさとカタルシスは圧倒的な女性ファンの共感を生んだ。

【第779回】『新しい夫婦の見つけ方』(ジョー・スワンバーグ/2015)


 カリフォルニア州ロサンゼルス、3歳になる息子を抱えた夫のティム(ジェイク・ジョンソン)と妻のリー(ローズマリー・デウィット)はホテルのような別荘に唖然とした表情を浮かべながら、別世界での生活に胸をときめかせている。普段はリーの友達の女優が住む別荘の管理を数日間任された夫婦は、1人息子ジュード(今回も監督の実子!!)と3人でこの地へやって来る。25mプールに全面テニス・コート、冬は暖炉が欠かせない優雅なセレブ生活。プールの脇で1人息子と一緒にヨガに励む妻、夫はスプリンクラーを探そうと裏山の急な斜面に出向くが、少し土を掘り出したところで一丁の拳銃と人骨を発見する。まるで『スタンド・バイ・ミー』や『SUPER8/スーパーエイト』のように身近な危険を探し当てたティムは妻のリーに子供のように自慢気にいい漏らすが、妻は息子の手前、夫のようにははしゃげない。公立学校の体育教師とヨガのインストラクターを務める両親の生活はあまり余裕がない。息子最優先なのは妻も夫も変わらないが、夫婦は1人息子の教育方針の違いでことごとく食い違う。公立学校に務める夫は自分の面目を保とうとするが、妻はイマドキ幼稚園からしっかりとした学校に入れないと駄目なんだと力説する。生活臭のする自宅から、ようやく気分転換出来る環境に移ったにも関わらず、2人の間は息子の将来のことでいつも口論になる。ダイニング・テーブルいっぱいに広げられた税金申告用のレシートの山、その光景に触発されたのか息子は突然うんちの話をし出し、母親に嗜められる。夫婦はどちらともなく、別々の週末を追い求める。妻はこの近くに住む母親の豪邸に息子を連れて向かう。

 夫婦関係は決して冷え切っていないが、かといって熱いままでもない。ティムとリーは互いの愛の結晶である1人息子ジュードをただひたすら愛し、夫婦の関係を二の次にしている。いかにも平静を装いながらも、互いの心の中にはすきま風が吹き荒れる。妻は夫の帳簿の整理が第一だと判断し彼を1人にするのだが、ダメダメ亭主であるティムは土曜の夜にあろうことか友人たちを集めてピザ・パーティを開く。観客はその時点で、リーの逆鱗に触れるぞと思わず警告を発したくなる『ハング・オーバー』気味の乱痴気騒ぎに妙な胸騒ぎを覚えるのだが、明らかに妻と息子を裏切っているように見える夫の描写は友人たちに呑み込まれることなく、白骨化した骨の行方にしか気が向いていない。ガン・ショット、バーベキュー、日光浴に焚き火、鼻で吸い込むコカインの白い粉、一晩でセレブリティがやりそうな体験を一通り行ったティムはそれでも裏山から発掘した一丁の拳銃と人骨のイメージが頭から離れない。夫と妻それぞれの一人称の物語に対し、それぞれの関係性を遠からず結び付ける媒介者となるのはマックス(ブリー・ラーソン)に他ならない。

 あからさまに紋切り型のハリウッド映画を遠ざけるベン・リチャードソンのカメラは、決して被写体に寄ることなく(クローズ・アップを選択せず)、ひたすら複数の人間を1つのフレームの中に居合わせる方を選択し、インディペンデント映画らしい瑞々しい演出に満ちた即興性を取り入れる。ジェニー・スレイト、クリス・メッシーナ、サム・ロックウェル、マイク・バービグリアやジェフ・バエナなど、いわゆるマンブル・コア人脈が大挙出演した今作は、心底イケてない主人公ジェイク・ジョンソンに対し、ミランダ・カーの元夫オーランド・ブルームがリーに寄り添う王子様として登場する。2人は共に浮気スレスレのロマンスに身を投じるが、決してパートナーの姿を忘れてはいない。クライマックスでは1人息子ジュードの存在が希薄になったのは否めないが 笑、地味ながら男女の機微を据えた見事な脚本には唸らされる。一見地味な恋愛物語のようでいて、リチャード・リンクレイターの初期作品のような瑞々しさに満ち溢れている快作である。

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