fc2ブログ

【第1234回】『ブラックパンサー』(ライアン・クーグラー/2018)


 アフリカ大陸にある謎のベールに包まれた小国ワカンダ。この高度な科学技術を誇る超文明国で、先代ティ・チャカに代わり、その息子ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)が新国王に即位した。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で描かれた父の最期、彼の名を受けた若き新国王は、漆黒のスーツに身を包んだ闇のヒーロー「ブラックパンサー」となり、希少鉱石ヴィブラニウムを守る。ダイヤモンド以上の硬度を持ち、ウラン以上のエネルギーを放出するヴィブラニウム、キャプテン・アメリカの盾の原料にもなったこの超万能資源により、国には富と安息が訪れた。だがヘルムート・ジモが起こした爆破テロによって、ブラックパンサーの存在を世界に知らしめてしまうことになり、ワカンダには大きな危機が迫る。ワカンダを狙う謎の男エリック・キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)は、武器商人のユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)と手を組み、行動を始める。二人は大英博物館からヴィブラニウム製の武器を盗み、取引の目的にワカンダへの潜入を企てる。

 『マーベル・シネマティック・ユニバース』シリーズ第18弾となる今作は、黒人監督によるほぼ黒人キャストの歴史的意義のあるヒーロー映画である。突如、ワカンダ王国の新国王に指名されたティ・チャラはその大義に戸惑いながら、宇宙一のハイテク国家がこれからどこに進むべきか自問自答する。キルモンガーとの滝上での国王争い、明らかに未練タラタラなナキア(ルピタ・ニョンゴ)とのロマンス、執事のようなズリ(フォレスト・ウィテカー)との関係性、不自然なまでにVFXを駆使したアクションの多様など、今作は結果としてこれまでのMCU作品よりも、インドで歴史的なヒットを記録した『バーフバリ』シリーズに近い肌触りを持つ。

 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で初登場したユリシーズ・クロウや『シビル・ウォー』で初登場したCIA捜査官のエヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)の再登場も今作に花を添えるが、それ以上に大写しになるのは、国王親衛隊「ドーラ・ミラージュ」の隊長オコエ(ダナイ・グリラ)、かつてのティ・チャラの恋人ナキア、そしてティ・チャラを後方から支援するシュリという、国を守る女性3人の姿に他ならない。韓国でのカー・チェイスに始まり、女性だけの軍隊である「ドーラ・ミラージュ」の戦いぶりは、MCU作品に深い陰影をもたらす。孤立主義を深めるワカンダ国の姿は、EUからBrexitで離脱した大英帝国の姿に思えてならない。ライアン・クーグラーの演出は、自分たちの出自を理解しながら、敵味方双方が黒人という設定を生かし切った安定のアクションで見応えがある。ブラックスプロイテーションの時代を経て、黒人たちが今、エンターテイメントの最前線に躍り出んとする強烈な意欲作である。

該当の記事は見つかりませんでした。