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【第907回】『ナイスガイズ!』(シェーン・ブラック/2016)


 1977年カリフォルニア州ロサンゼルス、高台に佇む家では両親の寝息を聞きながら、こっそり侵入したパジャマ姿の少年が、ベッドの下からエロ本を盗んで行く。セックス・シンボルであるミスティ・マインテンズのフルヌード、次の瞬間大きな音と共にアメ車が部屋を貫いて行く。全裸の上にブラウスを羽織ったミスティMの最期の姿、救急車のサイレンの音に気づいた少年はパジャマを脱ぎ捨て、ミスティの胸の上にそっとかける。この街の私立探偵で、酒浸りの日々を送るホランド・マーチ(ライアン・ゴズリング)は今日も冴えない依頼を受けていた。ある日死んだはずのポルノ女優が生きていると叔母から依頼を受けたホランドは渋々再調査に乗り出す。一方その頃、便利屋で腕っぷしの強いジャクソン・ヒーリー(ラッセル・クロウ)はアメリア・カットナー(マーガレット・クアリー)という女性に身辺を探る人間を一掃して欲しいと依頼される。こうしてジャクソンはアメリアの素性を付け回るホランドをボコボコにする。依頼は成功したかに見えたが、彼の帰宅を殺し屋オールド・ガイ(キース・デヴィッド)とブルー・フェイス(ボー・ナップ)が急襲する。何か大掛かりな組織が裏で暗躍するのを確認したジャクソンは、先ほどボコボコにしたホランドに400ドルで捜査を依頼するのだった。

 当初は水と油だったラッセル・クロウとライアン・ゴズリングが、犯罪解決のために立ち上がる相棒アクションと言う物語の骨子は、真っ先にシェーン・ブラックが脚本を書いたリチャード・ドナーの『リーサル・ウェポン』シリーズのメル・ギブソンとダニー・グローヴァー、初監督作となった『キスキス,バンバン』のロバート・ダウニー・Jrとヴァル・キルマーの関係性を想起させる。互いに国家権力からは距離を置くアウトローである私立探偵と示談屋は結託し、そこに加わる13歳のホランドの娘ホリー・マーチ(アンガーリー・ライス)のアクセントが心地良い。ミスティの殺人とアメリアの失踪の因果は主人公2人を交差させ、恐るべきLAノワールの闇の中へと引きずり込む。物語はPTAの『ブギーナイツ』のようにいかがわしき70年代のポルノ産業と、同じくPTAの『インヒアレント・ヴァイス』のようなドラッギーで不明瞭なフィルム・ノワールの世界を彷彿させながら、やがてアメリカの巨悪が突如顔を出す。EW&Fの演奏場面、ポカホンタスごっこをしたホランドの突然の落下、『私に乗りたい?』という名のいかがわしきポルノ・フィルム、自動運転とハチの乗車など幾つもの映画的な断片の羅列は夢遊病的な要素を孕みながら真実へと向かう。クライマックスの描写を含め、シェーン・ブラックのさじ加減はLAノワールよりも、コメディ・タッチのアクションに力点があったのは明白だが、ライアン・ゴズリングの迷宮演技とマーガレット・クアリーの可憐さが妙に善戦している。悪役のキャラクターもことごとく魅力的なライアン・ゴズリングの見事な快作である。

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