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【第871回】『白色人~フレームの中の記憶~支離滅裂』(ポン・ジュノ/1994~1995)


 早朝のソウル、タバコを吸いながら窓の外の景色をぼんやり見ていた教授(キム・レハ)の姿。タバコの煙に悪ノリし、金魚鉢の中で飼う1匹の金魚にタバコを押し付けようとする。やがて鉢の中に戻された金魚は勢い良く泳ぎ回る。大学への出勤時、教授は駐車場に無防備に捨てられた千切れた人間の指を発見する。ギョッとした様子を見せながらも、千切れた指に魅せられた男は、大事そうに抱えながら車へと乗り込む。『白色人』はポン・ジュノが韓国映画アカデミーに入学する前、大学の4年時に仲間と製作した1994年の最初の長編である。この頃からコンビを組む初期ポン・ジュノ組の常連俳優だったキム・レハを主人公とし、何もない日常に退屈していた主人公の大学教授が、ある日千切れた指を拾ったことから、その日常に波風が立つ。ホルマリン漬けにされた指をうっとりと眺める主人公のどこかグロテスクな視線、ラストのブラウン管テレビに映し出された三面記事に載る様な事件の様相は、映像学ではなく社会学を専攻していたポン・ジュノゆえの物語を補強する重大なメタファーたり得る。

 2本目の同じく94年の『フレームの中の記憶』は大学を卒業し、韓国映画アカデミーに入学し最初に撮った自習作品である。教授からの「言いたいことを5カットで撮る」という要請に基づき、主人公の少年と愛犬との離別を描いた。開け放たれた黒い門は少年よりもかなり大きく、奥には犬小屋が正面に向いて置いてある。夢にまで見た愛犬との再会、草原での捜索と後ろに鳴り響く犬の鳴き声、そしてラスト・ショットは少年が閉じた門をもう一度開けることで、犬よ帰って来いという少年の想いをもう一度観客に投げ掛ける。『白色人』のラストにも期せずして犬が登場したが、犬の不在というテーマで撮られた簡潔な作品は2000年の長編処女作『ほえる犬は噛まない』のプロトタイプと言っても過言では無い。最後の『支離滅裂』は映像アカデミーの卒業自習作品である。社会的な地位も名誉も集める大学教授の痴態を4部構成で据えた物語は、後のポン・ジュノ作品に通底する様な「情けない男」が登場し、シニカルなユーモアをばら撒く。

 中でも4部構成の冒頭の「ゴキブリ」は主人公の思いと現実の光景とをラジカルに挟み込みながら、現在と未来が見事に結び付く。便意を催した男の曰くありげな炊飯ジャーのクローズ・アップなどスタイリッシュさには程遠いものの、後のポン・ジュノの奇妙でグロテスクな質感と信じられない様なシニカルさ、社会構造を的確に見据えたラジカルな暗喩などここには既にポン・ジュノを構成する全ての要素の萌芽が見える。今作でポン・ジュノは韓国映画アカデミーを見事、首席で卒業し、いよいよ満を辞して長編処女作『ほえる犬は噛まない』を撮る。長編映画とは違い、僅か15分~20分程度の短編の寄せ集めながら、天才はやはり最初からずば抜けた天才だったのだと思わずにはいられない。

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