【第993回】『ソウ』(ジェームズ・ワン/2004)


 薄汚れた浴槽の中、沈められたアダム・フォークナー(リー・ワネル)は突如目を覚ましもがき始める。パニック状態の男は事態が飲み込めないまま、汚れた水の中からびっくりし勢い良く顔を出す。壁に足首を鉄の鎖で繋がれ、対角線上にはもう1人男がいて、中央ではもう1人の男が頭から血を流して死んでいる。生まれて初めて死体を目の前で見たアダムはただただ怯えている。薄汚れた広いバスルームで目を覚ました2人の男、2人は自分たちがなぜここにいるのかもさっぱりわからないまま、対角線上に鎖で繋がれていた。死体の脇に置かれたレコーダー、「PLAY ME」と書かれたマイクロテープ、拳銃に装填された一発の銃弾、タバコ2本、着信専用の携帯電話、そして2本のノコギリ。状況がまるで呑み込めず錯乱する2人に対し、マイクロテープの男の声は「6時間以内に目の前の男を殺すか、2人とも死ぬかだ」とメッセージを残し、彼ら2人を生死を賭けたゲームへと誘う。地下室(密室)の中に閉じ込められた2人、ホラー映画というよりも「ソリッド・シチュエーション・ホラー」と呼ばれた不条理劇の幕が開く。

 『ソウ』シリーズの記念すべき第一弾。ローレンス・ゴードン(ケイリー・エルウィス)とアダム・フォークナー、互いを知らない2人の男は見知らぬ部屋に監禁され、不条理な拷問を受ける。この恐怖に耐えられず頭を撃ってうつ伏せになる死体、あくまでゲームの参加者を殺さず、相手を死に追いやる「ジグソウ・キラー」と称する男の冷酷無比な非道さは、特等席で覗き見る快楽殺人の様相を呈す。犯人の手がかりとなる唯一の証拠品であるペンライト、その持ち主であるゴードンを一気に窮地へと陥る。妻アリソン・ゴードン(モニカ・ポッター)との関係はすっかり冷えたものとなり、娘ダイアナ(マッケンジー・ヴェガ)の男親への思いだけが僅かに核家族を繫ぎ止める。低予算であることを逆手に取った脚本作り、アクション場面は流石に未熟さを感じさせるものの、二転三転する物語は我々観客の興味を最後の最後まで釘付けにする。デイビッド・タップ(ダニー・グローヴァー)の有り得ないような最弱ぶりには流石に首を傾げるものの、真に結末の読めない展開があんダンス映画祭を熱狂の渦へと導いた。

【第808回】『ワイルド・スピード SKY MISSION』(ジェームズ・ワン/2015)


 イギリス・ロンドン、オーウェン・ショウ(ルーク・エヴァンス)が集中治療室に入る病院を襲撃した実の兄デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)は、言葉も返せなくなった弟に瀕死の重傷を負わせた相手に復讐を誓う。一方その頃、全ての犯罪歴が消え、恩赦になったドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)とレティ・オルティス(ミシェル・ロドリゲス)は地元だったロサンゼルスに戻り、悠々自適の生活を送っていた。田舎道をドライブ中、レティはドムの心境を図りかねていた。『ワイルド・スピード MAX』の麻薬組織潜入の時に記憶が喪失したレティはドムへの愛情はおろか、15年前から現在までの記憶を一切思い出せずにいた。同じ頃、ブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)は息子ジャックの慣れない送迎に手を焼いていた。妻ミア・トレット(ジョーダナ・ブリュースター)と息子との3人暮らし。すっかり改造車からは足を洗い、ミニバンを運転するブライアンは去勢され、明らかにレーサーの血に飢えていた。そんな折、DSS本部でルーク・ホブス捜査官(ドウェイン・ジョンソン)は深夜まで熱心に仕事をこなす。直属の部下であるエレナ・ネベス(エルサ・パタキー)は根負けし、先に退社する。ホブスが席に戻ろうとした時、怪しい人影が彼のPCをいじっていた。ホブスを執拗につけ狙うのは、弟の復讐を誓った殺し屋デッカード・ショウだった。

 ユニバーサル・ピクチャーズのドル箱コンテンツ『ワイルド・スピード』シリーズ第7弾。前作『ワイルド・スピード EURO MISSION』のラストに暗示されていた恐怖の展開は、まるで石井隆の『GONIN』の京谷一郎(ビートたけし)のように、弟に瀕死の重傷を負わせた相手を次々に抹殺しに来る。イギリス軍特殊部隊出身で、政府に公式記録がない「影」の男であるデッカード・ショウは、今シリーズ中、最も危険な敵役に違いない。恩赦になり、自由の身となったはずのドミニクとブライアンも、最愛の恋人の記憶喪失と良き父親にならなければと言う感情にそれぞれ苦悩していた。その矢先、シリーズ中期を彩った仲間の死により、ドムは怒りの炎に燃える。地下駐車場のタイマン・バトルがスリリングで息を飲む。男たちの間にハンドルを切る(逃げる)の言葉はない。このままシンプルにハゲ&マッチョ同士の復讐戦にしても良さそうだが、『SAW』や『死霊館』シリーズで知られるホラー映画作家ジェームズ・ワンは突如、ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)なる人物を介入させ、ジャカンディ(ジャイモン・フンスー)率いる民間軍事組織によって捕えられたラムジー(ナタリー・エマニュエル)というハッカーの奪回・救出をミッションの伏線に設ける。ジゼル離脱後のお色気路線を一手に引き受けたラムジーも魅力的だが、『トリプルX』シリーズのサミュエル・L・ジャクソンのポジションにカート・ラッセルを持って来た時点で今作の成功はほぼ約束されたと思って間違いない。

 EURO MISSIONの後、主な出資者である中国の顔色を伺いながらもCHINA MISSIONとはならずにSKY MISSIONと名付けられた物語は、ダサいタイトルに不安げな表情を浮かべるシリーズの熱狂的なファンの大方の予想をあっさりと覆す。2000年代のエクストリーム・スポーツの隆盛を高らかに宣言した『X-ミッション』のように、アゼルバイジャン・コーカサス山脈からの数1000mの決死のダイブに始まり、落下→疾走→落下→疾走→落下と執拗に繰り返す主人公たちのアクションの動線は、様々な都市の市街地を我が物顔で走り回る平面的な「カー・チェイス」や或いは列車との並走などの二次元的なアクションから、明らかに三次元アクションへと圧倒的レベルまで押し上げる。それは2000年のハリボテのようなVFX技術から、15年のVFXの進化の論証ともなり得る。チームメイトの5作目以降のハイパーな成長を見守った層には、彼らのミッションは容易いもののように思えるが、そこに非力な一般人であるラムジーを投入したことで、物事は一気にスリリングな熱を帯びる。勝手知ったる地元に戻って、やりたい放題のドミニクやブライアンのクライマックスのナイト・レースにも感心したが、「君の不味いサンドウィッチを食べた時から僕たちは結ばれていたんだ」というブライアンのロマンティックな言葉には、1作目から見守って来たファンとしては流石に涙腺が緩む。撮影直後の主人公の不慮の事故により、大幅に改変されたクライマックスの10分間には何度観ても溢れる涙を抑えられない。享年40歳、あらためてブライアン・オコナーことポール・ウォーカーのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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