【第723回】『臆病者』(ロバート・ゼメキス/1991)


 1919年、フランスのとある戦場、49日間に渡り続いた戦で兵士たちは疲弊し、戦場は地獄絵図と化していた。ドイツ軍の侵攻を前に防戦一方だったアメリカ軍の部隊は、侵攻か撤退かの究極の決断を迫られていた。参謀役は中尉(エリック・ダグラス)の指示を仰ごうと彼の姿を探すがどこにも見当たらない。50ヤード後ろにあるアメリカ軍の塹壕へ戻ると、そこでは中尉が素知らぬ表情で身を潜めていた。中尉の臆病さは内外に知れ渡り、彼の父親でもある将軍(カーク・ダグラス)にとって頭痛の種だった。勇敢な将軍の父と、中尉で臆病な息子の対比が素晴らしい作品だが、カーク・ダグラスとエリック・ダグラスという実際の父子が共演しているのも興味深い(マイケル・ダグラスはカークの長男で、エリックの異母兄弟である)。思えばロバート・ゼメキスは84年の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』において、マイケル・ダグラスを主人公に起用しているくらい、ダグラス家との関係性は深い。ゼメキスが幼少期に見た戦争映画のカーク・ダグラスのイメージそのまんまに、彼は組織を指揮する非の打ちどころのない強靭な父親像を演じる。それに対し息子は強い父親像に幼い頃から縛られ、尊敬される父親のような人間になりたいと願うものの、戦場に出ると思わず足がすくむ。

 父カークは息子に対し、戦場で男を見せたら別の部署へ転属させてやると息子に親としての温情を見せるが、実際に戦場に駆り出された息子は、目前で繰り広げられる残酷な光景に意気消沈し、笛が吹けない。ただただ仲間がドイツ兵に撃たれるのを見届けると、命からがら塹壕へと逃げ戻るのである。その後彼のついた嘘が暴かれる時、父と子の愛憎は頂点を極める。80年代のゼメキス映画でしばしば垣間見られた気弱な主人公は、戦場での失態を咎められると逆上し父を責める。長年兵士として祖国のために力を尽くしたカーク・ダグラスは、親としての愛情を一切注ぐことなく、家族をほったらかしにしてきた。そのことを息子のエリックに咎められると、あっさりと認めてしまう。この歪んだ父子関係はアメリカ現代史のメタファーである。敵前逃亡した息子エリックの行動はすぐさま軍法会議にかけられ、処刑させられることになる。死に水を取るのは『1941』や『ブルース・ブラザーズ』に出演していた喜劇役者ダン・エイクロイド。死ぬ前に水ではなくウィスキーを呑む息子を複雑な表情で見つめる父親のカーク・ダグラスの表情が胸を打つ。

 「裏切り者」というセリフは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』において、温厚なマーティ・マクフライを奮起させる台詞だった。今作で何度もリフレインする「腰抜け」や「臆病者」という言葉、十字架に磔にされたキリストのイメージが歪んだ父子関係を絶望的に見つめている。ドラム・ロールが高まり、ラスト・シーンがゼメキスお得意の「落下」で終わるのもその後のキャリアを考えれば実に示唆的である。順風満帆にハリウッドでキャリアを築いた父カークや兄マイケルの陰に隠れ、ダグラス家の最後の血筋だったはずのエリック・ダグラスは俳優の仕事に恵まれず次第にクスリに溺れ、2004年に薬物の過剰摂取で父や兄よりも早く天国へと旅立った。兄マイケル・ダグラスも現在ステージ4の末期癌を患う中、カーク・ダグラスは100歳にして未だ健在である。先行する『トワイライトゾーン』や『世にも不思議なアメージング・ストーリー』のフォロワー・シリーズとして、1989年からスタートしたテレビ・ドラマ『ハリウッド・ナイトメア』は80年代後半に始まり、90年代中頃まで続く。今作はリチャード・ドナー、トム・ホランド、ロバート・ゼメキスのシリーズ中期の短編3本が纏めて映画化されたが、今となっては2本目に若き日のブラッド・ピットが主演していることしかほとんど話題にのぼることがない。ここでゼメキスは若き日のブラッド・ピットとニアミスしていた事実に何か因縁めいたものを感じずにはいられない。

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