【第913回】『アメイジング・スパイダーマン2』(マーク・ウェブ/2014)


 ニューヨーク・クイーンズブリッジ、リチャード・パーカー(キャンベル・スコット)はビデオメッセージに自身の思いを託す。妻メアリー(エンベス・デイヴィッツ)と突如家を空けた両親の姿を呆然と見つめる4歳のピーター(マックス・チャールズ)。オズコープ社の社員証と自家用ジェット、妻がトイレで席を立った瞬間、手の甲に鮮血がついた副操縦士の男が洗面台で手を洗う。彼の目を盗むように、リチャードが送信したルーズベルト宛のアップロード動画、やがて外側からトイレの鍵を閉めた副操縦士は殺し屋としての姿を露わにし、リチャードと取っ組み合いの喧嘩をする。見る見るうちに高度が下がる車体、強化ガラスを割ったリチャードの銃弾、こうして飛行機は墜落し、乗組員乗客合わせて4人が犠牲になる。一方その頃、プルトニウムを積んだトラックを強奪したアレクセイ・シツェビッチ(ポール・ジアマッティ)をNYPDよりも早く、スパイダーマンが追っていた。数kmにも及ぶカー・スタント、アレクセイとの死闘を続けるピーターを尻目に、ミッドタウン高校の卒業式が始まろうとしていた。卒業生総代のグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)のスピーチ、クラスで2番だったピーターはアレクセイを退治し、ギリギリで卒業式に紛れ込む。心配した保護者メイ(サリー・フィールド)の安堵の表情、だが良心の呵責に駆られるピーターの目には、グウェンの父親ジョージ(デニス・リアリー)の幻が見えていた。

 マーク・ウェブの『スパイダーマン』シリーズ通称「アメスパ」の完結編。リア充なモテ男ピーターとその恋人グウェンの順風満帆な人生。そこに満を辞して8年ぶりの再会となった親友ハリー・オズボーン(デイン・デハーン)が交差し、物語が展開するが、旧トリロジーのような三角関係の鞘当てはない。サム・ライミ版の1と並行する物語には当初、メリー・ジェーン・ワトソンの名前があり、実際に撮影現場にシェイリーン・ウッドリーが入ったものの、出来上がった物語からはMJの出演する場面は全てカットされた。今作はピーターが自分を捨てた両親の真実を探る物語であり、ピーターとグウェンの最高のカップルの悲恋の物語に他ならない。代父であるベンの死から、アメリカの正義の英雄としてニューヨークの治安を守り続けた男は、警察署長だったジョージとの約束を忘れずにいた。大黒柱を失った恋人同士、ピーターよりも優秀で、インターンとしてオズコープ社に出入りするグウェンは、自身の人生の未来予想図を最愛の恋人に告げられずにいた。物語を出来るだけシンプルな相克関係に落とし込んだ前作に対し、前半はマックス・ディロン(ジェイミー・フォックス)、後半は急遽ハリー・オズボーンの挿話を物語に盛り込む展開はやや詰め込み過ぎなのは否めない。20歳で2000億円もの巨大企業のボスに登り詰めたハリーを襲うドナルド・メンケン(コルム・フィオール)のクーデター、フェリシア(フェリシティ・ジョーンズ)への仄かな愛、スパイダーマン以上に男勝りなグウェン・ステイシーの手助けが今作では残念ながら仇となってしまう。

 当初、旧3部作同様にトリロジー(3部作)となるはずだった今作はおそらく、アレクセイ・シツェビッチのヴィランであるライノと、レイヴンクロフト収容所に隔離されたハリーのグリーン・ゴブリンの復讐劇が続いたはずだが、北米で製作費の回収すら出来なかった今作の不甲斐ない結果を見て、MARVEL首脳陣はすぐさま新トリロジーを打ち切り、マーク・ウェブの監督降板を決める。2015年2月9日、突如MARVEL映画はスパイダーマンの版元であるソニー・ピクチャーズ(旧コロンビア映画)との数十億規模のパートナー・シップ協定を結び、これによりスパイダーマンという巨大コンテンツの『マーベル・シネマティック・ユニバース』シリーズへの移籍・合併を急遽宣言する。かくして『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でのMCUへの電撃的なスパイダーマンの参画が始まり、単独作である『スパイダーマン:ホームカミング』へ繋がって行く。

