【第883回】『スキャナーズ』(デヴィッド・クローネンバーグ/1981)


 カナダ・モントリオールのショッピング・モール。茶色いニット帽とトレンチコートの男ベイル(スティーヴン・ラック)は空腹に耐えられず、前の客の食べ残しのハンバーガーを食べる。斜向かいに座ったご婦人たちの好奇の目。その目を睨んだベイルの視線にご婦人は苦しみ出し、痙攣しながら倒れる。その姿をコート姿の2人組が発見し、ベイルの後を追う。手の甲に打ち込まれた麻酔銃が徐々に効いたのか、エスカレーターのトラスに気絶し倒れる。それから数時間後、目覚めたベイルの身体はコンセック社のベッドの上に固定されていた。研究者のルース博士(パトリック・マクグーハン)は目覚めた男に対し、特殊能力であるスキャナーの使い手だと伝える。相手の神経系統と結合し、行動や身体機能をコントロールすることが可能で、神経細胞をかく乱するテレパシーの持ち主であるベイルは、同じく強力なスキャナーの使い手であるレボック(マイケル・アイアンサイド)殺害を要請される。コンセック社のスキャナー公開実験の席に侵入したレポックは、自分の脳に入り込んだ相手に逆に侵入を試み、相手の頭部を破壊する。徐々にスキャナーとしての能力を開花させたベイルは街に数人残ったスキャナーズたちを集め、レポック殺害計画を実行に移す。

 何と言っても序盤の特殊メイク・アップの達人ディック・スミスによる博士の頭の爆発シーンこそが全てだろう。CG/VFX技術が当たり前になる以前の時代、我々観客が人間の脳味噌が爆発する瞬間を初めて体感したのが今作である。飛び散る臓物、爆発する頭のスロー・モーションには子供心に衝撃を受けた。カナダのジャック・ニコルソンと称された選ばれしスキャナーの担い手であるレボックの暴力性、闇に紛れ、地下に潜ったコミュニストたちが次々にレポックの毒牙にかかる様子は、共謀罪の成立した現代日本とも妙に親和性がある。誰1人救えないベイルの焦燥感はやがて悲しきヒロインであるキム・オブリスト(ジェニファー・オニール)と出会い、運命へと変わる。今では懐かしいレコ屋「disco-mart」に突っ込んだ黄色のスクール・バス、ガソリン・スタンドの公衆電話からハッキングしたライプ・プログラム、電線に引火し、大爆発につながるコンピューター・プログラムなど、幾つもの斬新なビジュアル表現が息を呑む。ブライアン・デ・パーマの『ミッドナイト・クロス』、ジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』、マイケル・マンの『ザ・クラッカー 真夜中のアウトロー』、サム・ライミの『死霊のはらわた』、そして今作と1981年は子供心を熱くするようなアメリカ映画が続々誕生した。クライマックスの15分間の異様な画力を含め、クローネンバーグをホラー映画のB級作家から一躍世界に知らしめた81年の出世作である。

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