【第793回】『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』(ロバート・ゼメキス/1984)


 ロマンス作家のジョーン・ワイルダー(キャスリン・ターナー)は、新作を出版社の編集者グロリア(ホーランド・テイラー)に届けて帰宅すると、部屋中がめちゃくちゃになっていた。やがて、南米コロンビアにいる姉イレイン(メアリー・エレン・トレイナー)から電話がかかって来る。彼女はギャングに誘拐されており、数日前にジョーン宛に夫が出した手紙の中にある地図を持って来てほしいというのだ。ジョーンは、早速コロンビアに飛ぶ。処女作『抱きしめたい』でビートルズの上陸に浮かれる若者たちの青春群像劇を描き、スピルバーグの『1941』の脚本に抜擢されたボブことロバート・ゼメキスの長編3作目。音楽にフォーカスした処女作『抱きしめたい』とクラシック・カーにフォーカスした2作目『ユーズド・カー』はどちらかと言えばスピルバーグよりもジョージ・ルーカスの強い影響を感じたゼメキスだったが、ここでは盛大にスピルバーグの『インディ・ジョーンズ』の二番煎じをやっている。あちらは考古学者インディアナ・ジョーンズがお宝探しのために自ら財宝の眠る国に飛んでいたが、今作ではジョーン・ワイルダーという名前の売れっ子女流作家が主人公であり、彼女の危機にジャック・コルトン(マイケル・ダグラス)が着込まれるいわゆる「巻き込まれ型」のサスペンスである。構造として、最初に偶然、ある情報や財宝を手に入れ、次にその奪還を目的とした謎の組織に命をつけ狙われる羽目になるのだが、今作の構造はまさに優等生的に「巻き込まれ型」サスペンスの王道パターンを反復する。

 冒頭の西部劇、服のはだけた女は凶悪な男の毒牙につかまりそうになるが、彼女が太ももに忍ばせていたナイフが心臓を一刺しする。こんな安直な結末の小説で何がベストセラー作家だよと思うのも事実なのだが 笑、彼女の現実は小説ほど満たされていない。執筆に夢中になりトイレット・ペーパーの買い出しをすっかり忘れ、洗い物をするのが面倒で、暖炉に食器を投げる様子から主人公のガサツで枯れた生活が伺える。いま観ると主人公のキャスリン・ターナーの生活ぶりはもう少し丁寧に炙り出しても良かったはずだ。急転直下、マンションの廊下で管理人が刺され、部屋が荒らされたところから主人公は否応なしにサスペンスに引きずり込まれる。彼女の夫はなぜ妻の妹に大事な地図を託したのか?そういう細部は無視しても、どんどん力業でアクションは起動する。言葉が通じない異国、誰ともコミュニケーションの取れない恐怖の中、彼女にとって救世主となる人物が唐突に現れるが、実は彼は救世主でも何でもなく、主人公の持っている地図を狙う悪徳軍人のゾロ(マヌエル・オヘイダ)である。彼女にとって真の救世主となるのは、待ち構えている人間たちではなく、そこを偶然別の用事で通りがかったトラックの持ち主ジャック(マイケル・ダグラス)の方である。女の頼みにも金銭を要求し、重いスーツケースさえ持ってやらない彼の自己中心的な行動に困り果てているのかと思いきや、そうではない。

 今作は本格的なサスペンスでありながら、主人公にとって運命の出会いを横軸に用意する。80年代のコロンビアの治安の悪さの大げさな描写にはやや首を捻りつつも、実はメキシコの山奥で撮影されたアクション・シーンの金のかからない上手さに職人監督ロバート・ゼメキスの名人芸がある。スピルバーグのように派手なカー・チェイスは出来なくとも、100mくらいの車の交差だったり、草原での疾走で十分スリリングに見せるし、断崖絶壁からのスタントマンによるターザンも文句なく面白い。麻薬シンジケートに主人公の小説のファンがいるというのは幾ら何でも信じ難いが 笑、マリファナの焚き火で決まり気絶した運命の人ワイルダーをジャックは決して犯したりしない。『インディ・ジョーンズ』シリーズでは、スピルバーグが虫や爬虫類を細かな演出の一部として用いる中、ロバート・ゼメキスはヘビやワニをあえてアクションの起爆剤として起用する。男女のすれ違いの場面では大蛇が、ラストのエメラルド強奪戦においては凶悪なワニがゾロの片腕を噛みちぎろうとする。そしてアクションの終点にも、エメラルドを呑み込んだワニを取るか?それともジョーン・ワイルダーを助けるのか?ジャックは二者択一を迫られることになる。スピルバーグが『1941』でコメディエンヌとしての決定的な才覚の無さを披露する中、アクションの中にコメディの萌芽を少しずつ混ぜ込もうとするゼメキスとスピルバーグとの作家性の違いが鮮明になる。それを一手に引き受けるのが、80年代に一斉を風靡したダニー・デヴィートその人である。ジャックがワイルダーのために新しい服をベッドに用意する場面は、スピルバーグが後に『オールウェイズ』でオマージュを捧げている。ゼメキスはキャリア初期からロマンス描写もすこぶる上手かったことを再確認した。

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