【第901回】『ザ・ギフト』(ジョエル・エドガートン/2015)


 不動産屋のケイシーが待つ玄関先、サイモン(ジェイソン・ベイトマン)とその妻のロビン(レベッカ・ホール)は少し遅れてやって来る。ガラス張りの豪邸、暖炉のある部屋、カリフォルニアを一望出来る高台にある部屋は夫婦が思っていたのとは少し違うが、2人はここを新居に決める。故郷カリフォルニアからシカゴへ引っ越し、生涯の伴侶ロビンと出会ったサイモンは転職し、再び故郷のカリフォルニアへ戻って来ていた。新たな勤め先である大手企業向けのセキュリティ会社、夫婦は必要な家具を揃えるため、街に出て来ていたが、突然男に声をかけられる。サイモンは当初、誰だかわからない様子で困惑した表情を浮かべるが、フェアモント高校で同級生だったゴード(ジョエル・エドガートン)だと知り、安堵の表情を浮かべる。ロビンはゴートに電話番号を書いてくれるよう求め、気さくなゴートはその頼みに応じる。最初は誰かわからなくて困ったと苦笑するサイモンの家の玄関に届けられた贈り物のワイン。ネックにはリボンが掛けられ、ワインレッド色の封筒の中に入れられた一通の引っ越し祝い。それどころかサイモンが働きに出た日中、留守中の家にはロビンに逢いに訪問する。男は公共機関の電話番号帳を作成し、TVのチューニングでも何でもやるからと親しげに声をかける。その姿にロビンは今晩の夕食会にゴードを誘う。過剰じみた接待が疎ましく感じられたサイモンは2度とあいつを家にあげるなと妻にやんわりと注意するのだった。

 幸せな夫婦の間に、かつての旧友がやって来る物語としては直近で言えば、深田晃司の『淵に立つ』が真っ先に連想される。不気味な第三者の侵入により夫婦関係に徐々に亀裂が走る映画としても、ジョン・シュレシンジャーの90年作『パシフィック・ハイツ』のマシュー・モディーンとメラニー・グリフィスの若いカップルや、カーティス・ハンソンの92年作『ゆりかごを揺らす手』のマット・マッコイとアナベラ・シオラの夫婦が真っ先に思い出されるが、今作も中盤まではそれらのフォーマットをしっかり踏襲し、夫婦の身に迫り来るサスペンスをゆっくりとだが確実に醸成する手捌きは見事というより他ない。突然の故郷カリフォルニアへの帰還の真の意味、出世を貪欲に求めるサイモンと彼を支える元インテリア・デザイナーの妻との苦い過去を突然表に出すのではなく、隣家の声〜無造作に段ボールに入れられたアクセサリー、妻が見た悪夢など極めてサスペンスフルな道具立て、演出は見事というより他ない。高校を卒業した後に、東海岸のシカゴにアメリカン・ドリームを目指して上京したサイモンと、その後軍隊に入り、おそらく湾岸戦争の紛争地を回ったゴードとでは見ている景色があまりにも違う。フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』のDVD-Rをプレゼントした時のステレオ・サウンドをプレゼンするゴードの目は静かに狂気を孕んだ表情を見せ、明らかに常軌を逸している。妻の妄執とあっと驚くミスリードの連続、終盤まで目が離せない落ち着いた展開は、俳優ジョエル・エドガートンの恐るべき才能を内外に知らしめた。厭なミステリーの究極形のような不穏な作品である。

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