【第746回】『トリプルX:再起動』(D・J・カルーソー/2017)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

 朝7時40分、中国の料理店。NSAのリーダであるアウグスト・ギボンズ(サミュエル・L・ジャクソン)は厨房内からカメラ目線で話しかける。世界中のダーティ・ヒーローたちをヘッド・ハンティングするために、ここ中国にも訪れたギボンズは国防の重要性、テロとの戦いの意義について、バルサ所属のネイマール(ネイマール)に説くが、アベンジャーズの勧誘だと思った彼はギボンズの誘いをあっさりと断る。その頃、宇宙では軍事兵器“パンドラの箱”が静かに目を覚まそうとしていた。地球から操作されたデータを元に、隕石となって降って来た“パンドラの箱”はあろうことか中国の料理店に落ち、ギボンズの命が奪われる。一方その頃、CIAの極秘会議の席では、“パンドラの箱”の制御システムを持ち、CIA長官ジェーン・マルケ(トニ・コレット)が会議を始めようとしていた。CIA本部なのに全面ガラス張り(セキュリティは大丈夫なのか 笑?)で行われた会議の最中、ジャン(ドニー・イェン)は決死のビルディング・ダイヴを試みる。かくしてチーム・ジャンの襲撃により“パンドラの箱”制御システムは奪われ(ただのVHSテープにしか見えないが 笑)、特殊訓練を受けたCIAの精鋭たちが次々に殺される。マルケはこの政府の緊急事態に、「トリプルX」のエースに白羽の矢を立てるのだった。

 『トリプルX』から15年、『トリプルX ネクスト・レベル』から実に12年振りとなる『トリプルX』シリーズ待望の第3弾。1作目の350億円ものモンスター・ヒットの後、主人公をギャラで揉めたヴィン・ディーゼルからアイス・キューブに交代したのがそもそものケチのつき始めであり『トリプルX ネクスト・レベル』では制作費もまともに回収出来ず、シリーズ3部作の骨子そのものが頓挫し消滅。その後も『ワイルドスピード』シリーズは次々に大ヒットし、コロムビア映画側とヴィン・ディーゼル側の勝ち負けは誰が見ても明らかだったが、2014年、突如ヴィン・ディーゼルの態度が軟化。決裂したコロムビア映画を配給先から早々に切り、パラマウント映画に変えて撮影がスタート。しかし『トリプルX』で準主役級だったサミュエル・L・ジャクソンが『ターザン:REBORN』と『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』『キングコング: 髑髏島の巨神』の3本の撮影との兼ね合いでスポット参戦しか出来ず、もう1人の重要人物だったトビー・シェイヴァース(マイケル・ルーフ)はその後鬱病を発症し、2012年に首吊り自殺し、あまりにも短い生涯を閉じる。果たしてその状況でまともなシリーズ最新作が作れるのかと心配したが、まったくの杞憂だった。処女作『トリプルX』では孤独なダーティ・ヒーローが政府という国家権力を相手にただ一人(実際はギボンズとシェイヴァースと3人で)戦いを挑んだが、ザンダー・ケイジ(ヴィン・ディーゼル)も年を取って、角が取れて丸くなったのか、チーム・ジャンに対抗すべく、チーム・ザンダーを結成し、“パンドラの箱”制御システムに挑む。

 かくして今作は『トリプルX』の『007』的アクションから、マーヴェル製活劇『アベンジャーズ』やDCコミックス製活劇『スーサイド・スクワッド』のようなダーティ・ヒーロー大集合の様相を呈する。ザンダーによる一癖も二癖もある異端児たちの勧誘場面は残念ながらないが、D・J・カルーソーは主要キャラクターたちの登場シーンが抜群に優れている。主演であるザンダー・ケイジの登場シーンは何と鉄塔の上からスキーを滑らせ(この時点でかなり狂っている 笑)、ジャングルに降り立った後、スケボーで坂道を下り、たかだか村人にサッカーW杯を見せるためだけにここまでの危険すぎるスタントをこなすのである。そしてスーパー・ヒールであるドニー・イェンも高層ビルの窓を突き破った後、たった1人で処刑人の群れと対峙する。その至近距離で弾が当たらないはずないだろと突っ込むことなかれ 笑。映画はチーム・ザンダーとチーム・ジャンの血で血を争う“パンドラの箱”制御システムの奪還作戦を描きながら、ダーティ・ヒーローとヴィランとの紙一重の葛藤を明らかにする。女スパイであるセレーナ(ディーピカー・パードゥコーン)やレズビアンの悲しきヒットマンであるアデル(ルビー・ローズ)、トビー・シェイヴァースの後釜的立場を担うベッキー(ニーナ・ドブレフ)、何よりザンダーを再び召喚したジェーン・マルケ(トニ・コレット)など印象的な女性たちを数多く登場させるが、大事なのはそこではない。

 そもそも“パンドラの箱”なる厨二病的なシステムはいったい何なのかとか、ラスボスの目的が一体何なのかがイマイチ伝わらないなどの図星な批判はこの際、どうでも良い 笑。そもそもジャンは“パンドラの箱”の制御システムを奪いに来たはずなのに、何で途中から心変わりしたのかという物語の核心を突く質問にも耳を塞ぐべきだ 笑。何よりも監督であるD・J・カルーソーとヴィン・ディーゼルが描きたかったのは、男同士の燃え上がる友情に他ならない。もともと持っていた理念や主義・主張よりも、ザンダーとジャンは危険過ぎるミッションの深みにハマるうちに、静かに友情が芽生えるのである。UFCミドル級ファイターであるホーク(マイケル・ビスピン)や元NFC選手であるドノバン(トニー・コンザレス)の起用もアクロバティックに活劇を盛り上げるが、何と言ってもタロン(トニー・ジャー)とドニー・イェンのカンフー仕込みのアクション活劇が素晴らしい。一応便宜上は、ザンダー・ケイジの十八番であるエクストリーム・スポーツの土俵にドニー・イェンが上がっているように見えて、実際はスクリーンの中でドニー・イェンのアクションだけが別次元の印象を受ける。ドニー・イェンの所作、動線、素晴らしい活劇場面は時にヴィン・ディーゼルを超えるインパクトを放つ。ハリウッドは湯水のような制作費を集めるため、中国企業に阿るような映画作りを模索しているが、観客の視線はヴィン・ディーゼルではなく、ドニー・イェンの一挙手一投足に釘付けである。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』といい、今作といい、ドニー・イェンのアクションの素晴らしさだけが際立つ究極のおバカ映画である。
該当の記事は見つかりませんでした。