【第713回】『ザ・コンサルタント』(ギャヴィン・オコナー/2016)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

 イリノイ州シカゴの田舎町、中華料理屋の並びにある狭い室内では、会計士クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)がしがない会計事務所を構えていた。紺色のスーツに赤のネクタイ、メガネをかけたインテリジェンス溢れるルックスだが、男には公認会計士に必要なコミュニケーション・スキルが著しく欠如していた。ある日、相談に訪れた農業を営む年配の夫婦。長年高い税金に苦しみ、自己破産を考えての相談だったが、依頼主との会話は弾まない。だがウルフは依頼主の妻が身につけていたアクセサリーにヒントを得て、ウルトラCの節税対策を夫婦に享受する。一方その頃、アメリカ政府財務省犯罪捜査部のレイモンド・キング(J・K・シモンズ)は分析官のメリーベス・メディナ(シンシア・アダイ=ロビンソン)の弱みを握り、ある男の正体を突き止めるよう命令する。その男こそがクリスチャン・ウルフだった。幼い頃、貧乏ゆすりと人の目を見てコミュニケーションが取れない息子の行く末を心配し、父親(ロバート・C・トレヴァイラー)と母親(メアリー・クラフト)は高名な精神学者(ジェイソン・デイヴィス)に相談する。その席で幼い頃のウルフは何かを呪文のように唱えながら、一心不乱にパズルのピースをはめ込んでいた。その姿を呆然とした表情で見つめる弟(ジェイク・プレスリー)の姿。ソファーには自閉症児のジャスティン(イジー・フェネック)が座る。精神科医の診断により、クリスチャン・ウルフは高機能自閉症スペクトラムと診断される。

 昼間は品行方正な公認会計士、夜は裏稼業に手を染める素性の知れない男というのは、21世紀アンチ・ヒーローの最前線をひた走る。20世紀から引き続き支持される『007』シリーズのジェームズ・ボンド、『ミッション:インポッシブル』シリーズのイーサン・ハント、21世紀型アクションの金字塔となった『ボーン』シリーズのジェイソン・ボーン、『アウトロー』のジャック・リーチャー、『ジョン・ウィック』シリーズのジョン・ウィックともことさら親和性が高い。またアメコミながら『ジャスティス・リーグ』で主演を務めるブルース・ウェイン / バットマン役のベン・アフレックが主演だというのもその二面性に拍車をかける。『ボーン』シリーズのジェイソン・ボーンがその出自から行動記録まで全てを国家に把握された重要危険人物だとするならば、今作は逆に国家がその素性を一切把握することが出来ない完璧なヒットマンとしてのクリスチャン・ウルフの得体の知れない魅力に肉薄する。幼い頃から高機能自閉症スペクトラムの症状を抱えていたクリスチャンは、数字に対して天才的な嗅覚を発揮する。公認会計士の仕事はクリスチャンにとって天職であるが、かつて彼は一度刑務所に収監される。その時に出会ったのが闇稼業のボス的存在であるフランシス・シルバーバーグ(ジェフリー・タンバー)であり、彼は国家にバレないマネー・ロンダリングを請け負う。彼の判断基準は何が正しくて何が間違っているのかでは把握されない。ダーティな仕事に手を染める男は前述のヒーロー像とは明らかに違う精神的疾患を抱えている。

 フランス印象派の画家ピエール=オーギュスト・ルノワールや抽象表現主義(ニューヨーク派)の代表的な画家ジャクソン・ポロックの絵画を集める様子は『アイガー・サンクション』のジョナサン・ヘムロック(クリント・イーストウッド)を真っ先に想起させる。射的の的から1.5kmも離れた所から、対象物を狙う姿は『アメリカン・スナイパー』のクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)をも彷彿とさせる。ワーナー・ブラザーズがベン・アフレックを「ネクスト・クリント・イーストウッド」の最右翼と推すのも十分に納得出来る。一方で前作『ジェーン』でナタリー・ポートマンを魅力的に撮った21世紀の女性上位の西部劇を体現したギャヴィン・オコナーにしてはいかにも不服なのは女性キャラクターの描写デイナ・カミングス(アナ・ケンドリック)の描写に尽きる。現在の場面と回想場面の入り組んだ構成、時間を遵守するクリスチャン・ウルフのベッド上での拷問の場面などアクション映画の成功例としては随分際どいシーンも次々に出て来るが 笑、『ジョン・ウィック』シリーズを凌駕するようなプンチャック・シラットのアクションは否応なしに素晴らしい。今作でアンチ・ヒーローを演じたベン・アフレックは『ボーン・シリーズ』のジェイソン・ボーンを演じたマット・デイモンの大親友であり、無名時代にガス・ヴァン・サントの『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の脚本を共同で書き上げた。今作はジェイソン・ボーンでキャリア屈指の人物造形を作り上げた盟友マット・デイモンへのベン・アフレックならではの対抗意識に溢れる。この程度のプログラム・ピクチュアを120分以内に収められないギャヴィン・オコナーの手腕には多少の疑問は残るものの、ラスト15分のあっと驚く大どんでん返しにこそ、今作の『ボーン』シリーズや『ジョン・ウィック』シリーズにはない競合他社からの優位性が明らかになる。
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