【第48回】『サイレント・パートナー』(ダリル・デューク/1979)

マイルズ(エリオット・グールド)はトロントのとある銀行に勤める出納主任。
ある日の閉店後、マイルズは妙なメモを見つけてしまう。

アルトマン『ロング・グッドバイ』でヒッピー的な探偵を演じた
エリオット・グールド主演のもう一つの傑作ノワールもの。

まじめな銀行員がサンタが銀行強盗だと事前に察知し、
本来奪われるはずだった金を偽札とすり替えた事から、
変質的な強盗に命と金を狙われるはめに。

冒頭の同僚との恋仲ともつかない微妙なやりとりに始まり、
偶然に犯人の書体に気付き、物思いに耽る一連の流れが抜群に上手い。

しがない銀行員が、ふとしたことから犯罪を思いつく。
古今東西、そういう些細な心境の変化にサスペンスは宿る。

賑やかなショッピング・モールのクリスマス・シーズン。
偶然見つけた書体との奇妙な合致から、
マイルズがサンタを疑い始めるあたりを視線の動きだけでしっかりと表現している。

犯人がマイルズに騙されてからの
電話を使っての再三再四のやりとりがこれまた実に素晴らしい。
階下の電話BOXの中から執拗に電話をかけて来る様子を縦の構図で見せ、
なかなか主人公と犯人を一つの場所に対峙させない。

犯人が強盗犯だけではなく、レイプ魔でもあるという描写を前半部分に入れただけで、
非力な主人公と、粗暴で手のつけられない犯人との力の差をしっかりと見せつける。

主人公のある密告から、犯人と主人公の間には一度手が出せない距離が生まれるが、
そのサスペンスの構造上の隙間を埋めるようなファム・ファタールな女性の登場が
この映画のサスペンスをひと味もふた味も魅力的にしている。

犯人からすれば、金を奪われ、密告され、
挙げ句の果てには女まで奪われて、怒りの導火線に火がつくわけだが、
そういう1つ1つの事柄を実に丁寧に描写して行くことで、終盤まで緊張感を持続させている。

78年当時、銃もナイフも使わず、
部屋の中で残虐に殺す方法はなかなか思いつかないが
この映画ではあっと驚く直視出来ないバイオレンスな描写が用いられている。

この血も涙もない冷徹な殺人鬼を
『サウンド・オブ・ミュージック』でトラップ大佐役を演じたクリストファー・プラマーが
あの映画とは180度正反対の非道さでもって、体当たりで演じている。

エリオット・グールドとクリストファー・プラマーの正と悪の対比が実に素晴らしいし、
そこに絡むスザンナ・ヨークとセリーヌ・ロメスという2人の女性の必然性もまた実に見事で
本線と伏線が絡み合うことなく、シンプルな脚本は非常にレベルが高い。

この脚本を手掛けたのが、若き日のカーティス・ハンソンである。
『窓・ベッドルームの女』『ゆりかごを揺らす手』でブレイクし
やがてあの『LAコンフィデンシャル』を撮ったサスペンス映画界の巨匠の
偉大なる出発点と言えるし、そのサスペンス描写の上手さは既にハンソンの刻印が見える。

クライマックス・シーンは
同じカナダ映画であるクローネンバーグ『スキャナーズ』の冒頭シーンに呼応する。

『ブルース・ブラザーズ』と『ゾンビ』もショッピング・モール映画の傑作だが、
今作と『スキャナーズ』もそのラインナップに是非ともつけ加えたい。
70年代後半〜80年代前半はショッピング・モール映画の全盛時代でもあった。

また70年代フリークならば、
『ロング・グッドバイ』のエリオット・グールドと『イメージズ』のスザンヌ・ヨークの共演に
真っ先にロバート・アルトマンを思い出したはず。

直接的な影響下にあったはずのハリウッドではなく、
カナダからここまで純粋にアルトマンへの影響を表明する映画があったことは特筆に値するし、
70年代カナダ産映画のレベルの高さを感じずにはいられない。

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