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【第903回】『エヴァの匂い』(ジョゼフ・ロージー/1962)


 ヴェニス・サンマルコ広場に埋め込まれた男女の銅像、哲学的な男の「男も女も全裸、羞恥心はない」という静かなナレーション。雨に濡れたヴェニスの停泊所から1艇のボートが大海に出る。そこに座る富裕層の男と高級娼婦エヴァ(ジャンヌ・モロー)の姿。一方その頃タイヴィアン・ジョーンズ(スタンリー・ベイカー)は地元のBARで自身のイギリス・ウェールズ時代の思い出話に浸る。一気に呑み屋の人気者になるダイヴィアンの元にブランコ(ジョルジョ・アルベルタッツィ )が現れる。鏡越しにその姿を見た男は狼狽し、一杯奢るからと自分勝手な声をあげた後、酒場の外へ出る。その表情はこの世の終わりのような絶望の淵のような心底荒み切った顔をしていた。2年前、ダイヴィアンは処女作となった原作小説がヒットし、ブランコが映画化権を買い取り、この地に映画祭でやって来ていた。主演女優のフランチェスカ(ヴィルナ・リージ)と既に婚約しているタイヴィアンは恋のライバルであるブランコの登場に内心気が気ではない。風光明媚なトレチェロの近くに別荘を借りたタイヴィアンはこの地で第二作の原稿に取り掛かろうとしていた。ある日の夕、大雨で舵が取れずにボートが故障した有力顧客ピエリと高級娼婦のエヴァは、トレチェロに建てられた一軒家の窓を壊し、中に侵入する。だが雨風を凌ぐ目的での一時的な滞在は、この家の持ち主であるタイヴィアンに見つかってしまう。罪を犯したピエリは反省した様子を見せるが、エヴァはタイヴィアンの高圧的な態度に横柄に振る舞う。

 それどころか女は勝手に侵入した男の部屋の荷物を物色し、ダイヴィアンのライフスタイルをプロファイリングする。本棚に何冊にも渡って入れられた自身の処女小説、花瓶に入れられた場違いな花、木製のテーブルの上に置かれたオブジェ、それらを目視して高級娼婦はこの部屋に住む家主の教養や人間性さえも透視し、薄ら笑いを浮かべる。Billie Holidayの『Willow, Weep For Me』のLPレコードを無造作にターンテーブルに乗せ、静かに針を置いたエヴァは我が家以上に勝手気ままに振る舞う。色ぼけジジイを先に入浴させ、ジャンヌ・モローは当時の恋人だったピエール・カルダンのタイトな衣装を脱ぎ捨て、真っ白な裸体の上にバスローブを羽織る。その場面の極めて退廃的な官能性がジャンヌ・モローの魅力を決定付ける。普通ならば鈍器で殴られた時点で警察に訴える話だが 笑、翌朝からダイヴィアンはエヴァのストーカーと化し、彼女の行動を逐一監視する。アフリカン・ダンスにグラスの淵を触る滑らかな指先、洞窟での隠れんぼ。ドアの前で追い返す自由奔放なファム・ファタールは欲望寸前の男をドアの前でぴしゃりと追い返す。かくして仮初めの勝者の権利を得たタイヴィアンは美しく不道徳で、破滅的である女に骨抜きにされる。墓場まで持って行くべき男の懺悔を甲斐甲斐しくも抱きしめた女は次の瞬間、「私は後悔しない」と宣う。11歳の時に育ての親に強姦されたと嘯く女はその瞬間からファム・ファタールな女として、男の存在を無色透明な金づるとしてしか見ていない。

 トリュフォーの『突然炎のごとく』の撮影直後に撮られ、ジャック・ドゥミの傑作『天使の入り江』前夜に撮られた今作の撮影時、ジャンヌ・モローは34歳で美しさの頂点にあった。ふてぶてしいまでのファム・ファタールぶり、男の言いなりにならないジャンヌ・モローの勝気な色気は11ヶ月に渡る撮影期間で撮られた『突然炎のごとく』、『エヴァの匂い』、そして『天使の入り江』という奇跡のような3本で決定付けられた。ルイス・ブニュエルの『小間使の日記』やフランソワ・トリュフォーの『黒衣の花嫁』、R・W・ファスビンダーの『ケレル』などその後も数多くの傑作に出演したジャンヌ・モローだが、その輝かしきフィルモグラフィの中でも今作のエヴァはジャンヌ・モローの絶頂期の輝きを伝える。肉体は滅びてもフィルムの中では永遠に生き続ける。享年89歳、改めてジャンヌ・モローのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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