【第775回】『キングコング: 髑髏島の巨神』( ジョーダン・ヴォート=ロバーツ/2017)

あらすじ・結末に触れていますので、これから観る方はクリックしないで下さい

 太平洋戦争末期、南太平洋のどこか、P51ムスタングと零戦は空中で激しい衝突を起こし、錐揉み式に落下している。程なくして機体はどこかの島に刺さり、大破炎上。かろうじて落下傘を開いたアメリカ軍第45飛行隊の中尉ハンク・マーロウから離れること数10m、日本兵のグンペイ・イカリ(MIYAVI)は必死の形相でマーロウを追いかける。やがて高い崖に追い詰められ、絶体絶命のマーロウは碇の出した刀で手のひらをケガする。そこにある巨大な物体がぬっと顔を出す。第二次世界大戦の記録映像、1954年の核実験、長期化するヴェトナム戦争の戦禍を映した後、舞台は1973年に設定される。南ヴェトナム駐留の米軍完全撤退前夜、苦々しい表情を浮かべるモナークの上級工作員ウィリアム・ランダ(ジョン・グッドマン)は、地球空洞説を唱える(まさかの『パシフィック・リム』設定!!)ヒューストン・ブルックス(コーリー・ホーキンズ)を従え、ウィリス上院議員の元を訪れる。ギャレス・エドワーズ版『GODZILLA ゴジラ』において、渡辺謙扮する芹沢猪四郎博士が、化石に寄生する繭の研究にあたったのが特別研究機関MONARCH(モナーク)に他ならない。新たに付与された情報では、大戦後の46年にトルーマン大統領が特別研究機関として設立した。しかしそれから25年もの月日が流れ、MUTO(未確認物体)の研究をしてきたウィリアム・ランダはいよいよ功を焦り始める。永久暴風圏に位置する幻の島・髑髏島こそ地上と地底世界の境界線だと断言してやまないランダの妄言に国家は金を出し、やがて髑髏島へ上陸させる。

 ウィリアム・ランダの妄言により集められたメンバーは、アメリカのヴェトナム戦争完全撤退の傷を背負った男たちに他ならない。お家に帰りたいという1970年代アメリカを体現する言葉を吐いたジャック・チャップマン少佐(トビー・ケベル)は、恐妻を皮肉るジョークを同僚たちに話しながらも、アトランタへ帰る日々を今か今かと心待ちにしている。アトランタの家では、一人息子が父の帰りを待ち侘びている。モナーク、ランドサットという2つの謎の組織に集められた烏合の衆は、それぞれが煮えきらない思いを抱えながら、人類未開の地へ赴く。天候不順で及び腰になるヴィクター・ニエベス(ジョン・オーティス)に対し、玉砕覚悟で時空の狭間へダイブするプレストン・パッカード(サミュエル・L・ジャクソン)以下、アメリカ軍第3攻撃ヘリ部隊の勇ましさはヴェトナム戦争の敗北を補って余りあるものである。Black Sabbathの『Paranoid』を大音量で流しながら、ヘリの隊列を守る第3攻撃ヘリ部隊のカタルシスは、まるでフランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』のような名場面であるが、次の瞬間現れた身長31.6mの化け物が軍人たちを非現実的な恐怖へと叩き落とす。登場早々、70年代ヴェトナム戦争に使用した重火器がキング・コングの前で一切無効化した時、我々は「巨大生物」と「怪獣」との違いを思い知らされる。今作のキング・コングは、まるで東宝怪獣映画から飛び出してきたような「怪獣」そのものと言っていい。これまでのキング・コングの系譜では髑髏島に現れたコングはやがて都会の摩天楼の下で大暴れするが、今作ではこの髑髏島の造形そのものが、人間が絶対に逃げられない島としての強固な閉鎖性を持つ。

 これまでのキング・コング映画の系譜のように、キング・コングとヒロインとの「美女と野獣」のような世界観は踏襲されない。それどころか夕焼けを背にし、仁王立ちするキング・コングは怪獣であり、また同時に人間が暮らす遥か昔から存在する地球の生態系を司る絶対的な神々しい万能神として存在する。それに対し、人間が実にちっぽけで頼りない。2000年代に突入以降、大袈裟な演技の津川雅彦化が止まらないサミュエル・L・ジャクソンのクローズ・アップとキング・コングのリバース・ショットはいったいどちらがゴリラなのかあまりにも馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった 笑。ヴェトナム戦争の後遺症を抱え、深いリベンジに燃えるパッカードの描写には、真っ先にオリバー・ストーン『プラトーン』のバーンズ軍曹を彷彿とさせる。監督であるジョーダン・ヴォート=ロバーツは良く出来た『ジュラシック・パーク』や『エイリアン』シリーズ、『プレデター』シリーズのオマージュにならないように細心の注意を払いながら、地上に現れた未開の生物として、恐竜やエイリアンではない地上に生息する動物や昆虫たちに目星をつける。スカル・クローラーやリバー・デヴィルの造形はともかくとして、サイコ・バルチャーやバンブー・スナイダーの肝を冷やすような突然の襲来は、音響面を含めホラー映画がダメな人は注意が必要だが、スポア・マンティスの一瞬の起用は若干勿体ない気がした。PTAの『ハードエイト』以来のジョン・C・ライリーとサミュエル・L・ジャクソンの共演には胸を熱くし、全編クライマックスとでも呼ぶべき活劇描写の畳み掛けは問答無用に素晴らしい。若干32歳の新人監督にドル箱キング・コングを任せたレジェンダリー・ピクチャーズの英断に驚きつつも、ギャレス・エドワーズの『GODZILLA ゴジラ』に消化不良だった層にはこのクオリティは心底嬉しい。
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