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【第1242回】『奪命金』(ジョニー・トー/2011)


 金融都市、香港。妻から新しいマンションの購入をしつこく相談されている香港警察のチョン警部補(リッチー・レン)は仕事を口実にいつも話を逸らす。銀行に勤める成績下位の金融商品営業担当テレサ(デニス・ホー)はノルマ達成のため、中年の女性顧客チェン(ソン・ハンシェン)に、躊躇いながらもリスクの高い投資信託商品を売り付ける。気がよくて人望の厚いヤクザのパンサー(ラウ・チンワン)は、逮捕された兄貴分のために保釈金を作ろうと同郷の投資会社社長ドラゴンに相談する。3人それぞれが金銭の悩みを抱えていたところにギリシャ債務危機が発生し、金融資産が突然の下落。投資家たちは大騒ぎになる。21世紀に入り、トーは香港の様変わりする現状を闊達に描写した。香港のイギリスから中国への返還、SARSによるパニック、リーマン・ショックに揺れるビジネス業界。そこに描かれるのは何の変哲も無い市井の人々であり、香港経済の末端を生きる裏社会の人物たちや、香港経済を牛耳っている人々を階級関係なく描写してきた。今作では登場人物たちは普段はまるで関わり合いのない世界に生きていながら、ギリシャの債務危機により、それぞれの環境が交錯していく。その様子を時系列シャッフルとアンサンブル・プレイで描写する様は、さながらタランティーノの『パルプ・フィクション』のようである。

 金融商品営業担当テレサ(デニス・ホー)は営業成績が悪く、上司に無視され、何とかノルマを達成しようと必死である。そこへ運悪く、年金暮らしの中年女性(ソン・ハンシェン)が現れると、テレサはあの手この手で熱心に売り込む。金融商品の投資話は、後々売った売らないで話が揉めるため、契約書の他に、会話の内容まで録音している。お金に差し迫られた中年女性と、ノルマに追い詰められたテレサの間柄では、どんどん話が進んでいくのは止むを得ない。中年女性はあまり内容を把握しないままに、契約書にサインをしてしまう。それが後々、不幸を巻き起こすことになる。ヤクザのパンサー(ラウ・チンワン)は昔ながらの仁義を重んじるヤクザであり、最近流行りの経済ヤクザや情のないチンピラとは一線を画す。当初は逮捕された兄貴分のために保釈金を懸命に作ろうとかつての仲間を頼るも、警察のヤクザ一掃作戦により、すぐに資金繰りに困窮する。最後の頼みの綱として、同郷の投資会社社長ドラゴンに相談するが、最初は気のいい返事だったドラゴンも、ギリシャ債務危機の発生により、万策が尽きる。もともとパンサーには2人の舎弟がいたが、彼らは金の工面に困るパンサーの姿を見て、すぐに足を洗ってしまう。ここにも21世紀のジョニー・トーのヤクザへの思いがしっかりと顔を出す。イギリスから中国への香港返還を経て、ヤクザのあり方が180度変わってしまったことを示す象徴的な場面である。

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