【第912回】『アメイジング・スパイダーマン』(マーク・ウェブ/2012)


 アメリカ・ニューヨーク、階段でカウントダウンをし、鬼ごっこを始める4歳の少年ピーター(マックス・チャールズ)は愛する両親を必死で探す。父の書斎に入った時、窓が開き、嵐のような強い風が吹き付けていた。隠れていたはずの父親リチャード(キャンベル・スコット)はピーターの身を隠し、机に入っていたオズゴープ社の極秘ファイルを厳重にしまう。それから数年後、ピーターの存在は叔父のベン(マーティン・シーン)と叔母のメイ(サリー・フィールド)の元で大事に育てられていた。ミッドタウン・サイエンス高校の成績は常に優秀で、高校では弁論部に所属していた。ある日、地下室のパイプ漏れを修理しにやって来たピーターは、思いがけず父の形見だった茶色のバッグを見つける。「RP社」のロゴ・マークの入った革製のバッグは、19歳の時、母親と出会った時から大切にしていたものだった。両親の死が気になったピーターは、父の研究者仲間だったコナーズ博士(リス・エヴァンス)に近付くために、オズコープ社の公開実習に参加する。そこには科学助手として、学内で密かに憧れていたグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)がいた。ラジット・ラーサ博士(イルファーン・カーン)が持ち出した「オズコープ社00」の極秘ファイル、バイオケーブル開発室、そこに侵入したピーターは首筋を蜘蛛に刺され、特殊能力に目覚めて行く。

 サム・ライミ版『スパイダーマン』トリロジーの前日譚となる前後編二部作の前編。両親の突然の死で天涯孤独になったピーター・パーカーが、代父となるベン夫妻に引き取られ、2人の本当の親子のような愛情により、成長して行く物語は『スパイダーマン』トリロジーと同工異曲の様相を呈するが、ここにはまだハリー・オズボーンやメリー・ジェーン・ワトソンがいない。ピーターが思いを寄せるヒロインは、『スパイダーマン3』においてMJの恋のライバルとなったブライス・ダラス・ハワードが演じたグウェン・ステイシーである。『(500)日のサマー』の監督であるマーク・ウェブ版のスパイダーマンは、ピーターの非モテ設定が解除され、女性の方からむしろ積極的にアプローチされるモテ男として描写される。前半45分の展開は『スパイダーマン』トリロジーの前日譚をしっかりと描きながら、2度目の代父となったベンの死が主人公の苦悩を浮き彫りにするのだが、そこにマーク・ウェブはあまり注力せずに物語を押し進める。

 トリロジーで政府軍人と会社のオーナーとしての葛藤の板挟みにあった天才科学者ノーマン(ウィレム・デフォー)は、今作では片腕を失った亡き父の親友コナーズ博士に丸ごと改変されるのだが、ヴィランとしての造形はノーマンほど魅力的とは言い難い。しかしながらクライマックスの学園を襲う巨大リザードとの爬虫類vs昆虫類の闘いは見応えがあるし、原作者スタン・リーが再び登場した図書館の場面も実に痛快で見事である。我々とまったく変わらない普通の人間としてのスーパー・ヒーローの苦悩や葛藤の陰影はトリロジー版よりも随分と薄まっているものの、NYの正義を代弁するようなグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)の父親ジョージ(デニス・リアリー)の起用が、主人公に新たに気付きを与える点は、トリロジーにはなかった魅力を引き出している。前作までのキルスティン・ダンストの憂いを帯びたヒロイン像に比べれば、エマ・ストーンのヒロインは元気印で、時にリザードにも臆することなく立ち向かう気丈さは、警部の娘ならではだろう。クリフ・ロバートソンからマーティン・シーンへ、ローズマリー・ハリスからサリー・フィールドへバトン・タッチされたピーターの保護者像も大きな違和感はない。前3作でMARVEL映画に入門したファンを、大きく失望・落胆させない無難な新シリーズの滑り出しである。

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