【第766回】『暴走パニック 大激突』(深作欣二/1976)


 赤と青の目出し帽、2人組の銀行強盗はまず名古屋に現れ、まんまと金を強奪する。その後大津、そして京都へ。警察やマスコミは脅しの手口や人数、逃走経路から名古屋-大津-京都と続く強盗事件は全て同一犯の仕業だと断定する。マスコミは次は大阪かと囃し立てる中、2人の姿は神戸にあった。神戸市内の幾つかの銀行を物色するバーテンの山中高志(渡瀬恒彦)と相棒の関光男(小林稔侍)の2人は、街中にある第一勧業銀行に狙いを定める。用意周到な作戦と鮮やかな手口、下見を終えた後、2人はカップラーメンを食べながら、緑川ミチ(杉本美樹)のことが話題に上る。数日前、山中が働くバーでは飛び込み客の小沢平吉(三谷昇)が妻の服を引き裂き、強引にレイプしようとする。ショー・タイムは終わったと小沢を強引に立ち上がらせた男は、2人を外に追い出す。翌日ミンクのコートを着たミチが再び山中の前に現れる。彼女の止まり木になった気障な男は万引き犯のミチの身元引き受け人となり、全裸に着ていたミンクのコート20万円分を弁償する。小沢の執拗な追い込みや警察の手から救ってくれた山中にミチは恋をする。やがて2人は肉体関係になり、光男はヌード・モデルだった彼女の外国への移住の夢を叶えてやれと山中に言うが、そんな義理はないと男は突っぱねる。銀行強盗決行日、大胆にも銀行のトイレで目出し帽で変装し、銃を構えた2人は平常心で今日も銀行を襲う。だがこの日の強盗は悲劇の始まりだった。

 銀行強盗の相棒だった関光男の死で失意のどん底にある山中の元に、関光男の実兄である関勝男(室田日出男)が入れ子構造のように現れる。光男と山分けするはずだった金の血縁者への配当を犯罪者である山中は直感的に拒否する。男は一度配当を渡せば、骨までしゃぶられることを理解している男は警察のみならず、いかがわしい組織の人間にも執拗に命を付け狙われる。馬鹿の一つ覚えのように、山中のために鍋で豆料理を作る緑川ミチは薄幸のファム・ファタールに違いない。銀行強盗を繰り返し、重罪の山中は冷徹無比な犯罪者に違いないのだが、ミチのことになると途端に冷静さを失う。彼が躊躇した隙を付き、関勝男は現れる。あと1分早くアパートの部屋を出ていれば逃げ果せたものを、ミチのことが気がかりで犯罪者としてはあるまじきミスを犯す。中盤も山中が2種類の追っ手から逃げるにはミチを捨て、身軽になるしかない。だが常に山中の頭の片隅にはミチの姿がある。一度追い越してまた戻る。彼女の背中を確認し別れても、もう一度彼女の元へと引き返す。一方で警察側の畠野作治(川谷拓三)も新田栄一(曽根将之)に昇進を越され、いよいよ後がない。畠野は府警の栗山愛子(渡辺やよい)にうつつを抜かすも、後輩警官(成瀬正)に女さえも奪われる。失意のどん底にある畠野は大阪府警に山中の首を持ち帰り、昇進するという野心を捨てていない。情に厚い山中はミチを切り捨てられず、徐々に警察と勝男の包囲網は近づいて来る。

 ここで事件とは直接関係ない修理工の手塚益夫(風戸佑介)の挿話が突如ぶち込まれるのは『殺しの烙印』や『雪の断章 -情熱-』を手掛けた田中陽造の見事な脱線に他ならない。前半部分を深作欣二、中盤部分を田中陽造、後半部分を神波史男が書いた脚本完全分業制の物語は、大きな破綻もないまま、複合的な要素を交えながら来たるべきクライマックスへと矢継ぎ早に向かう。『資金源強奪』から『新仁義なき戦い 組長の首』への展開で露わになったカー・チェイスへの欲望は今作で全開になる。H・B・ハリッキーの『バニシングin60″』、スティーヴン・スピルバーグの『激突!』から安直に換骨奪胎したであろう物語は、サム・ペキンパーの『コンボイ』よりも2年も早い。流石にアメリカと日本の国土の違い、アメ車200台と謳ったはずが実際は国産の中古車数十台のカーチェイスではあるものの、実録路線にミックスされたカー・チェイスが素晴らしい。実録路線以降の手持ちカメラの臨場感、主人公、警察、元相棒の兄貴の3竦みの構造に割って入るMHK中継カメラや暴走族(前川清もいる 笑)のエネルギッシュな膨れ具合、カー・チェイスではなくて、単なるアクロバティックな大激突だろうという向きもあるだろうが、『西部警察』よりも数年早くカー・アクションを手がけた深作欣二と二班監督である関本郁夫の手腕は凄まじい。誰が誰に追われているのかというアクションの原則からは大きく逸れるが、被写体にあまりにも近いカメラはエネルギッシュに人物の動線を追う。渡瀬恒彦は『仁義なき戦いシリーズ』や『鉄砲玉の美学』、『赤穂城断絶』も印象深いが、管理人が1本選ぶとすれば真っ先に今作を上げる。あらためて渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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