【第873回】『インフルエンザ』(ポン・ジュノ/2003)

 ソウル市内に設置された監視カメラのモノクロ映像、男が最初に目撃されたのは2000年11月、漢江(ハンガン)のセンフォ橋の上だった。チョウ・ヒョクレ(ユン・チェムン)31歳無職。お金に困った男は、駅のトイレの洗面台で手品を繰り出すも、道行く歩行者には一向に見向きもされない。それから2年後の2002年、男は飢えソンブックのゴミ置場で残飯を漁っていた。単独で初めての犯行を犯すのはそれから1年後のことだった。2004年、パートナーの女(コ・スヒ)と共にプサン銀行を襲った怠惰なカップルは20周年記念で銀行からプレゼントを貰うも、次第に犯罪に歯止めが効かなくなる。5000万ウォン(約500万円)以内の予算で製作し、全てデジタル・フォーマットで撮影・編集まで行う条件の『三人三色』プロジェクトの一編『インフルエンザ』は、冷たく無機質な監視カメラの映像を数年に渡りシームレスに繋ぐ。粒子の粗いモノクロ映像が続く中、駐車場の強盗シーンは首振りのカメラがゆっくりと左右にパンしながら、2人の凶行を斜め上から据える場面がヒリつくように怖い。

 キム・ギドク監督の2000年の『リアル・フィクション』とのある程度の親和性は見られるものの、『ほえる犬は噛まない』で主人公ペ・ドゥナの親友役を演じたコ・スヒの怪演ぶりが凄まじい。最初に痛めつけるのは男であるユン・チェムンだが、犯行をエスカレートさせるのは常に女であるコ・スヒの役目である。監視カメラの映像は時に犯罪を犯す対象との間に厳格な距離を取り、暴力を他人事のようにロング・ショットで据える。だが狭い密室での凶行を余儀なくされる壮絶なラスト・シーンまで、底辺に生きるカップルの底の抜けてしまった感覚が心底怖い。日常に漂う犯罪の気配を辺りに漂わせながら、銀行でハイになったコ・スヒが踊るダンス・シーンの滑稽さ、その暴力性とシニカルなユーモアを危うく配合するポン・ジュノの手腕が光る傑作短編である。

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