【第874回】『母なる証明』(ポン・ジュノ/2009)


 漢方薬局の向かいの写真館の前、母親(キム・ヘジャ)は一人息子トジュン(ウォンビン)のことが気になって仕方ない。息子はジンテ(チン・グ)に命令され、飼い犬と共に手を振るも、そこに猛スピードで通りがかったベンツがトジュンに接触する。母親は息子の事故に驚き、指を切る。息子はジンテと共に逃げたベンツの行方を追う。5293の黒のベンツをゴルフ場で見つけたジンテはサイドミラーを破壊し、逃げた男たちの足取りを追う。捕まえたのは地位も名声もある大学教授の御一行で、当て逃げとサイドミラー破壊により、相談を受けた警察は示談にしようとしていた。チンピラの先輩ジンテとの交流を絶つべきだと考える母親は知的障害の息子を説得するも、彼の心はジンテからなかなか離れない。ある日ジンテに待ち合わせをすっぽかされたトジュンは「マンハッタン」でしこたま酒を呑み、娘のミナ(チョン・ウヒ)に声をかける。しかし相手にされなかったトジュンはパッグを背負った1人の女子高生に出くわす。知的障害のトジュンは後ろから女に声をかけるが、一向に相手にされない。翌日、女子高生は屋上で死体となって発見される。名前はムン・アジョン、高校2年生が殺された陰惨な事件に、ジェムン刑事(ユン・ジェムン)は大規模な捜査を行う。

 ポン・ジュノにとって2003年の『殺人の追憶』以来、2度目の猟奇ミステリーとなる今作は、ある母子の尋常ならざる関係にフォーカスする。過保護な母親と、それを当たり前のようにして育った知的障害の息子には、年頃になっても彼女の1人も出来ない。息子が愛する女は密かに先輩と肉体関係にあり、SEXの最中にしりとりをカマす。クローゼットからその姿を見て、あろうことか被害者の葬式にまで参列する母親の判断はどこか常識を欠くものの、そこには残酷なまでに純粋でイかれた息子への愛情が浮き彫りになる。物語の構造は『ツイン・ピークス』のドラマ版第一シーズンのような趣だが、セパタクローの技術には優れているものの、一向に頼りにならないソン・セビョクやユン・ジェムンに代わり、ただ1人事件を解決せんと願う母親の気狂いじみた衝動が中盤以降、物語を駆動させる。呪われたこめかみの挿話、溢れる2ℓの水、SEXとしりとり、米餅少女が現像所で出した鼻血、遊園地と観覧車が事件の核心に朧げながら母親を近付けるものの、事件は栄養ドリンクと農薬にまつわる母子の因果を明らかにすることで、皮肉にも息子を救うために母親が重い十字架を背負うことになる。名前入りのゴルフ・ボールに変わり、トジュンが拾ったお灸セットだけが母子の間のたった一つの真実(秘密)を伝える。

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