【第783回】『ドント・ブリーズ』(フェデ・アルバレス/2016)


 ミシガン州デトロイト、3人組の強盗がセレブの家に押し入り、盗みを繰り返していた。ロッキー(ジェーン・レヴィ)とマネー(ダニエル・ゾヴァット)は恋人同士。一方父親が警備会社に勤めていて、防犯セキュリティシステムに詳しいアレックス(ディラン・ミネット)をカップルは半ば強引に利用していた。皮肉を込めて「判事」と呼ばれているアレックスは州法を熟知し、1万ドル以上の大金を盗むと重盗犯罪になることを理解している。だがアレックスも密かにロッキーに想いを寄せていた。片思いの相手にこれが最後とせがまれたカリフォルニア・ドリーム。危険なトライアングルは踏み込んでは行けない鬼畜空間に踏み込んでしまう。1時間30分の簡素な物語の中に、ロッキー、マネー、アレックス3者3様の欲望を巧みに盛り込みながら、ノワール・サスペンスのようにテンポ良く進行する見事な手捌き。楽勝であるかのように思われた犯罪計画が一転して暗礁に乗り上げ、逆に絶体絶命の恐怖に陥る脚本の妙。ヒロインを助けることに自らの存在価値を置くアレックスのヒロイン救出ものを装いながら、監督はホラー映画のメタ視点をしっかりと熟知している。意味深な工具のアップ、ベッドの下に貼り付けられた拳銃、逆さまに置かれた亡き妻の写真立てなど意味深なアイテムの数々も恐怖を助長する。右手の甲に乗ったてんとう虫だけがまるでクライマックスを知っているかのように、ヒロインの手の甲に止まり、やがて飛び立って行く。

 荒廃した街デトロイトで起こる犯罪映画としては、ライアン・ゴズリングの『オンリー・ゴッド』と同工異曲の様相を呈す。すっかり人々が消え去り、近所に誰もいなくなったブエナビスタ通り1837に佇む一軒の家では、イラク戦争の退役軍人がひっそりと暮らす。年齢から言えばイラク出兵よりもヴェトナム戦争の帰還兵の方がまだリアリティがある世代だと思うが 笑、盲目の老人(スティーヴン・ラング)は座頭の市や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のチアルート・イムウェ(ドニー・イェン)のような無類の強さを発揮する 笑。まるで『アメリカン・スナイパー』のクリス・カイルのようにPTSDの深い闇を抱える盲目の老人は、悲しみを帯びた人物として登場する。『13日の金曜日』シリーズのジェイソン・ボーヒーズ、『ハロウィン』シリーズのブギーマンことマイケル・マイヤーズ、『悪魔のいけにえ』シリーズのレザーフェイス、『エルム街の悪夢』シリーズのフレディ・クルーガー、『チャイルド・プレイ』シリーズのチャールズ・リー・レイなど、70~80年代のホラー映画には伝説的な殺人鬼が多数登場したが、今作はそれら名作ホラーとは対照的に、ロッキーたちが自身の空間に押し入ったと言う理由で、家主が窃盗集団を追い払おうとしているに過ぎない。後に地下室で彼のMADな生き様が明らかになるが、その点で今作の脚本は幾分釈然としない。だが永久に抜けられないダンジョンのような部屋、電気も消され、視覚を奪われた彼らの身に起こる悲劇、緊張と緩和の中、10数秒に1度やって来る恐怖体験など、ホラー映画の型通りの演出を最も効率良く回収したメタ視点によるなかなかの職人的力作である。

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