【第880回】『ライフ』(ダニエル・エスピノーサ/2017)

あらすじ・結末に触れていますので、これから先はクリックしないで下さい

 西暦2122年の世界、宇宙貨物船ノストロモ号は地球外での作業を終え、地球への帰路につこうとしていた。だが船を制御するコンピュータ「マザー」が知的生命体からの電波信号を受信し、発信源を探し始める。船長ダラス、副長ケイン、航海士ランバートの3人が船外調査に向かい、謎の宇宙船と化石となった宇宙人を発見する。彼らの帰還に対し、何か危険を感じたエレン・リプリーは宇宙船の中に入れることを拒むが、ギルバート・ケインの体に寄生した謎の物体が突如、乗組員たちに次々と襲いかかる。これはリドリー・スコットの79年作『エイリアン』のざっくりとしたシノプシスだが、そこに今作との奇妙な類似性を見るのは容易い。西暦不明、国際ステーションに集結した6人の宇宙飛行士は、無人探査機ピルグリムとの連結作業を行なっていた。陽気なメカニックのローリー・アダムス(ライアン・レイノルズ)はドッキング作業のリスクを切り捨てるため、船外に出る。まるでアルフォンソ・キュアロンの2013年作『ゼロ・グラビティ』のような船外の作業だが、今作では宇宙船の中から作業の終息を願う5人の視線がある。疫病検疫官であるミランダ・ノース(レベッカ・ファーガソン)や国際宇宙ステーションに1年以上滞在している医師のデビッド・ジョーダン(ジェイク・ギレンホール)は、ローリーの一世一代の作業を固唾を呑んで見守っている。やがて全ての計画は成功し、宇宙生物学者のヒュー・デリー(アリヨン・バカレ)にInstagram用の写真を撮影させた若きヒーローは得意げな様子で船内に生物が生息しているかもしれない土壌サンプルを持ち帰る。

 リドリー・スコットの79年作『エイリアン』の正当な続編でもおかしくない物語は、ニューヨークのタイムズ・スクエアで少女が地球外生命体に「カルビン」と名付けたところから突如、雲行きが怪しくなる。多国籍な6人の乗組員たちの中でも、とりわけヒュー・デリー博士がカルビンの成長に一喜一憂し、ブドウ糖を与えて指にしゃぶりつく姿を見て、地球外生命体の代父のような衝動と情が芽生えるのだが、そこから先はパニック映画のような情け容赦のない惨劇が待ち構えている。モルテン・ティルドゥムの『パッセンジャー』、ドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』に引き続き、SF映画の当たり年となった2017年をまたしても象徴するであろう今作は、あえて地球の側からの情報をシャット・アウトすることで宇宙船内に密閉された6人の怖さを伝える。一見、愛らしいルックスを備えた「カルビン」のその可愛さに科学者は目測を見誤る。半透明の身体、繊毛状のうぶ毛、人間の指に寄り添う姿は敵意を持ち難い実に愛らしいものだが、軽い電気ショックを与えたことで、「カルビン」は突如、まったく別の二面性を発揮する。昨今の中国から届けられた恐怖の毒蟻である「ヒアリ」問題は「カルビン」と同じく、極めて平和だった生態系の境界線の中に、部外者が侵入したことでパニックが生じる。密封したはずの境界線の外側では虎視眈々と「カルビン」がこちらの様子を伺い、容易に境界線を犯そうする。多分にB級的なSF映画ながら、ポン・ジュノ監督の『オクジャ/okja』とは対照的なジェイク・ギレンホールの抑制した演技が息を呑む。日本代表・真田広之の存在感も素晴らしい。SF映画としての革新性には乏しいが、リドリー・スコットの79年作『エイリアン』にインスパイアされた映画としては十分に及第点が挙げられる。SFファンはもちろんだがむしろ、パニック映画ファンに率先して勧めたい1本である。
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