【第832回】『未知との遭遇』(スティーヴン・スピルバーグ/1977)


 冒頭、砂煙の中から古い戦闘機が顔を出す。どうやらそれらは第二次世界大戦で使われたものらしく、1945と刻印されている。30年前の消失当時からほとんどダメージがないように見えるその戦闘機発見の疑惑が今作の導入部を彩る。調査団一行のリーダー、ラコーム(フランソワ・トリュフォー)はこの不可思議な事件の調査に入るがそんな矢先、インディアナポリスのコントロール・センターには未確認飛行物体の姿が写し出され、TWA機より不思議な物体を見たという連絡が入る。70年代初頭〜中期までの初期スピルバーグ作品では、身近なところに潜む恐怖を描いて来た。『激突!』では平和な通勤時に突如出くわしたタンクローリーが殺人マシーンとなって、主人公の平和な日常に襲いかかる。『ジョーズ』では海開き目前の平和な海に突如殺人ザメが現れ、人間たちを食い尽くしていく。モンスターはふと気付いた時には、車のすぐ後ろや海の中でバタつかせた足先に接近しており、登場人物たちを奈落の底に引きずり込むのである。その点では今作も自分の身近に存在する「見えない恐怖」を描いている。インディアナ州の田舎町の一軒家で睡眠を取るバリー少年(ケイリー・グッフィ)の元で、突如周囲に置いてあったおもちゃの電源が入り、まるで生命の息吹があるように暴れ回る。

 群衆シーンでジリアンを見つけたロイが勢いよく駆けつけるショットにはスピルバーグの尋常ならざる思いが滲む。その後車で強行突破し、デビルズ・タワーに向かう道中には、「世界の終わり」のような牛や馬の屍が累々と横たわる。あのシンボリックな三角形の近辺ではガスが充満し、すべての生物の侵入を阻む。ここではミステリーを解決させたいロイとジリアン、未確認飛行物体とのコンタクトを取りたいラコーム、そして諸々のミステリーを隠蔽したい軍のナショナリズムとの三者三様の思惑が入り乱れる。明らかに軍はこの事件に蓋をし、証拠隠滅を図りたい。しかしながらラコームは早過ぎたグローバリストであり、宇宙人に対して友好的なのである。ロイとジリアンはちょうど軍とラコームの意見の中間に位置し、呆気に取られながらも核心を掴むべく山頂へと向かう。クライマックスの荘厳さはキューブリックの『2001年宇宙の旅』に勝るとも劣らない70年代屈指の名場面に違いない。5音階を駆使し、宇宙人と生真面目にコンタクトを取ろうとするトリュフォーのシリアスな演技にもただひたすらに感激するが、おびただしい人間たちがゆっくりと空に広がる巨大な宇宙船をただ静かに見上げる場面は文句なしに素晴らしい。『2001年宇宙の旅』や『スター・トレック』の母船も描いてきたダグラス・トランブルによる宇宙船の造形も、CG/VFX技術で書き加えることが出来なかった時代のSFが持ち得た、捉えどころのない無限の想像力とロマンを感じ、子供の頃同様にただただ胸が熱くなる。

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