【第711回】『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(マーティン・スコシージ/2013)


 金融の現場はジャングル、だから百獣の王ライオンを飼っているという壮大なTVコマーシャル、末尾に飛び込む金融会社「ストラットン・オークモント社」のロゴ・マーク。いかにもお堅い金融企業という感じだが、実際の現場は狂乱に塗れていた。最初にマトを射止めた者に25000ドルをプレゼントするというCEOジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)の掛け声に社員たちは一気にテンションが上がる。彼はクイーンズ地区の小さなアパートに生まれ、会計士を営む両親の元に生まれた。『アフター・アワーズ』の主人公ポール・ハケット(グリフィン・ダン)は外資系企業のプログラマーで典型的なヤッピーとして描写されていたが、今作の主人公ジョーダンはミドル・クラスの両親と質素に暮らしている。やがて26歳の時に自分の証券会社ストラットンで4900万ドルを稼いだ男は一夜にして巨万の富を得る。『マイアミ・バイス』と同じ白のフェラーリを乗り回し、妻は元モデルでキャンペーン・ガールだった女ナオミ(マーゴット・ロビー)で、豪邸にはテニスコートやプールまである。別荘は2邸、ジェット機と車6台、馬3頭を所有し、プライベートで170フィートのクルーザーを乗り回す男は典型的な新興成金そのものである。

 彼が25歳でウォール街に足を踏み入れた時、投資銀行LFロスチャイルド社でジョーダンのメンターとなったのはマーク・ハンナ(マシュー・マコノヒー)だった。不遇だった幼少時代を経て、ジョーダンがハンナの姿からウォール街でのプロフェッショナルな錬金術を学ぶ姿は、『グッドフェローズ』において幼いヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)がポール・“ポーリー”・シセロ(ポール・ソルヴィノ)に憧れ、見よう見まねで真似した師弟関係と同工異曲の様相を呈す。会食の席でハンナはコカインでヘロヘロになりながら、ジョーダンに株屋の帝王学を鼻歌で適当に教え込む。ヤク中前夜でまだミネラル・ウォーターだけだったピュアなジョーダンは、ヤク中の師の歌をニュアンスまで必死にコピーしようとする。順風満帆に見えたジョーダンの人生だが、株取引の資格を取るために入社したLFロスチャイルド社時代、半年間の研修を終えたまさに初日に「ブラックマンデー」に襲われ、突然路頭に迷う。仕方なく株式仲買人としてのキャリアをスタートさせるがここでジョーダンは底辺に生きる男たちを口八丁で騙す方法を編み出し、ペテンでのし上がってゆく。彼の周りに群がったドニー・アゾフ(ジョナ・ヒル)もニッキー・コスコフ・ラグラット(P・J・バーン)もチェスター・ミン(ケネス・チョイ)もロビー・ファインバーグ(ブライアン・サッカ)もまるでイタリアン・マフィアのような海千山千の小悪党ばかりである。

 180分の長尺だが、中盤までは『グッドフェローズ』同様にこの世の栄華の限りを味わい尽くす。ありあまるお金、マリファナとコカインとルード、酒と売春婦とSEX、『グッドフェローズ』では主人公が麻薬に手を出した時点から、男の転落の人生が始まったが、今作でジョーダンは最初から金融業界でバーチャルと現実の曖昧になったドラッグのような喧騒の最中にいる。彼は1株6セント、手数料50%などのジャンク債、投資詐欺とマネーロンダリングを中心とした経営で頭の悪い一般人をカモにしながら、「ストラットン・オークモント社」の仲間たちとはまるでマフィアのファミリーのような強い関係性を築く。しかし『グッドフェローズ』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』、『ディパーテッド』のような信頼関係で結ばれた欲望にまみれた男たちの物語は終盤一気に崩壊する。「レモン314」の想定外の効き目と共に仲間たちの関係性が崩壊してゆくクライマックスの20分間は何度観ても面白い。かつて『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』、『キング・オブ・コメディ』と段階を踏んでスコシージの闇がロバート・デ・ニーロに憑依していったように、ここでスコシージのサンドバッグになるのはレオナルド・ディカプリオなのだが、レオ様は『タイタニック』とはまるで別人のキャリア最高峰のぶっ飛んだ演技で応えている。最初の妻との破綻から次のイタリア系妻へ乗り換える様子は『レイジング・ブル』だし、ブラッド・ボブニック(ジョン・バーンサル)やエマ叔母さん(ジョアンナ・ラムレイ)の死で潮目が引いた運命を変えようと「ナオミ号」を走らせる場面はまんま『ケープ・フィアー』を彷彿とさせる。仲間を売るか否かで苦悩する様子は『グッドフェローズ』と今作はこれまでのスコシージのフィルモグラフィの総決算となるドラッギーで極めてエネルギッシュで挑発的な作品である。

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