【第911回】『スパイダーマン3』(サム・ライミ/2007)


 アメリカ・ニューヨーク、電光掲示板に映されたアメリカの英雄スパイダーマンの輝かしい活躍と功績。メリー・ジェーン・ワトソン通称MJ(キルスティン・ダンスト)のハートを射止めた正義の英雄ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)は、恋に仕事に順風満帆の日々を送っていた。コロンビア大学での成績はトップ・クラス、同級生のやっかみを受けるピーターはそろそろMJとの恋を成就させようとしていた。『マンハッタン・メモリーズ』という名のブロードウェイ劇、本場NYで主演に抜擢されたMJの美しい歌声。2人は人生の絶頂の只中にいた。2人並んだクモの巣のハンモック、星を眺める2人の元に、宿主を物色する怪しい黒い物体が蠢く。一方その頃、線路沿いのボロ・アパート、配管を伝いながら、深夜に部屋へと侵入したフリント・マルコ(トーマス・ヘイデン・チャーチ)はベッドに眠る鼻に管をつけた幼い娘を神妙そうな面持ちで見ていた。「出て行って」と後ろから呟くエマ・マルコ(テレサ・ラッセル)の姿。フリントは脱獄犯でNY中の警察から追われる曰く付きの犯罪者だった。一方その頃ピーターは久々に叔母のメイ(ローズマリー・ハリス)の部屋を訪れる。MJにプロポーズするつもりだと伝えた義理の息子にメイは、故ベン・パーカー(クリフ・ロバートソン)との思い出を懐かしむ。ベンがプロポーズの時にくれたシルバーの指輪を叔母はピーターに託す。ちょうどその頃、父親の復讐への鬱屈した思いを抱えたハリー・オズボーン(ジェームズ・フランコ)は親友への復讐の機会を虎視眈々と狙っていた。

 2000年代最強のヒット・シリーズ『スパイダーマン』トリロジーの最終章。開巻早々、幸せの絶頂にあった2人の間で微妙に狂う歯車。恋の劣等生だったピーター・パーカーとは打って代わり、学園のマドンナ〜売れっ子女優として華々しい成功を遂げたヒロインの青春の挫折、鬱屈した想いを抱えた親友の突然の記憶喪失。序盤はそれら小さな物語を見事に回収するサム・ライミの職人的手腕が光るのだが、中盤以降、並行して現れたエディ・ブロック(トファー・グレイス)とフリント・マルコのエピソードを並列に置くことで、物語の糸が非常に入り組んでしまったのは否めない。だが今作のゴシック調の恋愛劇、スーパー・ヒーローにもヴィランにももれなく訪れた苦悩と葛藤はサム・ライミがシリーズを通して描きたかった孤独の陰影が滲む。人を憎む心の連鎖はやがて自分の中に眠る「悪」を顕在化させる。コミック屈指の人気を誇る「ブラック・スパイダーマン」と「ヴェノム」の最終作での突然のサプライズ起用、敬愛する叔父のベンの死に関する驚くべき真相、2人の恋の間に吹いたすきま風。よりによってMJの見ている目の前で、まったく同じ構図でキスをする名誉市民賞を獲得したピーター・パーカーの身勝手極まりない判断など、恋愛映画ファンとしてはどうしてここまでという身勝手な描写が続く。中盤、ピーター・パーカーとハリー・オズボーンの悪の顔を噴出させる場面には何をそこまでというファンの悲鳴も漏れ聞こえた。然し乍ら落下の恐怖さえ感じさせるアクション・シーンの完成度はシリーズ屈指を誇る。290億円もの巨額の制作費を投じながら、最期までコミックスの陰影を何とか死守しようとしたサム・ライミの手腕に惜しみない拍手を送りたいシリーズ感動のフィナーレである。

【第910回】『スパイダーマン2』(サム・ライミ/2004)


 アメリカ・ニューヨーク、香水エヌ・ローズのビルボード広告を感慨深そうに見つめるピーター・パーカー(トビー・マグワイア)の姿、広告に写るメリー・ジェーン・ワトソン通称MJ(キルスティン・ダンスト)の輝けるポートレイト。ミッドタウン高校を卒業し、無事コロンビア大学の物理学専攻に合格したピーターだったが、学業とアルバイトとヒーローとしての両立のバランスに悩める日々を送っていた。ようやく見つけたピザ屋の配送のバイト、この店は必ず29分以内にお客様の元にピザを届けることを絶対とする店だった。だが配達の道中、強盗団を見つけたピーターはスパイダーマンに変身し、悪を挫く。しかしその代償として職をクビになった男は、物理学の授業でも徐々に単位を落としていた。メイおばさんの部屋に戻った失意のピーターの前で行われたサプライズ・パーティ、誕生会の主役は意中のMJと大親友のハリー・オズボーン(ジェームズ・フランコ)に祝福される。庭先にゴミを捨てようとするピーター、背中に感じる熱視線、駆け出しの役者だったMJの初めてのブロードウェイの舞台に必ず駆け付ける約束をし、2人は別れる。一方その頃、ハリーは失脚した父親ノーマン(ウィレム・デフォー)に代わり、オズコープ社の上役にまで登りつめていた。彼は社運を賭けたトリチウムを用いた核融合プロジェクトの総責任者として、ノーベル化学賞も視野に入れる存在にまで成長していた。「もう1人の天才がいるから」とハリーに声を掛けられたピーターはある夜、天才科学者オットー・オクタビアス(アルフレッド・モリーナ)に出会う。

 マーヴェル映画とサム・ライミの『スパイダーマン』トリロジー第二弾。前作で成就したかに見えたピーターとMJの仄かなロマンスは相変わらず振り出しに戻り、モラトリアムな現実に苦悩する姿は、とてもスーパー・ヒーローものとは思えない展開を見せる。英雄もマスクを取れば貧乏な苦学生という悲しい現実、一向に上手く行かないロマンス、そこにサム・ライミはスパイダーマンとしての能力の衰えと、親友ハリー・オズボーンの父親を殺めてしまった葛藤とを巧みに取り入れることで、ドラマ・パートに重厚さをもたらす。我が物顔でNYを跋扈したスパイダーマンの内面を襲った僅かな狂いが、やがてスーパー・ヒーローの存在そのものを否定しかねない重要な事態となる。相変わらずサム・ライミは半径数百m以内のシンプルな物語と人物関係の中に、大きな物語を流し込むのが上手い。煮え切らない両思いのロマンス、前作よりも洗練を増したキルスティン・ダンストの移り気な女心と秋の空、トビー・マグワイアの内面と代父だったベン・パーカー(クリフ・ロバートソン)への思い、それと合わせ鏡のように終盤再登場する父ノーマンと息子ハリーの葛藤など、本来なら活劇パートに添え物のように付随するドラマ・パートが今作は抜きん出て完成度が高い。前作で主人公に善と悪の倫理観を促したJ・ジョナ・ジェイムソン(J・K・シモンズ)とその息子ジョン・ジェイムソン(ダニエル・ギリーズ)の起用も効いている。前作のウィレム・デフォーに比べると、アルフレッド・モリーナの怪演はやや役不足な気もするものの、メイおばさん奪還作戦の高低差のある3D的な活劇、クライマックスのNYを激走する列車でのアクションの説得力はシリーズ屈指の魅力を放つ。

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