【第1031回】『オリエント急行殺人事件〜死の片道切符〜』(カール・シェンケル/2001)


 トルコの首都イスタンブール、アジアとヨーロッパを結ぶ豪華な大陸横断国際列車オリエント急行パリ経由カレー行き。今日もさまざまな乗客を乗せて発車しようとしていた。事件を解決したベルギー人の有名な探偵エルキュール・ポワロ(アルフレッド・モリナ)も乗客の一人で、ロンドンへの帰途につくところだった。階段を降りてくる絶世の美女、彼女絡みの降りかかる難事件を解決したポワロは、ベリーダンサーのヴェラとしばし見つめ合う。名探偵と宝石泥棒のロマンスに終止符を打ち、偶然出会った古い友人で鉄道会社の重役であるビアンキの取りはからいで、飛行機嫌いのポワロは列車で3日間の旅を選択する。二日目の深夜、列車は突然スピードをおとした。前夜から降り続いていた雨による落石で、立往生してしまったのだ。ポワロは隣の部屋の落下物の音で眼をさました。同時に車掌を呼ぶベルが鋭く廊下に響いた。オリエント急行は落石で立往生したまま朝を迎えた。そしてポワロの隣りのコンパートメントにいたアメリカ人の億万長者ラチェットが、刃物で身体中を刺されて死んでいるのを発見した。彼を脅迫するVHSテープの中には、五年前に起きたアームストロング誘拐事件に関連する映像があった。

 アガサ・クリスティの1934年の推理小説『オリエント急行の殺人』を原作とする物語の2001年の現代解釈版。冒頭からポワロの恋人と思わしき美女ダンサーが出て来たり、携帯やノートパソコン、スタイラスペンが出て来るなど現代に対応した物語だが、その反面、イスタンブールの詩情溢れる描写は半減している。億万長者ラチェットの護衛依頼額も1万5000ドルから20万ドルに変わり、脅迫状として届けられる手紙もVHSテープに変わっているのだが、オリジナル版にあった風情はここにはない。曰くありげな数々の脅迫状、直前に被害者がポワロに懇願したある仕事、頭文字Hのスカーフ、化粧バッグに忍ばせた短剣などの幾つもの道具立てはオリジナルに忠実なのだが、そこに至る捜査の行方がやや駆け足でロジックが通っていないのも気になった。元版では自動車のセールスマンだったアントニオ・フォスカレッリがいかにもインチキ臭い筋肉サプリメントのセールスマンに変わっているなどアガサ・クリスティなら絶対にやらないだろう人物造形の改変も何とも勿体ない。これまでにポワロを演じてきたアルバート・フィニーやピーター・ユスティノフ、デヴィッド・スーシェと比べても、アルフレッド・モリナのポワロは原作に忠実でもなく、ミスキャストに思える。アームストロング家の家主の設定をマイクロソフト社を脅かす程のOS作りの天才にしたのも致命的だし、パソコンをいじるポワロの姿にもう笑うしかない気分になった。

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