【第45回】『夢だと云って』(クロード・ムリエラス/1998)

情緒不安定な19歳の男の子とそれを見守る家族を描いた作品。

彼のハンデを世間がとやかく言っても、この家族はジュリアンを優しく守っていた。
しかし、ジュリアンが引き起こした“いたずら”が思わぬ騒動となり施設に入れられそうになる。
そんな騒ぎの中、おばあちゃんがこの家の家族に隠されたある重大な秘密を打ち明ける……。

家族の食卓の風景が何度も反復されるこの映画では、
障害を持った長男に周囲の人間が懸命に愛情を注ぎ続ける。

父親はジュリアンの宇宙への憧れを共に応援し、家族で天体の動きを再現してみせ、
妹はキスの仕方を知らない兄のために、ニセの恋人役を買って出る。

ジュリアンの誕生日にはミュージカル風の祝福を家族総出で行い、
貧しい家計にも関わらず、ジュリアンにバイクをプレゼントする。

そんな家族の姿が実に素敵で温かい。
それぞれに小さな問題は抱えつつも、ジュリアンの存在が家族を繋ぎ止めている。

前半はジュリアンを施設に入れたくない家族と、
施設に入れるべきという周囲の人間との軋轢を描く。

この家族、両親以外の弟、妹、おばあさんは全て素人を起用している。
撮影は実はルプシャンスキーで、室内撮影では手持ちカメラを多用して臨場感を演出している。

ムリエラスはもともとドキュメンタリー出身で
劇映画の中にある種のリアリズムを持ち込むのが得意な監督である。
表現スタイルで言うと、ベルギーのダルデンヌ兄弟に近い。

ただその中でも、中盤のバイクとバスが並走するシーンなどは実に躍動感がある。
高架下をくぐると、彼が可愛がる牛に危機が訪れる場面などは、
活劇としてもなかなか味わい深いショットのつなぎを見せてくれる。

ジュリアンが引き起こしたいたずらというよりは、ある一つの事件がきっかけとなり、
父親はこれまで頑に拒み続けた息子の施設への入所を決断するのだが、
個人的にはここで明らかになったもう一つの秘密が、
前半の家族の素晴らしい流れを断ち切ってしまっているように見えるのが少し残念である。

合理的に物事を考えられない主人公だからこそ、
あのような事件を引き起こしてしまったのに、
その後の主人公の行動は、全て合理的な判断のように思えてならない。

施設に入所するとわかった途端、あのような合理的な行動が可能ならば、
いったいこの家族はこれまで何に心血を注いでいたのかと言うことになる 笑。

手持ちカメラと素人役者を起用したリアリズムの手法が
ある程度しっかり形になった前半部に対して
彼が決定的な事件を起こしてからの後半部分のハリウッド映画風のあざとさが
この映画の中ではしっかりと一つになっていないように思える。

ただそれでも、稲藁を敷いた小屋の中に兄弟4人が並んで横になる場面は
文句なしに素晴らしかった。

それまで無口だった弟が、面と向かって言えないことを口にする。
本物の役者以上の存在感を見せた弟役の人間的成長が見られる素晴らしい場面である。

クロード・ムリエラスは
フランスの詩人にして劇作家であるジャン・ジュネの秀逸なドキュメンタリーで頭角を現し、
デビューから3作連続でカンヌにも招待された90年代最も期待されたフランスの監督だった。

決して派手さは無いが、その味わい深い演出はもっと評価されてもいい。
ある意味、デプレシャンやアサイヤスよりも本国での評価が高かっただけに、
15年新作のアナウンスがないことが残念でならない。

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