【第850回】『ローン・サバイバー』(ピーター・バーグ/2013)


 アフガニスタン東部、クナル州アサダバード近郊の村。砂漠の中を一機のヘリが飛行している。ベッドで眠るマーカス・ラトレル一等兵曹(マーク・ウォールバーグ)は血だらけで、すぐに応急手当てをしなければ命が危ない。我々は嵐の中にいたのだというラトレルの深遠なるナレーション、「Based On A True Story」の文字。3日前の早朝、マイケル・マーフィ大尉(テイラー・キッチュ)は起きがけにパソコンをいじると、嫁からの誕生日プレゼントの催促。そこには2頭の白い馬が写っていた。PCを持ちながらラトレルの部屋に向かうマイクはまだ起きていないラトレルに馬の値段を聞くが、安くはないと答える。2つ隣のダニー・ディーツ二等兵曹(エミール・ハーシュ)の部屋。ベッドの上で話しかけようとするマイクに対し、ディーツは「今日こそお前を打ち負かす」とやる気満々な返事をする。互いに負けられない早朝ランニング、ようやく起きたマシュー・アクセルソン二等兵曹(ベン・フォスター)はアメリカに残したアジア系の恋人シンディと束の間のチャットに興じる。作戦で2日間チャット出来ないと告げるマットの悲しい報せ。数時間後、彼らはエリック・クリステンセン少佐(エリック・バナ)からレッド・ウィング作戦の指令を受ける。

 彼ら部隊はネイビーシールズ(Navy SEALs)と呼ばれるアメリカ海軍特殊戦コマンド特殊部隊として広く知られている。主に2つの特殊戦グループ、8つのチームに分かれて編成されており、苦しい訓練を突破出来なければ入隊は叶わない。タイトル・バックに出て来た水中順応訓練、基礎水中爆破訓練は精鋭たちを篩に掛ける厳しい訓練に他ならない。約6ヶ月にも及ぶ訓練過程を耐えぬくことができるのは、せいぜい入隊志願者の15%から20%であると言われている。厳しい訓練に音を上げた者は、緑のヘルメットを床に置き、故郷へ帰る。南ベトナム解放民族戦線掃討を目的として1962年1月1日に発足した精鋭部隊は、アメリカ軍が出来ない危険な任務を行う民間の部隊として21世紀に急成長を続けている。89年のジェームズ・キャメロンの『アビス』や92年のアンドリュー・デイヴィス『沈黙の戦艦』などでチラッとネイビーシールズの称号が役柄設定として出て来るものの、20世紀においては実際の活動は秘密のベールに包まれていた。ネイビーシールズの活躍を描くきっかけは、キャスリン・ビグローの2012年作『ゼロ・ダーク・サーティ』からである。ネイビーシールズから独立したチーム6、DEVGRUのウサーマ・ビン・ラーディン掃討作戦での活躍を描いた物語から、ネイビーシールズの名前は一気に表舞台へと浮かび上がる。イラク戦争に4度従軍したクリス・カイルの自叙伝を映画化した2014年のクリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』は、イスラムとの対立関係を1兵士の立場から描いた秀逸な戦争映画だった。

 今作はそのネイビーシールズ創設以来、史上最悪の出来事となったレッド・ウィング作戦の実写映画化である。150人程度の武装勢力を率いる耳たぶがない男アフマド・シャー(ユセフ・アザミ)暗殺のために、ネイビーシールズのチーム10が派遣される。有名なビール・ブランドの名前を隠語に冠した作戦はフェーズ1から5段階に分けられ計画立案された。2005年6月27日未明、2機のMH-47が降下地点のサウテロ山南側付近に到着する。降下したのはSEAL・SDVチーム1のマイケル・P・マーフィ大尉、マシュー・アクセルソン二等兵曹、マーカス・ラトレル一等兵曹、SEAL・SDVチーム2のダニー・ディーツ二等兵曹の4名であり、徒歩により目標地点へ接近、対象を監視できる拠点を確保して偵察行動を開始した。当初、この戦いでビッグ・マネーを稼いで祖国アメリカへ帰るつもりだった4人は双眼鏡の遥か目の前に見えるアフマド・シャーの殺害に鼻息も荒い。だが対象を狙うには目障りな木々のせいで、ラトレルたち4人の「スパルタン0-1」作戦は微妙な軌道修正を余儀なくされる。結論から言えばこれが悲劇の引き金となった。事実も結末も知っている物語ながら、やはり中盤から後半の怒涛の攻撃の迫力は凄まじい。山の中腹を転げ落ちる4人のスロー・モーション、4対100で為す術もなく追い立てられる彼らの壮絶なラストにはただただ絶句する。タリバンと相容れない宗教観を持つパシュトゥーン人との突然の融和はいかにも出来過ぎな物語に思えなくもないが、レッド・ウィング作戦の紛れもない真実を照らし出す。この後、主演のマーク・ウォールバーグと監督であるピーター・バーグのコンビは、メキシコ湾原油流出事故をモチーフとした『バーニング・オーシャン』、そしてボストンマラソン爆弾テロ事件を描いた『パトリオット・デイ』と実録路線で計3本の映画として見事に結実する。

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